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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第118話:遅刻

 夜闇の中で輝く月の光が、二人の顔を照らす。淡い月光のおかげで、二人は夜の今でもある程度の視界は確保していた。それでも数メートルほど先は闇に支配されており、限界があった。

 その限界の端から、一人の男が現れる。 


「ああ〜〜、殺し合おうぜ」


 ガレスはそう灰骨焼火(はいぼね しょうか)夜烏鵺(よがらす ぬえ)に向かって、微笑む。

 彼の周囲には、瓦礫の山で構成された球体が二つ浮かんでいた。

 二人とも、そこにどうしても目がいってしまう。


「ああ? これか……ああ、めんどくせぇし言うか。俺の魔法は施与魔法、「与えられたものを拒否できない」という概念を強制する魔法だ」


 焼火(しょうか)(ぬえ)は内心、驚くが嬉しくもあった。

 魔法使い中には、様々な理由で己の魔法を敵対者に教える魔法使いが、少数だが居るのだ。そんな彼らの理由が教える理由の多くは、魔法という力への傲慢さからとどうせバレるのだからや、戦闘を楽しむためなど様々だが、ガレスの理由はめんどくさいという人間として持つ至極単純でおかしな物だった。


「これは俺の魔法で集めて作って、 俺の周囲に浮かぶように与えた瓦礫の山だ。そして、いつかお前たちの物になるものだったけど、面倒だからこれやめるわ」


 そう瓦礫の球体二つは粉々に散る。

 与えられたものを拒否できない。それが例え、空間に与えられ空中に浮かばなければならなくても、それが刃であったとしても拒否することは出来ない。

 ガレスは懐から二刀を取り出し、腕をダラリと垂らし、刃先を下に向ける。


(ぬえ)。俺が決めるから近接を頼む」


「……そのつもりだ」


 (ぬえ)の変態魔術で身体を変えても、今の(ぬえ)と技量ではガレスを殺せるほどの威力は出せないと彼自身理解していた。

 だから。

 ルナとの戦い以降、見出した新たな変態、進化を。


「変態魔術『変進(へんしん)』」


 そこには何も変わっていない(ぬえ)が立っていた。


「はっ! 失敗したか」


 瞬間、(ぬえ)の姿がかき消えていた。


「……あ?」


 ガレスが呆けた声をあげる。

 一瞬まで数メートルほど離れた場所にいた(ぬえ)が、いつの間にか自分の眼前で振りかぶっていることに気付いたからだ。

 そして、ガレスが反応するよりも僅かに早く、(ぬえ)の右拳が、綺麗にガレスの顔面を殴り抜く。

 勢い良く吹き飛ぶかと思ったが、ガレスは数メートルほど吹き飛んだ所で足で踏み止まり、顔をあげる。


「……良いな」


「やっぱり、無理か」


 (ぬえ)は右手をブラブラしながらさっきの行動を思い返す。

 打撃の瞬間——魔法が行使され、私が拳に纏っていた魔力がブレて、散らされ、あいつの防御に使われた。施与魔法は、他者のモノも奪えるのか? いや、自分に与えさせたのか。


「それにしても……随分、人から離れた体になったな」


「流石に気付くか」


 今まで私は、生物が持つ人には似通っていない容貌が好きで見せ付ける為に変生、部分変態では誰が見てもどの動物か分かるような変化を施してきた。だから、ルナさんに負けた……そして、気付いた。

 私は今まで、私のエゴを基準にこの魔術を使ってきた。だから、私は自分で自分の魔術の真価に気付いてこなかった。これからは、エゴを捨て、己の魔術に向き合って、使おうと誓った。

 変進は外見的特徴ではなく中身を変貌させる。

 変生、部分変態でも外見を変える時に引っ張られて中身も変わっていたが、生物本来の中身とは大きく違い、人を基準として変化だった。

 だからこそ、変進はその生物をベースに人にあった形へと変貌させる。霊長類をベースに肩甲骨と腕の可動域、握力と体幹の安定性をネコ科をベースに背骨のしなりと瞬発力、重心移動の滑らかさを、鳥類を、大型哺乳類をベースに……

 今の私は、人を形を保っているが、中身はあらゆる生物の身体合理性だけを重ね合わせた怪物だ。


「どうした、魔法使い? 掛かって来いよ、一発殴られただけでもう戦う気は失せたか? 案外、小心者なんだな」


 ガレスは笑みを浮かべ、笑い出す。


「ああ、良いぞ、良いぞ。獲物は獲物らしく俺を焦らせ。焦らして、焦らして、興奮させて、死の瞬間を持って俺をイかせろ!」


 瞬間、ガレスは空間ごと引っ張られるように(ぬえ)の元に飛ぶように向かう。

 (ぬえ)も迎撃するように両腕を構える。

 ガレスは(ぬえ)のそばに足を踏み込み、二刀を狙いもなくただ傷付けば良いという感じで無差別に振るう。

 当然、そんな攻撃を防げない(ぬえ)ではない。

 すぐに手をやり、刃に添えて、流そうとするが僅かに早く、ガレスが笑みを浮かべながら溢す。


「選択肢なんて与えねぇよ。『無選択(ノー・チョイス)』!」


「ぐっ……」


 二刀が(ぬえ)の体を切り裂き、刃と服が赤く染まる。

 (ぬえ)は地面に膝を付く。

 それは、冷酷無比な押し付け。

 攻撃を与えることで、拒否(回避、防御)出来なくすることで、攻撃を受けとら(被弾)させる強制必中攻撃。 

 ガレスは唇を舐め、肩で呼吸する鵺を見下す。


「お前らに選択肢なんて最初からねぇんだよ。俺に出会って戦ってる時点で、死っていう選択肢しかな」


 ガレスの背後に焼火(しょうか)が現れる。

 (ぬえ)を一瞥しながら、ガレスに向かって魔術を行使する。


「火葬魔術、『狐火(きつねび)』」


 瞬間、怪しげな火が焼火(しょうか)の掌に生まれ、ガレスに向かって放出される。

 しかし、ガレスは火の行く道を施与魔法で指定することで回避し、焼火(しょうか)に向かって二刀を振り下ろす。

 刃は焼火(しょうか)を切り裂くが、それは陽炎のように揺れ消える。

 ガレスは周囲を見る。

 先ほどまで膝を地面に付けていた(ぬえ)の姿はなく、本物の焼火(しょうか)は、数メートルほど離れた場所に居た。


「幻覚か」


 ガレスの呟き通り、狐火を見た者は幻覚に侵される。

 焼火(しょうか)はその間に、次の術を準備しながら、距離を取る。

 焼火(しょうか)をガレスは追って、また引っ張られるように移動する。


「逃げるなよ、魔術師」


「逃げじゃないぜ。『鬼火(おにび)』」


 (ぬえ)の痛みを元に、強化された紫色の炎がガレスに向かって伸びる。

 妖火シリーズ。

 カールとの戦いで思い知った焼火(しょうか)が生み出した対魔法使い用の火の総称で、狐火と鬼火が該当する。

 先ほどと同じように火はガレスから外れ、左に流れる。。

 しかし、それなら更に火力を強めてしまえば良い。


「うっ」


 炎が、周り一帯を巻き込むほど膨れ上がり、爆炎へと変じ、ガレスの半身を焼き尽くす。だが、その程度で止まるほどガレスはやわじゃなかった。ギリギリで火力を周囲に与えており、火傷を負った程度だった。

 だが、そこには明確な隙が生じる。

 ガレスの背後に、(ぬえ)が現れる。

 傷付き、血を流しながらも、構え、拳を振りかぶる。

 視線が焼火(しょうか)から、(ぬえ)へと移る。


「逸らすなよ」


「ッ……」


 ガレスの足元を中心に六つの火種が生まれる。そして、それらから火炎が渦を巻くように立ち上り、今にもガレスの全身を包み込もうとする。


「天k——」


 術名を紡ごうとする焼火(しょうか)にガレスは割り込む。


「『過剰(エクスセス・)施与(ハンドアウト)』」


 ガレスを中心に周囲一帯に過剰な魔力が一方的に施される。

 その余波で火種は消え失せ、与えられた二人は拒否することも制御することもできず、体内外で魔力が暴発する。

 そして——


「ぐっ」


「がはぁ」


 二人は5メートルほど弾け飛び、建物に大激突する。


「ああ〜〜らしくねぇ、らしくねぇ。俺が、俺だけがこの狩りを楽しんでない、楽しもうとしてない。ごめんなぁ、本当にごめんなぁ」


 ガレスの持っていた二刀は合わさり、長鎌に変わる。

 二人は次の攻撃に備え、魔術を行使しようとするが、先ほどの魔力暴発によって魔力回路はショートしており、魔力による身体強化すらもままならないほどだった。


「さて、どっちから狩ろうかな。獲物が二人いると迷うんだけど……こっちかな」


 ガレスは一瞬で距離を詰め、長鎌を振りかぶる。

 何も出来ない(ぬえ)は今か今かと振るわれそうな長鎌の刃の先端を見る。

 離れた場所からそれを見る焼火(しょうか)が何とか動こうとするが、動いても間に合わないことは確実だった。

 長鎌が振り下ろされる。


「遅れた。すまない」


 鵺の前に現れた男性が、長鎌の柄を腕で抑え、刃の進行を止める。

 それは戦う前に合流しようとしていた魔術師。


「いいな、お前。こいつらより、強そうだ。名乗れ!」


 ガレスの問いに男性は気さくに答える。


茶淡千利(ちゃうす せんり)だ」

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