19話 不帰都市に着いたぞ
不帰都市の一体どこに出たというのだろう。辺りは大きな白い怪物のような氷が立ち並ぶ銀世界だった。
グウロに乗っているセイカとヨウキよりも樹氷の方が背が高い。
「人、いないね」
「誰も巻き込まないようなところに出たんだろ、グウロさん?」
「ガウガウ(そ、その通りだ、ヨウキ様……)」
本当は不帰都市の領主のいそうな場所に出たかったが、あまりにも転移が久しぶりすぎて出現場所をミスした。
良い方に解釈してくれているので余計なことは黙っておくグウロであった。
「ガウガウ(人里へ向かおうか)」
白い樹氷が次から次へと後ろに流れていき、建造物があるところが見えてきた。
「ガウガウ(ここの領主の名はフルド=ノックという)」
「古戸を……ノック?」
「ヨウキ、ボロボロな戸を叩くみたいに言わないであげて。違うから」
セイカは聞こえないくらいの小さい声で「……きっと」と付け足した。
街の入り口までついたので中へと入る。しかし人が全くおらず、静かだ。
中央部へと続いていそうな鶯色のレンガ道を進んでいく。
どこからかヴァイオリンの音が聞こえ始めた。
ヨウキはグウロの乗り心地が悪くなったのを感じた。不安定になったという方が近いだろうか。グウロがフラフラした足取りになったのだ。
「グウロさん、疲れたならおりようか? ……おーい、グウロさん?」
返事はない。だが、このまま足もとが覚束ないグウロに乗っているのも落ちそうで怖い。
「姉ちゃん、何か安全におりれそうな物とか持ってないか?」
もはや四次元ポケットを持つネコ型ロボ扱いをしながらヨウキは軽く振り返った。
「……」
セイカはボーッとしていた。目に光はなく、返答もしない。グウロが歩く振動で体が揺れるだけだ。
ヨウキは気づいた。姉ちゃんは酔ったんだな、と。口を開いたら吐きそうなのかな、と。
「ちょっと待ってろよ、姉ちゃん!」
体の向きを変えて異世界用持ち出し袋を漁り、酔い止めを探し出す。
「自分で……は飲めなさそうだな」
ヨウキは個包装を開ける。セイカの顔を少し上に傾け、薬を口に入れた。
「……!」
セイカはびっくりした顔をして口を閉じた後、コロコロと舌の上でソーダ味の薬を転がした。
先ほどよりはしっかりした面持ちでセイカは口を開いた。
「ヨウキ……、いい? あの辺りに赤い帽子の子、いるでしょ?」
セイカは指をさす。
いつの間にか街の中央部まで来ていたらしい。グウロの上からは人の頭がたくさん見えるし、演奏者もよく見える。これがコンサートだったら特等席だったかもしれない。
目立つ赤い帽子の女の子は人の集まりの中心におり、ヴァイオリンを弾いている。
「いるな」
「あの子も、乗り物酔いしてるから」
「そうなのか!?」
もうわけがわからない。
「私……しばらく動けそうにないから」
「気分が悪いんだろ? 無理するなよ」
「ありがとう。そしたら……私の代わりにフルド=ノックにこれを飲ませてきて?」
「わかった」
渡されたのは、酔い止めだった。
選ばれたのは、酔い止めでした。(某お茶のCM風)




