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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
128/141

第116話:省略

 宗近(むねちか)赫怒(かくど)はブレイクと目線を交差させていた。

 空気が張り詰める。

 先に動いたのは宗近(むねちか)だった。


「——『居合、構え』」


 刀を納め、居合の構えを取った瞬間から彼の存在は鋭利な刃となる。

 攻撃力と敏捷性が一気に跳ね上がり、世界が一拍、遅れた。

 瞬間。


「『居合、抜刀一文字』!」


 直線。

 無駄のない最短距離の斬撃。

 ——だが。


「……斬れてない!?」


 ブレイクは半歩も動いていなかった。

 そして刃は確かに振るわれた。

 だが、斬れたという結果だけが存在しない。


「どうした? 刀剣家の剣士」


 宗近(むねちか)はブレイクの言葉を流しながら、即座に判断を切り替える。


「ならば、数だ」


 宗近(むねちか)は納刀し、『構え』を再発動し、放つ。


「『居合、抜刀八文字』!」


 一瞬で八方向。

 剣術としては完璧な連撃。

 しかし、その斬撃たちの前にしてブレイクは前に出る。

 避けない。

 防がない。

 ただ、行使する。


「——『結果固定(アウトカム・ロック)』」

 

 八つの斬撃に、“当たらなかった“という事実だけが確定する。

 宗近(むねちか)の目が、わずかに見開かれた。


「……剣が、斬撃が、否定された?」


 宗近(むねちか)の背後から、赫怒(かくど)が吠えた。


「考えてんじゃねぇ!! ブチ殺すだけだろうが!!」


「『憤怒』!!」


 怒りが噴き上がる。

 筋肉が膨張し、魔力が熱を帯びる。


「『憤撃』!!」

 

 真正面からの一撃。

 回避も、技巧も捨てた純粋な破壊。

 ——今度は、当たった。

 ブレイクの体が後退する。


「チッ……魔術師風情が」


「……なるほどな」

 

 赫怒(かくど)は怒りの表情を浮かべながら、笑った。


「全部の攻撃には適用出来ないのか。確率操作か、それとも……まぁ、良い。攻撃が効くってんなら、殴り続けるだけァだろォがァ!!」


「『義憤』!!」


 強者に対する怒りが倍増する。

 ブレイクという“否定そのもの“に向けた怒りが、赫怒(かくど)を更に強化する。


「テメーみたいな奴が一番ムカつくんだよ!!」


 だが、次の瞬間。


「『実証反撃(バックアップ)』」


 ブレイクが受けた衝撃、痛み。

 そして、耐えたという事実。

 それが、そのまま赫怒(かくど)に返る。


「……ぐっ!?」


 赫怒(かくど)は吹き飛び、地面を転がる。


「どうした? あの一回戦みたいにすぐ敗れるのか」


「チッ……うるせぇ野郎だな。だが、ボルテージが上がって来たぜ」


 赫怒(かくど)は立ち上がる。


「『癇癪』!! 死に晒せやぁァ、ボケ!」


 冷静さを完全に放棄し、怒りが全身を満たし、痛みも恐怖も消える。


「まだだァァ!!」


 その瞬間——

 宗近(むねちか)が割り込む。


赫怒(かくど)、下がれ!」


「邪魔すんな!! ボケ!!」


「——黙れ」


 宗近(むねちか)の声は低い。

 そしてブレイクに向かって、抜刀する。


「『居合、抜刀十文字』」


 十の斬撃。

 それらが限りなく同時に、ブレイクを襲う。

 しかし——

 ブレイクは静かに言う。


「『実行証明(プルーフ)』」


「お前たちが“出来ること“は——」


 斬ろうとした。

 殴ろうとした。

 倒そうとした。

 勝とうとした。


「何もない!」


 だが、実際に出来たことは何もない。

 その差分が、赫怒(かくど)宗近(むねちか)を同時に叩く。

 宗近(むねちか)は膝をつき、刀を支えにする。

 赫怒(かくど)は、なおも前に出ようとした——そして、倒れた。

 ブレイクは二人を見下ろす。


「怒りも、剣も、本物だ」


「だが——」


「結果を出せなかった時点で、終わりだ。そこには何もないんだよ」


 彼は背を向け、他の場所に向かおうとした。

 しかし、それを叶わず、彼に話し掛ける者が現れる。


「それは違うわ」


 それは、少女の声であった。

 ブレイクは振り返る。


「うちが来たという結果を彼らは成したもの」


 ブレイクは呟く。


「魔王シェリー……試合の場で泣きじゃくったお前に、何が出来る?」


「そうね。確かに……泣いた。でも、泣き虫が弱者っていう確証はないでしょ?」


 シェリーは杖を構える。


 ***


 魔王とブレイクの戦いの火蓋が切られようとした居た頃、盆景魔術を発動させた織可(おりべ)、そしてマグスはフィンチを見ながら密かに作戦を話していた。


「マグスさん、この環境なら勝てますよね」


「ああ。勝ちに行くぞ」

 

 その言葉に、織可(おりべ)は自分たちとフィンチを分断するように壁を立てる。そして、一つの穴の中に入り、フィンチから離れるように移動する。


「この洞窟の全容は、直径一キロほどの球体です。どこの穴がどこに通じるか覚えてますので、遠隔でやりましょう」


 織可(おりべ)は洞窟内に意識を向け、フィンチの位置を補足する。あまり最初の位置から動いていないようだった。好都合だ、あそこは中心のため穴も多く、攻撃しやすい位置と言える。


「マグスさん」


 マグスから、無数の手腕が生え出し、穴の方に向かう。

 生えた腕の先から、更に手が分岐し、洞窟の穴へと滑り込む。


「ここは僕の庭です。逃げ場は多いですが、隠れることは出来ない」


 遠隔、だが確実に削る。

 フィンチが別の穴へと飛び込んだ瞬間、その先の壁から、腕が突き出た。

 回避するが、別方向から、別の腕が出てくる。


「チッ」


 フィンチの声が反響する。

 その時、僕は一歩、足を踏み鳴らした。


「狭くなれ」


 景色が変化する。

 通路が収縮し、剣を振るうのが困難なほど、天井が低くなる。

 足場は崩れ、穴の縁が鋭く削れ、歩くのも容易ではなくなる。

 逃げる方向が、自然と限定される。


「マグスさん、右上の縦穴」


「了解」


 向かわせていた腕が、縦穴の上から落下。

 そして、フィンチの体を掴む——はずだった。

 だが、腕は破壊され、叩き落とされる。


「マグスさん、攻撃された腕をこっちに戻せます」


「何でだ?」


「確認したい事があるので、マグスさんは念の為、攻撃を続けてください」


 すぐにフィンチに攻撃された腕が織可の元に来た。

 その間もフィンチを四方八方からマグスの手腕が攻撃しているが、大したダメージを与えられずに居た。


「これは……」


 織可(おりべ)はその攻撃跡を確認する。

 千切れたわけでも、弾かれたわけでもない。最初から、そこまでしか存在していなかったのような途絶え方だった。


「クソ……何、されてる?」


 今も盆景魔術で展開した洞窟が、意図せず単純化している。構想が壊されたのではない、選択肢が減っている。


「……要点だけ」


 穴の向こうから、短い声。

 次の瞬間、洞窟の奥行きが、唐突に浅くなった。


「距離が……縮んだ!?」


 マグスが複製した手腕を伸ばす。

 今度は届く——はずだった。

 だが、腕は途中で止まる。


「いや……違う。途中が、ない……?」


 僕は息を呑む。

 空間が歪んだ形跡はない。

 ただ、中間という概念が存在しないのだ。

 そして、フィンチは確実にこちらに近づいている。


「……多い」


 その一言で、フィンチの方に向かわせていた手腕の多くが、急に制御不能になり、途絶える。


「何が起きてる」


 壁が壊され、直通で近づいてくる。


「マグス、下がれ」


 織可(おりべ)は即座にフィンチが来るルートの地形を複雑に組み換え、視界と距離を分断する。

 だが、展開された地形が、数秒で平坦になる。


「……?」


「干渉されてる……!」


 魔術は行使され、生きている。

 だが、確実に削られている。

 フィンチの姿を視界に捉える。


「……冗長」


 その言葉と同時に、洞景の使われなかった構造が、次々と消える…


「……まるで」


 織可(おりべ)は、知らずに呟いた…


「世界が省略されている……」


 だが、それなら……


「また、次の景色を生み出せば良い。分かったぞ、お前の魔法が……」


 盆景魔術を行使し、相手の魔法を封じる景色を生み出す。

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