第14話 うすら寒い茶番の結末
「ありがと、ありがとね……。本当に楽しかった……私の一生の思い出……あなたのおかげよ……」
「私も楽しかったです。こういうバンドのライブとか参加するの初めてで……」
なんて、心にも無いことを言ってみたり。
本音はあんまり楽しくありませんでしたが、おばあさん、ご満悦のようで何よりです。
三時間以上に及ぶスタンディングで足腰の方は大丈夫だったのでしょうか。
正直、私はただただ疲れましたね……。そんなこと、口が裂けても言えませんけど。
「あんたたちも、ありがとね……。落ち着いて、話し合ってくれて……」
「ああ、いや……話し合ったとかじゃなくて、なんつーか……」
「すまなかったなぁ、婆さん……。礼なら、その嬢ちゃんだけに言ってやりな。俺様たちは、危うくあんたの楽しみを台無しにしちまうとこだったんだ」
「そうだ、悪かった! すいませんでしたァッ!」
アロアルとジフトールはすっかり牙を抜かれ、借りてきた猫のように大人しくなりました。
彼らはこの後、一体どうするつもりなのでしょう。……まあ、別にどうでもいいか。
自分から首を突っ込んでおきながら言うことではありませんが、もう関わり合いになりたくないですね。
おばあさんは首に下げていた金ぴかのネックレスをおもむろに外し、私へ恭しく差し出してきました。
「これ、よかったら貰ってちょうだい。もし要らなかったら、売り飛ばして。たぶん、結構なお金になるわよ」
「ええ!? ダメですダメです! 受け取れませんって! 当たり前のことをしただけなので! そこに犬が居たら“ワン”と鳴く事くらい当たり前のことなので!」
「だから、どういうことだよ、それ」
「お願い……私の気持ちだから……っ! それにね、これ以上に価値のあるモノを……あなたは私にくれたのよ……。本当に、ありがと……。今日のあなたはね……ふふっ……言わなくても解るでしょう?」
別れ言葉代わりの含み笑いを最後に、おばあさんは悠然と去って行きました。
私は手元に残った感謝の品をまじまじと見つめ、ゴクリと唾を飲む。
結構なお金になるということは……純金でしょうか。
百年以上前から続く世界情勢の不安定さにより、金の資産価値は指数関数的に高騰し続けていると聞きます。
「ど、どどどうしよう……」
「貰っておけよ。後生、大事になッ!」
「うぅぅ……絶対、失くさないようにしなくちゃ……っ」
「グワッハッハッハッハ! まったく、予想外の展開だったじゃねぇか! お前ら二人とも最高に面白かったぜ!」
豪快に笑うジフトールの側に、無人のスポーツカーが寄ってきてシザーズドアを開く。
『お迎えに上がりました、大統領』
「おう、サクラ。待たせたな」
『おつかれー』
車高が低いのか、少し入りづらそうにしてから助手席へと乗り込む。
早々に退散してくれるようで助かりました。もうこれ以上の面倒事はごめんです。
「帰るのかよ。ガイアク回収はもういいのか?」
「ああ……本来の目的は、ただの敵情視察だったからな。その点、大いに収穫はあった」
ドアが閉まり、そして窓から顔を出すと、ジフトールは二本指だけで敬礼しました。
「あばよ、ハートマン! また会おう! 嬢ちゃんの方は、もうあんまり無茶すんなよぉ!」
『さいならー』
爆音のバブリングを鳴らしながら車は走り去り、残った私達はそれを無言のまま見送る。
賞金を懸けられたテロリストのくせにだいぶ目立つな。
……って、あれ?
もしかして、私、セブン様たちの邪魔をしただけなんじゃ……。
やったことに後悔はないと宣ったばかりですが……早くも前言撤回しそう。
「じゃ、オレも帰るか! はぁぁぁぁ……すっげえ楽しかったッ!」
「楽しかったって……遊んでるつもりだったの? ていうか、なんなんですか、あなた……」
自分を棚に上げて言っちゃいますけどね。
お前こそ、なんなんだ。
今日はマジで様子がおかしかったよ、私。
「オレはアロアルだ! 今朝も、そう名乗ったろ?」
「いや、そういうことじゃなくて……まあ、いいや。じゃあ、私も買い出しとかあるんで、失礼します……」
さっさとこの場を離れることにしましょう。
本当になにがなんだか解らなかったけれど、これ以上、余計なことを考えるのは止めておきます。
今日一日の出来事を振り返ったところで、全てがうすら寒かったという感想しかありませんし。
でも終わってみれば、他の誰よりも私が茶番を演じていましたね。
傍目にはさぞかし滑稽だったことでしょう。
あー、恥ずかしっ。
「あ……おい!」
なんか呼び止められた気がしますが、華麗にスルーさせて頂きます。
ウィンドウショッピングをする予定だったけど……コア・セレモニーやら安っぽいヒーローショーやらライブハウスやら……色々あって疲れたし、いっか。
明日も仕事で早いしね。ミズエリアへ戻って、家の近所にある格安スーパーで食材だけ買って帰ろう。
あーあ、結局、休み無駄にしちゃったな。
「おい、待てって!」
グイグイ男めが足早で逃げようとする私の腕を掴み、強引に引き留めました。
もう、こんなことをされると知らんぷりもできません。
「……な、なんですかぁ?」
「一緒に来てくれよ! オレと付き合ってくれる奴を探していたんだ!」
「はぁ?」
「お前しかいないんだって!」
「ちょっと、そんな……急に……困ります……そういうの……」
「心配すんなよ、オレ達二人なら上手くやれる!」
「いや……だって、今日、会ったばっかで……何を根拠に言って……」
「頼むよ……完全に惚れ込んじまった……! オレは本気なんだよ……!」
ええ、解っていますよ。
大概、この手のパターンでは思っていた話と全く違う内容でした~ってオチなんです。
ベタ中のベタ。使い古された脳死のテンプレ。
むしろ、最近のラブコメでは安易なすれ違いコントなぞ差し込まないかと思われます。
にも関わらず、あろうことかこの現実で、まだうすら寒い茶番を続けるというのですか……いい加減に勘弁してほしい。
だけど、ガチでそっちの意味だという可能性が、少しくらいあったりなかったりして……。
「大丈夫だ! もし、何かあったとしても……オレがお前を支える! ずっと側にいる……!」
たとえその場合でも、お付き合いすること自体は吝かでもないと申しますか、遊びじゃないなら、ちょっとくらいは考えてもいいかなぁ~……なんて思ったり、思わなかったり……。
いえいえ……決して、断じて、そんなに軽い女では……。
まあ、正直、顔はカッコいいと思いますけど……。
「だ・か・ら・よっ!」
目の前に、そのお顔をずいっと近付けてきました。
ドッキンと、周囲にも聞こえてしまうんじゃないかって錯覚するほど心音が跳ね上がります。
不意打ちを食らい、硬直してしまったため、紅潮を誤魔化すことすらままなりません。
それ故に、とてもふざけているとは思えない真剣な顔つきを直視してしまう。
いや、まさか、まさか……そんなわけないって……。
ない……よね……?
腰に手を置きながら深く一息吸って、アロアルは破顔し、ついに告げたのです――
「お前も一緒になろうぜ、ハートマン!!」
「えっ……お断りします……」




