第109話:重み
「……はぁはぁ…うっ、うっ、うっ……」
理差は苦しみを耐えながら、体の違和感と痛みの理由を魔力を浸透させ探る。
体内に目を向けながらも相棒、ルフィナを気にする
ルフィナの相手は、エリザより強い魔法使いだ。
今、彼を抑えているだけで凄いのにここで私が負けて、ルフィナを窮地に立たせるのは違う。
それに、ルフィナに負けているようじゃダメだ。
私たちは誰よりも強くなるって仕事を全うするって……
誓ったから。
理差は思い出す。
自分たちの原点である、あの出会いを。
5年前、ルフィナ22歳と理差21歳は魔件局に入った。
私は父親が中央魔術境会で魔件局を管理する職に就いており、父は昔から私が魔件局の捜査官になる事を期待しており、上の力を使って通常ないはずの推薦状で私は魔件局に入った。
同時期に入ったルフィナは市井で魔術を用いたなんでも屋をしており、その実力と優秀さが魔件局の耳に入り、スカウトされた。
「初めまして、時差理差です。よろしくお願いします」
「おお、初めまして。あたしはルフィナ・ガンバレッド。これからコンビとして世話になるわ」
生まれながらの地位の違いから、私とルフィナの意見と考え方は合わなかった。
「だから、合理的かつ効率的に動かなきゃいけないの!」
「はぁ! 何であたしがあんたの命令を聞かなきゃいけないのよ!」
それでも同期ゆえにコンビを組まされ、常に二人で行動するしかなかった。
作戦で動く時も、目標地点に移動する時も、車中も、泊まる部屋も……私とルフィナは常に同じ空間を共有していた。
私の目から見れば、ルフィナは……
作戦命令聞かずに飛び出して勝手に行動する問題児だ。
彼女の目から見れば、私は……
作戦にだけ従う愚かな傀儡と言った所だろう。
互いに剣を向けながら生きていく事、それは大変で苦しく怒りが沸いた。
私もルフィナも常にイライラしていたからか、私は怒りに任せて言ってこなかった事を吐露してしまった。
「だから、嫌だったのよ! 私は捜査官になんてなりたくなかった! 戦いが上手になんてなりたくなかった! 私は普通に生きていきたかった!」
しまったと思った。
私はルフィナの顔を見る。
ルフィナは私の顔を見ながらニヤニヤしだした。
「何を! 早く、いつもみたいに馬鹿にしなさいよ!」
「理差ってドMだったっけ?」
「違うわよ!」
「そうカッカしないの」
私はルフィナが嫌いな理由を考えが合わないからだと思っていたが、違ったらしい。どうも私はルフィナの前だと感情を崩してしまって、隠していた自分の思いが出そうになって嫌だったのだ。
「理差、あたしはあんたが嫌いよ」
私はルフィナの言葉を飲み込む。
「いつも合理的とか効率的とか抜かすくせに、意味もなく感情を隠して生きているあんたが嫌い。あたしは捜査官に憧れて生きてきた、この仕事が天職だと思っていわ。あんたはどう! 捜査官になって一年、この仕事の事をどこか良いと思ったことがあるでしょ!」
私がやりたい仕事ではない、父親の夢だからとやらされた捜査官。
それでも仕事だからと真面目に頑張って来た。
楽しくもなくやる気もない仕事は辛く苦しいはずなのに、私は辛くもなく苦しくもなく、捜査官という仕事を心のどこかで……
「ルフィナ……私、この仕事を全うするわ」
父にやらされたからではなく、自分の意思でやりたいから。
「そうか。それなら相棒として上手くやっていきましょ」
「そうね。それと私、あなたより上に行くから」
「私より強くなってから言うのね」
ルフィナ・ガンバレッド。
作戦を聞かずにすぐ飛び出し、相棒の私をよく困らせる捜査官。
そして、私の憧れる魔術師。
「エリザ、私はまだ戦えるわよ」
大きな声にエリザは視線をジェニーから理差に戻す。
「まだ苦しみ足りないのね」
「っ……時刻魔術、『フリーズ・ポイント』」
理差は自身の時間感覚速度を停止させ、自分のあらゆる速度を完全停止させる。
そうすることで何らかの原因で生じていた痛みが嘘のように消え失せ、理差に安楽が訪れるが、これは1秒限定。
「……今だ」
理差はフリーズ・ポイントを解除した1コンマで、タイムギア・加速を発動。
とてつもない激痛と共に、理差はエリザに肉薄する。
「は、速い!」
「止まれ!」「止まれ!」「止まれ!」
砂噛の効果なのか、思考の間にエリザの囁きが混ざる。
思考は命令となり、体を動かそうとするはずだったが理差は事前に決めていた行動以外を脳に禁じていた。
「離れなさい!」
エリザの感情に任せたビンタ。
続け様に、腕を振り回すような打撃。
だが、理差は一切怯まない。
事前に彼女が決めた行動は崩しから始まり、その後はどんな攻撃、防御、回避されようとも……
ただ殴る→殴る→殴る→殴る→殴る……殴るだけ。
「私の完璧を!!」
エリザの大きい、力任せで直線的な攻撃。
私は、踏み込む。
そして腕を絡めて打撃を流し、エリザの体勢を崩す。
間を開けず、肘、掌、膝——短く、確実な打ち込みを連ねる。
「がはぁ、ぐふぅ、ぐへぇ、あぅ、ぐあ……」
エリザの呼吸は乱れ、何も出来ず一方的に殴られる。
事前に決めていた11連撃が終わった時には、エリザは地面に大の字に倒れていた。
「はぁ……完璧主義者は生き辛いわよ」
理差はそう吐き捨てると、戦おうとしていたジェニーを見る。
「もしかして、戦おうとしました?」
「いえいえ、私はしがない研究者ですので戦うなんて……」
ジェニーは内心、未練たらたらだった。
研究者として人間に試したい事は多くあり、人体実験は手続きが面倒なので敵相手に試そうとしていたのはここだけの話だ。




