かりそめと実質
王宮からは一部を除いて軍を帰還させるようにという指令が来た。
敵軍の進軍を阻むために破壊した道は我々が直す羽目になった。
「それで、王宮はどうなっているんだ」
「王太子は廃嫡、王は蟄居そして、あの女は毒杯を賜ったと」
身分の低い女の命は塵より軽い。だからこうなったとき、あっさりと殺された。
カリカリと羽ペンが髪をひっかく音が聞こえた。書類をのぞき込む白い横顔。
「あの、大丈夫か?」
カタリナは無言でペンを動かしていた。
「何がですか?」
表情のない顔でそう言った。
これは言わないほうがよかったと思わず後悔した。
もともと婚約していた相手だ、それが廃嫡となれば心境は複雑だろう。
「これで戦争は終わりますね。それなら勝ったも負けたも関係ありません」
カタリナは静かな表情でそう言った。
「これでよかったと思います」
確かにあのまま戦況が進んでいたら今より悲惨な状況になっていた可能性はある。それでも心境は複雑なのだ。
「これで、二度と戦争は起きないでしょう」
静かにそう言った。
「私があちらに提案をしたのですから」
「提案?」
私はそう聞き返した。
「王太子を排して王女殿下にかの国から婿を取ることにしてはどうかと」
「は?」
今聞いたことは頭に入ってこない。
「やはり、恨んでいたのか」
「いいえ違います、恨みではありません。私はこの状況をどうすれば打破できるかそれだけを考えて行動しました」
カタリナの顔に嘘はなかった。
「あちらの悲願さえ叶えてしまえばもう、こちらに戦いを挑む理由がなくなりますね」
「だが、それでは」
それではこれまで他かかってきたことがすべて無駄になる気がした。
「いいえ、戦いはこれからです。ですが戦うのは軍人ではない。文官たちです。あの国の利権そして支配権をかりそめの敗北、かりそめの勝利の陰でどれほど奪えるか」
私はカタリナがどんな顔をしているか見ることができなかった。
「名目上の敗北でも実質、勝つのは私たちですわ」




