ないものはない
私は首をかしげた。明らかに書類と目の前の物資の量が違っている。
「これはどういうことでしょうか」
私のような若輩の女にそう言われても相手はプイっと顔をそむけた。
「あっちでもいろいろと滞っているんだよ」
そう言われても、私は物資と書類の照らし合わせのためにここにいるのだから明らかに足りていないのに何も言わないわけがない。
「足りない物資は遅れて届くのでしょうか」
「わからない」
そう言われても困るのだけど。わからないじゃないのだ。膨大と思われた食料はものすごい速さで減っていく。軍人の食欲をなめていた。
「こっちもか?」
背後から声をかけられて私は思わず飛び上がった。
振り返れば後ろの言いたのは私と同じく事務職に携わっている先輩だ。
短く借り上げた黒髪の下に汗がにじんでいる。
今日はそれほど熱くなかったと思っていたけれど、どうしたのだろう。
「こっちも物資が届かない」
太い眉の間に大きなしわが寄っている。確か先輩の担当は医療品ではなかっただろうか。
「どれほど足りないのですか?」
私の持ち場では三分の二だ。しかし追加で届くかどうかわからないような言動をとっている。送還枯れ場これは長く持たない。
「足りないなんてもんじゃない、まったくないんだ」
「まったくないって」
毎日のように怪我人が出ているのだ。医療品はどんどん使われているはずだ。
「どれほど残っているのですか」
私は背中に冷たい汗をかいた。先輩が額に浮かべているのはどうやら脂汗だろう。
「もう三分の二は使い切った」
戦況を考えればその備蓄はあまりにも心もとない。
王城はここから遠く離れている。離れていればいるほど危機感が薄い。かの国は何度も我が国に攻め込んできた。そして我が国は何度でもそれを退けてきた。
だからこそ余計に危機感が薄いのかもしれない。ちょっとぐらいでも大局に影響はないだろうと考えているのかもしれない。
それは大きな間違いだ。今まで勝ってきたからと言ってこれからも勝ち続けられるとは限らない。
負けるときは負けるのだ
常に薄氷の上の勝利だった。
「これから准将に報告してくる」
肩を落としながら速足で先輩は報告に行く。
その後姿を見送った後、まだ待っていた運送係を見てため息をついた。
私はやむを得ず受取証にサインをした。そして数量が足りないということを書き込んでおく。
やむを得ない、ないものはないのだ。




