第108話:結び合う
モーティマーとの対決を終え、シュッツたちの元に戻る濡羽とミア。
シュッツらが戦っていたと思われる場所は、荒れに荒れており大爆発でも起きた後のようだった。
そしてシュッツとルナだけだと思っていたが、クリスの姿があった。
「シュッツさん、遅くなりました。クリスさんが来てくれたんですね」
「逃げるように言って置いたんだがな」
「ワイを置いていかなければ、あまり苦戦しなかったでしょ」
「それもそうだけどな……」
やはりシュッツにとって相棒クリスは大事な存在なのだ。
「その前に、お前らどこ行ってたんだよ」
「確かに、俺とミア……一体何をしてたんだ」
三名とも思い出せないモーティマーの魔奥の効果で、世界からモーティマーの情報は欠落していっており、彼と関わった時間が少ない人物ほど記憶から消えやすく。
シュッツとルナは魔奥が発動された時点で、濡羽とミアもここに来るまでにそもそも会っていないクリスは一人の犯罪者の情報が消えたことさえも気付いていなかった。
モーティマーの関わった情報全てを忘れており、何故シュッツらと離れたのか、何故これほど魔力を消費しているのかという疑問だけが残っていたが、その疑問も時間が経てば欠落するだろう。
「まぁ、良い。それじゃ、当初の予定通り通信棟に向かうか」
「「「「はい」」」」
***
通信塔前に二つの戦場が生まれる。
一つは……
「時刻魔術、『タイミギア・加速』」
秒速20mで理差はエリザに迫る。
彼女の固有魔術『時刻魔術』は、時間感覚速度を調整し、その時間感覚速度を自身のあらゆる速度に比例させる魔術。
理差の出せる最高速度は秒速50m、これは高速列車に相当し20秒で1キロを走破してしまう。
対するエリザは、理差の拳が迫る中、余裕そうに魔法を行使する。
「細節魔法『微瑕』」
理差が攻撃しようと拳を振るったが、その拳は理差自身のミス、一瞬の躓き、踏み込みの浅さ、攻撃角度のズレでエリザではなく空を殴る。
「はっ?」
「ダメじゃない、ミスしちゃ……『逸脱疼痛』」
「うっ」
突如として理差の全身に違和感と鈍痛が奔る。
一体、距離を取ろうと地を蹴った瞬間に、強烈な痛みが奔る。
「ゔっ」
距離は取れたが理差は、地面に疼くまる。
「どうしたの? 健康管理も体型維持も仕事でしょ? 完璧じゃない、とね」
「ううっ……『クロック・シフト』」
魔術回路を使って奔る痛みに悶え、苦しみながらタイムギアと違う魔術を理差は行使する。
こちらはタイムギアと違い、流動的に時間感覚の調整と加速と減速を行う。
タイムギアがレバーなら、こちらは歯車で理差に掛かる負担も少ない。
その分、瞬間的加速は出来ないが持続的な加速を行える。
理差は秒速15mほどの速度で再度、エリザに迫る。
「まだ、魔術使えるのね。流石、魔件局の魔術師と言った所ね。それじゃ、これも耐えられるかしら……『砂噛』」
「あああ!」
瞬間、理差は地面に崩れ落ち、叫び声を上げる。
理差に奔っていた痛みが倍増し、魔術が何かに邪魔され、解除される。
そして理差の思考に異物が紛れ込む。
速かったのに……
「速かった? 今、0.02秒遅いわ」
上手くいってはずなのに……
「順調だった? だったなら、もう崩れてるわ」
声は一つではない。
同じエリザの声が、微妙に違うタイミングで重なる。
「時間を操ってるのに、自分のズレは直せないのね」
「ほら、また修正。完璧主義者って忙しいのよ」
「その判断、最適解じゃない。妥協よ」
理差の脳内に響く完璧主義の悪魔エリザの声。
「あああああああ!!!!」
理差の様子を遠目に眺めるジェニーは身構える。
「さて、次は蒼の魔法使いの番ですね。私の手で壊してあげます」
「研究者相手に暴力なんて行けませんよ」
魔法の使い七家の魔法使いと罪を犯した魔法使いの視線が絡み合う。
***
「理差ァ!」
ルフィナ、ニトロの二人は久刹と戦っていた。
前衛、後衛どちらも出来るルフィナが前衛を行い、ニトロは後衛で準備をしていた。
ルフィナは丁寧に久刹の振るう刀を避け、銃弾を放っていたが彼もルフィナの攻撃を見切り回避していたため、戦況は膠着していた。
だから、不意に理差の方に向けた視線が理差の崩れ落ちた姿を捉え、ルフィナは戦闘中であるにも関わらず、理差を凝視してしまう。
「愚かだ」
久刹がその隙を見逃すはずもなく、刀がルフィナの首元目掛けて振るわれる。
しかし、ルフィナは理差の方を向いた状態で上体を後ろに倒し、刃を回避する。
そのまま行けば、地面に仰向けになり無防備になるはずだったがルフィナは後ろにやった左手で状態を支え、右手を久刹の顔に向ける。
その右手は親指を立たせ、それ以外は伸ばした状態で中指に集まっていた。
「銃例魔術、『スプレッド・リコイル』!」
至近距離限定、散弾銃に例えた右手指から飛ばす複数小型魔力弾の同時発射。
その距離と弾数から回避不能の銃撃。
「うゔあ」
諸に散弾銃撃を喰らった久刹は慌てて距離を取る。
しかし、その顔の右半分は火傷と魔力弾で抉れ、皮が剥がれていた。
久刹は傷の様子を確認する事なく、普通の調子で接する。
「チッ、あの黒髪の彼女より君の方が強いのか」
ルフィナは上体で跳ね、元の体勢に戻り、右手を向ける。
「違うわ」
ルフィナは一拍置く。
「理差はあたしより負けず嫌いで、そして強い」
ルフィナの言葉を微かに捉えた理差。
その眼はエリザの魔法でどれだけ思考が乱されようともエリザから少しも背けず、ただ眼前の敵を観察していた。
戦闘課最強のコンビの戦いはこれからだ。




