第122話:大成功
ほとんど地の文です。
戦いが始まるまでの内容は後書きの方で簡単にまとめていますので、本文で分かりにくかった方は後書きの方をお読みください。
錬金師キルケ・ケーオンは、傷跡に属する、協力する以前から一つの目的、目標のために動いてきた。
それは、”誰もが魔法使いになれる世界”。
魔術師、魔法使い、魔力を持っている、持っていないに関わらず全ての人間=人類が自由に魔法を使える世界。そんな夢物語の世界をキルケは目指していた。
そのために、キルケはまず魔術師を魔法使いにすることを第一目標に掲げた。
魔術師を魔法使いにする、それはホワイト家が成そうとしている魔術を魔法へと昇華する事以上に過酷なことで、ホワイト家が2000年を掛けて成し遂げていない事、以上のことを成すためにはどれほどの年月が掛かるのか?
まず、キルケは魔奥に着目した。
魔奥とは魔術師が魔術を用いて、魔法レベルの出力を出すために編み出した技術。それは、ある意味では魔法へと、魔法使いへと近づいていると言える。だが、魔奥には習得難度の高さと”詠唱が不可欠”という欠点が存在した。詠唱なしでも行使は出来るが、本来の用途や使用から大きく力は落ちてしまう。
だから、キルケは考え、編み出し、生み出した。
魔術師も魔法使いと同じように”世界との繋がり”を得て、膨大な魔力を手に入れる事が出来る薬物を。
通称『魔法化薬』。
副作用として人体への負荷と魔力回路の損耗などがあったが、効果は確実かつ強力だった。
服用した魔術師は、魔法使い級の技を魔術で容易に行使出来るようになった。しかし、その服用者であったエングは、黒曜濡羽に敗れた。
確かに膨大な魔力は強力だが、急に手に入れても魔術師には扱えないし、魔術には多すぎるのだ。
バケツ一杯の水で十分、水鉄砲を使って遊べていたのに急に水道という無限に溢れる水を手に入れても、水鉄砲には不向きなのだ。
魔法化薬化が失敗に終わり、キルケは再度、視点を魔奥へと戻した。
失敗を得て、気付いた事。それは、魔奥とは上手く出来ているという感心だった。
魔術師の全身に広がる魔力回路を束ね、魔力を生み出す心臓から一本化する事で疑似的に魔法と同等の出力を生み出し、術を行使する。詠唱とはこの一本化を半無意識的に行うための術であり、最適な形で詠唱という補助輪無しではこの一本化が上手くいかないために術効力の低下が起きてしまうのだ。
それなら、薬にてその一本化を完全な形で行えば詠唱無しで低下することなく魔奥を行使出来るようになるのではないか? これが成功すれば、更に魔術師の体で魔法並みの出力を生み出す方法も見つかるのではないか、と。そうして生まれたのは自動注射器を使う『強制魔奥発動薬』と錠剤型の『魔奥復号発動薬』。
強制魔奥発動薬の効果は、体中の魔力回路を強制的に一本に束ね、魔奥を発動するという考えに忠実になって作り出した物だが、この強制があまりにも強力過ぎて副作用として頭が割れていると思うほどの痛みと共に体が異形化してしまうのだ。そして、この異形の姿は服用者によって異なるが共通に長く生きられるようになっていないので服用した時点で死が確定してしまう。だから、唯一のメリットとしてあった魔奥を扱えなかった者でも魔奥を扱えるようになるという点から人間爆弾としての運用方法しかなかった。
次に作った魔奥復号発動薬は強制魔奥発動薬の失敗から学んだ結果を元に作り上げた薬で、これも魔力回路を一本化させるが、その方法は服用者に体に記憶されている魔奥発動による一本化の痕跡を元にそれに沿って、一本化するという物。おかげで異形化の副作用は消えたが、代わりに痕跡が完璧ではない点からその術者の魔奥発動による一本化を完全に再現出来ない点から発動した魔奥は、長続きしなかった。強制発動薬の方は、完全完璧に発動するように一本化するために起こりえなかった欠点だった。そして、大きなデメリットに魔奥を自力で発動出来る者にしか意味がないという事で、この薬も奥の手としての手段にしか成りえなかった。
三度の失敗を得て、私は更に見識と見解を戻ることにした。
それは傷跡との接点がなく、学院に入学する前の頃に行った実験の一つだった。
拾ったバーゲストを唆し、魔生物同士を合体したら面白いかなという好奇心をもとにバーゲストとブラックドッグを切って、接いで得た見識だった。バーゲスト・ブラックドッグと呼べる、その存在は何とどっちの種の力も行使出来たのだ。
肉体を合体しただけで、一人が二人の力を扱えるようになる。そのルールが、もし魔術師にも魔法使いにも適応出来るのなら……結果は失敗に終わった、攫った魔術師二名もバーゲストとブラックドッグにしたように切って、接いだが意識を得た方はその者だけの固有魔術しか使えなかった。そこで私は思い出す、バーゲストのような魔生物が持つ力は魔技に近い、魔技とは”肉体”に宿ると言われている。だから、肉体を繋げたら二つの種の能力が使えるようになったのだ。それなら魔術と魔法が宿るとされる”魂”を完全に繋げる事が出来たら、出来るのではないか?
しかし、その方法は出来なかった。魂を合体するには、魂を理解する必要がある。そして魂とは、概念の一種であり、錬金師である自分では到底理解出来ない物だ。
だが、それも傷跡と協力関係を結んだ事で無くなった。老騎士が所有していた昔の魔法使いが作り出したとされる魔法杖『幽客杖』の力で、幽霊と出会う事で幽霊を通して私は魂への理解を深めた。
魂とは、何も書かれていない紙だ。
その紙に人生という情報が綴られていき、そして魔法と魔術が刻まれているのだ。私は薬を通して、その魂に干渉する術を手に入れたと言って良いが、出来るのは情報の切り取り、そして貼り付けのみで、出来る事は少なかった。だが、その少ない術で私は造り上げた。
『魂魄融合薬』。一組の薬で、片方の魂魄を切り取り、もう片方の魂魄に貼り付けるだけの薬で魂魄の情報を切り取るために切り取られる方は死に至る。
私は顔を歪ませる。
治験として魔術師で実験してきたが、魔法使いで行うのは初めてだ。治験の結果は上々、二人分の魂魄情報を持った魔術師は人ではなくなり、二つの固有魔術を扱う存在と成り果てた。そして処分するのも苦労し、錬金師の研究者五名と警備についていた魔法使い三名を殺し、老騎士の手でやっと死亡した。
魔術師でこれほどの成果を生んだんだ、魔法使いならどうなる? 本当に想像がつかない。
キルケが後退し、結果の行く末を見守っているとガレスは立ち上がった。
そして、行使した。
「『既成施与』」
ガレスが一歩、踏み込む。
長鎌が振るわれ、千利の胸が斜めに大きく切り裂かれる。
少し遅れてシェリー、焼火、鵺の胸元にも同じ傷が生まれ、裂かれる。
「ぐっ」
「くっ」
「うぐぅ」
「かはぁ」
千利とシェリーは反応できなかった。いや、反応を許されなかったのだ。
「殺す殺す殺す殺す……」
キルケは離れた場所で呟く。
「なるほど、そういう主作用と副作用ね……くふ、成功よ……大成功じゃない。殺しなさい、殺し尽くしなさい! その果てに私に、見せてちょうだい!!」
キルケ・ケーオン
目的:誰もが魔法使いになれる世界。
手段
魔法化薬…魔法使い特有の世界との繋がりを与える薬。副作用:人体負荷(魔力回路損耗) 服用者:エング
強制魔奥発動薬…魔力回路を一本に束ね、魔奥を詠唱無しで発動する。副作用:人体異形化、後に死亡。服用者:ヴィヴィアン
魔奥復号発動薬…服用者の魔奥発動の痕跡を元に一本化し、発動する。欠点:魔奥持続時間の低下、魔奥を発動できる者しか効果がない。服用者:久刹
魂魄融合薬…一組の薬で、片方の魂魄を切り取り、もう片方の魂魄に貼り付ける。副作用:切り取られる方の死亡。服用者:ガレス、ブレイク




