21話 聴いていたくなったけど(セイカ視点)
ドクン
不帰都市の街中に入って少ししたとき、セイカを強い動悸と世界がグラグラとしてブレるようなめまいが襲った。
昨日の地底都市からの帰りにグウロに乗ったときは酔わなかったが、グウロに揺られた上での強烈なめまいは脳の平衡感覚を狂わせるのに十分だった。
つまり酔った。酔い止め薬を取り出そうと異世界用持ち出し袋に手を伸ばす。
〜♪
めまいがようやく治まったセイカの耳にどこからか聞こえるヴァイオリンの音。
「……」
音を聞いていると頭がボーッとした。
一体、自分は何をしようとしていたんだっけ。どうでもいいや、そんなこと。とにかくこの演奏を聞いていたいな。もっと近くで。
ずっとずっとずっとずっとずっとずっと――
「……!」
突如として、セイカの口にソーダ味が広がる。
どこにも焦点の合ってなかった目がしっかりと前にいるヨウキを捉えた。ヨウキがセイカの口に酔い止めを入れたことを理解する。
ほとんど聴覚からの情報しか処理していなかった脳に、視覚と味覚からの更新情報が同時に送られて演奏から気が逸れた。
「ヨウキ……、いい? あの辺りに赤い帽子の子、いるでしょ?」
人々の集まりの中心をセイカは指さす。ヨウキは指先をたどって顔を動かした。
「いるな」
「あの子も、乗り物酔いしてるから」
「そうなのか!?」
あの女の子も、きっとあのめまいと動悸を感じたはずだと直感的にセイカは理解した。ならば同じように平衡感覚が失われているだろう。正気に戻したときに気分が悪くなっているのは可哀そうだ。
「私……しばらく動けそうにないから」
「気分が悪いんだろ? 無理するなよ」
「ありがとう。そしたら……私の代わりにフルド=ノックにこれを飲ませてきて?」
「わかった」
酔い止めをヨウキに渡した。
(これで一瞬でも演奏が止まってくれれば、どうにかできる……!)
少しでも気を抜くとまた、この演奏に魅入られてしまうだろう。どうにか意識を味覚に集中させて音の途切れ目を待つ。
途切れた!
「星の力よ 満悦を得た我に応えて 始末する者フルド=ノックから 星の鼓動による反作用を消し去れ」
生粋の日本人なのに珍しい、セイカの空色の瞳が光る。その輝きに呼応して空もキラリと光る。
隕石のように空から伸びてきた光がフルド=ノックを貫いて動きを停止させたあと、体を包んだ。
フルド=ノックを包んでいた光が治まる。これで大丈夫だろう。
(それにしても、余裕なくてそのままやっちゃったな~。次はグウロの時みたいに物に魔法を籠めてもうちょっと小規模に……)
セイカは心の中で呟いた。
セイカがセイカマジックを使ってます。強そう。




