倦怠感
砦を攻めるのは極めて困難だ。通常遠征してくるほうが危険は大きい。こちらが有利だ。しかしただ守っている状況ではいつまでたっても終わらない。
こちらからも軍を動かし敵陣の奥底にいる司令官を狙わねばならない。だが司令官は軍勢の奥底にいる。その場にたどり着くまでは果てしない殺し合いを続けなければならない。
ようやく敵が後退した。
私は砦に戻りそこでやっと兜を外すことができた。
出撃は交代制だ。今日は私の部隊。明日は別の誰かが出撃する。
「本日の被害は死亡二十名、負傷者は五十名です」
数字にすべて置き換えられる。何度も話をしたはずの部下でも、それは変わらない。
それでも相手側の死者ははるかに上だろう。敵の兵力をどれだけ削れるかもこれを終わらせるために必要なことだ。
「撤退はしましたが、結構な死体が残されていますね」
「に追ってくる前に埋めなけりゃならんな」
どこまでも憂鬱な会話を続ける。
人がうずくまっているのが見えた。
「誰か体調不良でも起こしたのか?」
そう思って近寄ってみれば、カタリナだった。壁にもたれて座り込んでいる。
頭を打つ向かせて長い髪がその顔を隠していた。
近づいてみると血の匂いがした。
さっきまでさんざん嗅いで慣れてしまったと思っていたが。
カタリナは軽く首を振って顔をあげた。
顔色は悪い。
カタリナが顔にかかる髪を持ち上げるとその手に血が滲んでいた。
「どうしたんだ」
「すいません、疲れてしまって立てるようになるまでここで座っていたんです」
顔色は悪いそしてどうやら疲労困憊しているようだ。
「負傷者の手当の手伝いをしていたんですが、もう自分の部屋に戻る気力もなくて」
桶で水をくむだけといってもけが人多数で大量の水が必要となりどれほど井戸と負傷者の手当をするための場所を往復したのか覚えていないらしい。
カタリナはため息をついた。
「始まったばかりなのはわかっているんです。でももう終わってほしいです」
カタリナは泣く気力もないほど疲れ切っていた。
「こんなところで座っているな、いろいろと危ない」
生死がかかった場所では自暴自棄になる連中もいるのだ。そんなところに妙齢な美女など存在するだけで危ない。
私はカタリナを無理やり立たせる。
「部屋まで送っていこう」
血のにじんだカタリナの手。おそらく深窓の令嬢であれば血が滲むまで荷物の運搬などする必要もなかったのだ。
「早く終わって」
カタリナのつぶやき。誰もがそう思っている。




