第11話 ガールミーツヒーロー
「ハロォ……ファッキン☆ワールドォ……。そんで……はぁ~い、親が金持ってること以外になぁ~~~~~んの能も無い皆すわぁ~ん……おはよーございま~す。最カワなるぅ……全能なるぅ……偉大なるぅ……ボクサマこと、ヘブンリー・マスター・セブンでぇ~す……。本日は寝起きテンションでーす……はーあ」
欠伸をしながら随分とやる気の無い挨拶。
やっぱり、なんか元気ないな……。
ふざけんなよ、出てくんな、迷惑なんだよ、早く捕まれテロリスト、お前のせいでウチの会社倒産したぞー、とっとと失せろ、引っ込めー、と群衆からブーイングの嵐。
さらに囃し立ての帰れコール。
皆さん、日頃の鬱憤をここぞとばかりに放出しています。
「えぇ……なによ、開幕早々に……。ヒドいこと言うねぇ……。ホント、人としてどうなんですかァッ!? それェ!?」
野次に対しての逆ギレなど、もちろん火に油であり、憤激の熱はさらにヒートアップ。
沸き立つ有象無象に少しも怖じ気づくことなく、セブン様は呆れたように嘆息しました。
「やれやれ……キミらさぁ……何も悪いことをしていない人に対して、日頃から散ッ々、侮辱の言葉を投げかけてきたくせしてさぁ……。いざ自分にそれが向けられた日にゃあ……そうやってさァッ!! ギャーギャーギャーギャーギャーギャー、とさァッ!! バカみたいに騒ぎ立てるんだよなァッ!? 自分の時だけ、世紀の大問題みたいに取り沙汰するんだよなァァァーーーーーーーッ!? うわぁぁ……誹謗中傷だぁ……訴えてやるぅぅぅ~~~~……つって。自分が今まで言ってきたこと、やってきたことを全部、棚に上げて……ホント、よう言えるよな……。はぁーあ……もう、呆れ果ててしまいますよ……。今日も今日とて、『おしゃぶり式・物の考え方』が炸裂しちゃってますねぇ……。おしゃぶり野郎ぉ……おしゃぶり女がぁ……性懲りも無く汚いツラかましやがってぇ……辟易……へきえき……」
いうて憎まれ口は健在のようなので、そこまで心配する必要もなかったみたいですね。
平気なフリをしているだけかもしれませんが。
「いやねえ、ボクサマも、いい加減、そろそろぉ……ウンザリしてきたからさぁ……。この膠着状態ってヤツ? を、なんとかしたいと思っているんだよねー。この前、一回オバハンにのされちゃったし……一旦、立て直そうって話になったわけよ。んで、ついにそれなりの準備が整いましたぁ……とさっ! はい、ドォォオオオオオン!!」
その掛け声と共に轟音が響きました。空から何かが降ってきて、道路の真ん中へと着地したのです。
はたして、それはプロレスラーのような覆面を被った恰幅のいい大男。目元にはゴーグルも付け、ついでに巨大なハンマーまで担いでいます。
なんという個性の欲張りセット。
「ボクサマってば、結構、何度も何度も何度も同じようなことばかり繰り返し言っちゃうんだよねぇ……それって、どうしてだか知りた~い~? 教えてやろうかァッ!? お前らガイアク共はァァァーーーーーーーッ!! 聞いてなかったフリが本当に得意だからだよォォォーーーーーーーッ!! 自分にとって都合の悪いことは特になァァァーーーーーーーッ!! それとも、よっぽどのヴァカだからなのかどうかは知らないけどぉ……とにかく、一回話しただけじゃあ、ちゃんと理解してくんないのよ……。だから最低でも、二回は同じ事を言うのが大事なわけ! ああ、やっぱ、馬鹿なのか……? 人の話をちゃんと聞いてないってことだから、やっぱ、馬鹿なのかぁ!? 解んないとこあったら、解らないままにしないで、何回でも上司に訊いて下さいねェッ!! 新しい人、これから沢山入ってきますからぁ……いい職場環境を作れるように皆で頑張っていきましょうねェエエエッ!! いいぜ、何度でも教えてやるよォッ!! その足りない脳みそにきっちり刻み込んでやるぜェッ!! 偉大なるボクサマの言葉をなァッ!!」
ボルテージが上がってきたのか、ようやくいつもの語気を荒げた口調で罵倒し始めました。
「人を不快にさせるか、死にたい気持ちにさせるしか能が無い……ガイアク共めェッ!! もう一回言うぞォッ!! 人を不快にさせるか、死にたい気持ちにさせるしか能が無いガイアク共めェエエエッ!! 金を持ってても食うか遊ぶか服買う以外には使わないボケナスゥゥゥーーーーーーーーーッ!! なんんんんの生産性も無いブタ共ォォォーーーーーーーッ!! ぜぇぇぇいんッ!! 入獄しくされやァァァーーーーーッ!!」
そこからしんと静まりかえった絶妙な間があって、思う存分に叫び、それで満足したのか、落ち着いた様子のセブン様は、大きな瞳だけの顔でニコニコと微笑みながら手を振りました。
「ほんじゃ、今から時代遅れの能力バトルが始まっちゃいますので、ボクサマはこのままどろんしちゃうね……ど~せ、見ててもつまんないっしょ。というわけで、おつわーるど! トゥードゥルー♪」
映像が元に戻り、その場に残った大男もまた、立派な口ひげをたくわえた顔でニカッと笑う。
……って、よく見たら覆面自体に付いているヒゲっぽいですね、あれ。
「能力者機構アウト・オブ・コントロール所属、内柔外剛のジフトール! これよりガイアク回収を行う!」
セブン様のお仲間。しかも初期メンだったと思います。
こちらの方も画像や動画では見たことのある人物ですが、大司教様と同じく、目の当たりにすると想像以上の巨躯に圧倒されてしまいそう。
「さぁて……セブン様に代わって、この俺様が相手になってやる……! 新生活の始まりだ……。テメェらには相応しい部屋を用意してやったぜ……。暗くて、狭くて、クサくて、むさ苦しい六人部屋をなぁ……。せいぜい、みんなで仲良く暮らしやがれ……。なぁに、安心しろ。家賃はタダだ……。飯も食わせてやる。一日中、愉快で楽しい、歌って踊っての運動もできるってなもんだ! 健康的で最高じゃねぇか! 至れり尽くせりだなぁ……グワッハッハッハッハ! さあさあさあさあさあ! テメェら、荷造りはもう済ませたかぁ!?」
剛胆な笑い声に恐れおののいたのか、おしゃぶりを付けた人たちが一斉に逃走。
ただ、おしゃぶりの効果により、暴力などの悪いことはできないよう行動が縛られているためか、どうにも邪魔な通行人を押し退けたりがままならない様子ですね。
「……おっと、逃げても構わんが、そう簡単に撒けると思うなよ。このエリアにいるガイアク共は全員、とっ捕まえてやる。ものの数分でなぁ!」
『つっても、まあ、ほとんどアタシがやるんだけどなぁ……。はーい、それじゃあ、さっさと回収しまーす。痛くないですよー。すーぐ終わりますよー』
ドローンたちがガイアクを一人ずつ捕らえて捕獲用ケージにぶち込み、天へと昇っていきます。
何故だか、警備ロボットまでそれに協力したり、通せんぼをしております。……ええ、なんで?
まるで誰かに操られているよう。
でも、おそらく、そういうことなんでしょう。
それにしても、突発的なガイアク回収とは……。
彼ら、一般人には手を出さないはずでしたけど、方針を変えたのでしょうか。
それはそれで応援しちゃうけどね……。
なんて、この状況を眺めながら不謹慎極まりない愉悦に浸っていると――目の前にドローンが墜落。衝撃で木っ端微塵となり、部品が散らばる。
一体、何が起きたのかと驚く間もなく、次々とドローンやロボットが破壊されていきます。
「よっと!」
地上と空中を目でも追えない超スピードで移動し、ほぼ全てのドローンを撃墜させ、ジフトールの前に降り立ったのは、あのグイグイ男――アロアルでした。
「この力は野郎も女も守るためッ! 悪党を叩きのめすためッ! テメェ自身の熱い心を取り戻すためにッ!」
どこかで聞いたことあるような口上、どこかで見たことのあるようなポージング。
今時、子供でも真似しないその大仰な所作をやり切り、そして、彼はまた、恥ずかしげもなく堂々と言い放ったのです。
「──来い、ハートマン!!」




