20話 差し入れです!
酔い止め薬を手にグウロから滑り降りたヨウキは、観客たちの中を歩く。虚ろな目の集団はただ、うっとりと音楽に聞き入っている。
脇を抜け、演奏者の近くまで行くのは容易だった。
中心で演奏している赤い帽子の小学生くらいに見える女の子、あれがフルド=ノックだ。
近くまで寄ってわかったのは、フルド=ノックも観客とおなじような目をしていることだ。
「あのー、お願いがあるんだけど、これを……」
ギロリ
「ひっ」
フルド=ノックは手を止めずに睨んできたが、怖いのはそれではない。一斉に観客たちもヨウキのことをにらみつけたのだ。中にはオツターの姿もあった。
演奏中に声をかけたから、怒っているのだろうか。
ぞろ……ぞろ……とゆっくり1歩ずつこちらに迫って来る。
「さ、差し入れです!」
怖すぎて、もうどうにでもなれと思ったヨウキはフルド=ノックの後ろにまわって酔い止めを口に入れた。
相手は全員動きが鈍いので自分の接近に気づいてからでは行動が間に合わないはずだと踏んだヨウキ。即座に全速力で人の間をくぐり抜けて逃げた。
不意に空がキラリと光る。隕石のように光が伸びてきてフルド=ノックを差す。色合いは冷たいのになぜだか暖かい青白い光がフルド=ノックの体を包む。
光が治まったころには観客たちは生き生きとした瞳に戻っていた。先ほどまでの、操られているのではないかと思える行動が嘘のようだ。
口々に「あら、私何してたのかしら」だの「確か俺はダチと飲んでて……」だのと状況確認をしている。
「ほっ」
周りの人々が正常に戻っていることに気づいて安堵したヨウキは、グウロとセイカのところに戻ろうと踵を返す。
しかしヨウキは気づかなかった。後ろに赤い帽子が接近していることに。
「ひゃあ!」
背後からニュっと手が伸びてきた。反射的に振り返る。フルド=ノックだ。ヨウキは捕まってしまった。
「ん?」
ぎゅー
スリスリ
「んんん?」
おかしい。
なんだか捕まえられたというよりも、抱きつかれたという表現の方がピッタリかもしれない。好かれた……のだろうか。
幼いわりによく育っている感触が背中に二つある。まずい……違うことを考えよう。
(それにしてもほんとに酔い止めが効いたのか……この世界の乗り物酔いって症状おかしくないか? まあよくわかんないけどいいや)
なんにせよ、無事解決っぽくてなによりだ。
ヨウキはフルド=ノックのことを小さい女の子だと思っていますが、年齢は不詳です。




