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第12話 燃えたぎる情熱エナジー

 目を疑うような光景にも、そこそこ見慣れたつもりでいましたが、やはり現実離れしすぎている……。

 例の決め台詞アレンジを高らかに宣言した次の瞬間、アロアルの全身を炎の如く赤いオーラが包み込みました。

 髪の毛も発光し、羽織っていた上着の色まで変わっています。


「スゥゥゥパァァァァ!! サニーサイドアァァァーーーーーップ!! 心の底から湧き上がる情熱が、これより道を切り開くッ!!」


 アロアルが拳を突き上げながらそう叫ぶと、何故だか、その背後で爆発が起こりました。まるで特撮の演出みたいに。

 もしかして、ゲリラ的なヒーローショーでも始まったのでしょうか。


『あ、コイツだよコイツぅー。ほらあ、だから言ったじゃん。誰も信じないんだからさあ、まったくぅー』


「グワッハッハッハッハ! 悪かったな、サクラ! 確かに現れた! 自分を『ハートマン』だと名乗る輩がな!」


「ん? なんで知ってんだ? けど、少し違うぜ! 正確には、──ハートマン三号だッ! よ~く覚えておけッ!」


 何一つとして要領を得ない会話が繰り広げられておりますので、どうやら見世物ではなさそうですね。たぶん。

 アロアルとジフトールはさながら宿敵同士かのように対峙し、険しい顔つきで互いに歩み出して距離を縮めます。


「さっきの映像……。ここの住民を攫っていくつもりか!?」


「だったら、どうするよ?」


 鼻先がくっつくほど、両者、にらみ合っております。いっそチューする気か。

 一体どうなるのか、事の顚末を見届けるつもりでいましたが……なんだか茶番じみてきましたね。

 仮に路上パフォーマンスの類いであったとしても、ハートマン役の解像度が低すぎるし、そうなってくると見ているだけ時間の無駄だし……やっぱり、もう帰ろうかな。


「絶対に止めてみせる……そして、荒み切ったお前たちの心に注ぎ込んでやるぜ……ッ! このオレの……『燃えたぎる情熱エナジー』をなぁッ!!」


「ほぅ、なかなか肝が据わった兄ちゃんだ。この俺様を前にして、たじろぎもせず、一歩も引かないとはな。……にしても、さすがに近すぎるな……ちったぁ離れろ」


「あ、わりぃ……」


 急に冷静になって飛びずさり、二人は再び数メートルの間合いを取りました。

 しばし沈黙のままその場で身構え、どちらも動く気配がありません。


「ンフフ……あくまでも待ちの姿勢ってヤツか?」


 若干、気まずい空気の中、口火を切ってくれたジフトールは背中からハンマーを抜き払う。

 よく見ると、鉄球も付いていました。ハンマーっていうか……ひょっとして、あれは、()()()


「まあ、いい。こっちが先に手を出さなきゃあ、ヒーロー様を立てられねえ。……いいぜ、見せてやる。セブン様から頂いた"闇玩具"の力をな……!」


 天に掲げるようにしてそのけん玉を大きく振りかぶり、


「雷轟の火花散らせぇッ! 『華氏451度(ファイヤーフライ)』ッ!!」


 わざわざ技名を叫ぶバトル漫画みたく声高らかに吼えてから振り下ろすと、そこから出現した光球が蛍火のごとく縦横無尽に宙を駆け巡り、稲妻を発生させました。

 次の刹那――眩い閃光と大きな破裂音が辺り一帯に広がる。

 白煙も立ち込め、視界もままならない状況の中、パニックで悲鳴とどよめきが起こっています。

 ――それら全てを一蹴するようにして、全身から迸る謎のオーラを放出させ、アロアルは姿を現しました。

 おそらくは電撃を直でくらったのでしょうが……ピンピンしております。

 そして、不敵に笑っていました。 


「ははー、なるほど。どうやら本物らしいな。ヒーローの力ってヤツは」


『手伝う?』


「いいや、手を出すな。……だが、データ収集の方は頼むぜ。俺様が奴の能力を可能な限り引き出す……!」


『おっけー。無茶すんなよー』


 そう言って、気怠い女の子の声を発するドローンは何処かへ飛んでいきました。

 特に対処はせず、黙ってそれを見送ったアロアルは小指で耳穴をほじくりながら欠伸をします。


「どうしても闘うのか……。話し合いで解決したっていいんだぜ?」


「そうしたいのは山々だが……生憎、時間がなくてな。あんまり長居してると包囲網ができあがっちまう。さっさと仕事を済ませて帰りてぇ。……ま、邪魔しねえってんなら、お前さんとやり合う必要もないがな」


「ガイアク回収……だろ。ふざけんな。そんなこと、このオレがさせねぇ!」


「だったら、これで話し合いは終わりだ。四の五の言ってねぇで、おっぱじめるぞ! ハートマン!」


 地面を踏みしめ、ほぼ同時に駆け出した彼らは激突し、大気を衝撃波で揺らしました。

 己と拮抗する力に驚いた様子のアロアル。ジフトールは冷や汗を滲ませながらも挑発的な笑みを浮かべる。

 アロアルも嬉しそうに笑って、そのまま相手を突き上げ、自らも跳躍してさらなる追撃を加えます。


「ジフトールつったなぁ! お前、なんでセブンのやることになんか加担している!?」


「知れたことよ! どんな悪さをしても、決して裁かれることの無い犯罪者共! そんな連中を野放しにしているこの世界には、ほとほと嫌気が差したのさぁ!」


「だからってなぁ! テメェらの勝手で人攫いなんてしていいわけないだろ! ガキみたいな理屈を並べて、好き放題に暴れ回ってんじゃねぇ! 無理矢理、歌って踊らせやがって! 見ているこっちが恥ずかしくなるぜ! 馬鹿野郎ッ!」


「グワッハッハッハッハ! 違いない! だがなぁ、ハートマン! 誰かがこうでもしなきゃあ、現状は何も変わらねぇ! 誰もやらないなら俺達がやる! そして世界を変えてやる! ヘブンリー・マスター・セブンの下でなぁ!」


 と、以上のやり取りを交わしながら、ビル群の合間を縫って空中戦を繰り広げております。

 舌でも噛みそうなもんですが、よくあれだけ口が回りますね。やっぱり、役者さん?

 ていうか、なんでこんなにうるさい人ばっかりなんだろう……。

 まあ、人間、元気があってなんぼだよね。そこに関しては私も見習うべきなんでしょうか。

 無駄にエネルギーが有り余っていたら、あんな風に、周りの迷惑など考えない人達に成り果てるだけかもしれませんけれど。


「ちょっと! ダメです! 入らないで下さい!」


 見物人の数が多くなってきました。

 間近で能力者同士の闘いが見られるとあらば、野次馬が集まってくるのは必定であり、図らずも私はその最前列なんぞにおりましたから、もう、これじゃあ、簡単には抜け出せません。

 うぎゃあ……もっと早く帰れば良かったぁ……。判断が遅れましたね。

 人がぎゅうぎゅう詰めとなって、もはや誰も身動きが取れない状況。

 そんな中、警官の制止を無視し、一人のおばあさんが規制テープから身を乗り出したのです――



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