愛は無力
王と王太子は玉座に追い詰められていた。
二人とも何が起きているのか理解できないのか呆然としている。
その周囲には廷臣が二手に分かれていた。
片方は弾劾し、もう片方はただ沈黙する。それは完全に拮抗しその状態で静止していた。
壮麗な宮廷で歴史上一度も起らなかったことが起きた。
さらにあり得ないのが、今現在隣国と交戦中だということだ。その状況で京で王を弾劾する。通常なら自殺行為と言われるだろう。
その場に遅れて王妃が現れた。王妃は常に変わらぬ豪奢な衣装に身を包みその頭上のティアラを光らせてゆったりと歩いてきた。
王と王太子が恐怖に縮こまっている姿とは対照的だ。
その背に背負った国旗を刺繍されたマントが揺れる。
「私は彼女に、毒杯を与えました」
その声は雷のように周囲の空気を切り裂いた。
「母上、何故?」
王太子がその場に膝をついた。そのままさめざめと泣きだした。
「私は感情ではなく、国益について行動せよと教育されました。愛も憎しみもない。ただ国益だけを見つめよと」
王妃はそう言って悲し気に目を伏せた。
「すでにあの子は息を止めています。次は貴方たちの番です」
そう言って王妃は夫と息子を見た。
「貴方たちもまた、そう育てられたはずなのですがね」
周囲に漂った悲哀は一瞬で消え去った。
「国を害する貴方たちに国政に携わる資格はありません」
王と、その周囲に寄り集まった廷臣たちはただ沈黙する。そして王太子の嗚咽だけが耳障りに聞こえるだけ。
弾劾する側の廷臣たちが王と王太子を引き立てていった。
それらを見届けた後、王妃はその場を離れた。
「よろしいのですか?」
王妃の傍らに来たのは親族の娘だ。その妹が王太子の妃に内定していた。
正直、これで肩の荷が下りたと思っていたのだが。
「私は国益のために生きているのよ」
そして涙をハンカチに吸わせた。
「王太子の心はもう戻らないでしょう、今でも私はこんなにも悲しい」
「そうですか」
「あの子と話していると、あの子がどれほど卑しい娘か、そのさもしさもはっきりわかるのに、どうしてこんなにも愛おしいと思うのか本当に不思議」
娘は忌々しげに唇をかんだ。
「幼いころからの教育は恐ろしいわね。私はそれゆえ、愛をねじ伏せてあの子に毒杯を進めることができたわ」
「そうですね」
「後は、手はず通りに」
娘は一礼した。あとは娘の夫がうまくやるだろう。




