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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第106話:天使の梯子

 ヴィヴィアンは地面に横たわりながら悶絶していた。

 イタイイタイ、何で何でこんな苦しいの?

 不幸には希望があるはずなのに。

 何であたしには不幸しかないのよ!

 ヴィヴィアン・アッシュビーは、幼い頃から不幸に囲まれていた。

 家は騎士爵級魔法使いの家系だったが貧しく、病弱な母と無口な父、そして何より”報われない出来事”が日常だった。

 どれだけ努力をしても、目標を成したことはなく。

 勉強、恋愛、人生においてヴィヴィアンは常にビリだった。

 だが彼女は泣かず、代わりに笑った。

 転んでも、叱られても、失っても。

 ヴィヴィアンは思っていた。


「大丈夫、いつか良いことがあるわ」

 

 それは強さではなく、信仰に近いものだった。

 悪い出来事には必ず、良い出来事という“裏側“があり、それを見つけられないのは自分の努力が足りないからだと、ヴィヴィアンは信じていた。

 そして、その考えを証明、肯定するような魔法を彼女は持っていた。

 災厄に“良い面“を作り出す——銀裏魔法。

 ヴィヴィアンはその魔法を誇りに思っていた。

 だって、自分のこの生き方は人にどれだけ言われようと魔法に、世界に肯定された生き方なのだから。

 誰かが怪我をすれば、その経験が”強さ”になる。

 誰かが失敗すれば、それは”学び”になる。

 誰かかが死ねば……残された者は”前に進める”。

 ヴィヴィアンは善意で魔法を行使した。

 だがその善意は、次第に歪んでいく。

 悲しむ人間に寄り添う代わりに、ヴィヴィアンは”その悲しみの価値”を先に提示するようになった。


「ほら、これで強くなれるでしょう?」


「意味があったんだから、笑わなきゃ」


 人々はヴィヴィアンから距離を取った。

 それでもヴィヴィアンは笑い続けた。

 ——雲の裏地を見ない人間の方が、間違っているのだと。

 やがてヴィヴィアンは“実験“を始める。

 不幸の規模が大きいほど、裏にある銀も輝くはずだと。

 そうして起きたのが、コイン殺害事件だった。

 選ばれたのは、通りすがりの魔法使いと魔術師数名。

 その選考基準に理由も意味もなく。

 ヴィヴィアン本人もただ「最悪の出来事の裏に、最高の銀裏があるか」を確かめたかった。

 そのために、選ばれた人は極度の不幸にされ、その不幸が元で街は半壊し、多くの魔力持ちが亡くなった。

 何も生まず、強くもなれず、前にも進めず、ただ一つの命が消えただけだった。

 それでもヴィヴィアンは、笑った。


「ほら……まだ見えてないだけ。雲が厚いほど、銀の裏地は綺麗なんだから」


 その笑顔のまま、彼女は千夜城に収監される。

 そして今、脱獄に成功しながらも捜査官シュッツと魔法使いルナに敗れ、地面に倒れ伏している。

 何で、何で、希望は、銀の裏地はどこなのよ!

 その時、ヴィヴィアンは思い出す。

 脱獄させてくれた騎士がくれた自動注射器。

 その中に入っている薬剤を注射すれば、詠唱無しでの魔奥というかそもそも使えない魔奥を発動することが出来るらしい。

 九言衆の一部メンバーしか受け取らなかったそれをあたしは持っている。

 今、この場で注射すれば二人を殺せる。

 やっぱり、世界はあたしに希望を魅せてくれる。


「お前ら、なんか死んじゃえ!」


 ヴィヴィアンはその胸に、心臓に注射器の針を突き刺し、注入する。


「魔奥『幸福の形を(シルヴァー・)知らぬ者が、(アノマリー・)最善を望む(ファーム)』」


 確かに銀裏魔法の魔奥は発動した。

 しかし、ヴィヴィアンは重要な事を忘れていた。

 自動注射器に入っていた強制魔奥発動薬の副作用、それは魔法と魔力が暴走し、自身の体を異形へと書き換え、魔奥効果が消えると同時に死んでしまうという事。

 ヴィヴィアンの体は突如、激痛と共に大型化していきながら異形になっていく。


「——あは、は……だいじょうぶ、だいじょうぶよ」


 顔が薄れていき、無くなり平面となる。

 代わりとばかりに胸から腹にかけて無数の銀色の裂け目が開き始める。


「だってほら、こんな最悪……きっと、良いことの前触れでしょう?」


 裂け目の奥から何かが覗く。


「笑って……笑ってれば……ほら、見て……銀色……きれい……よね?」


 笑っているような歯列、泣いているような眼、祈るような手。

 それらが互いに噛み合わず、ゆっくりと裏返り続けている。


「どうして……? どうして、良くならないの……? 良く、してるのに……全部……全部……!」


 四肢は関節の向きが曖昧で、動くたびに「正しい向き」に直そうとして失敗する。影だけは常に美しく整った人型を保っているのが、最も不気味であり、恐怖だった。


「——ああああっ、わからない! わからないけど! わからないこそ、良いのよね!!」


 声は裂け目の奥からではなく、空間から響いているようだった。


「ねえ……これが“最善“なんでしょう? どんな雲にも……ちゃんと……銀の裏地があるように……?」


 ヴィヴィアンは今まで使えなかった魔奥の効果を骨身で理解していた。

 幸福を含めたあらゆる不幸・被害・失策・死に対し”より良い結果”を無作為・強制的に生成する。

 軽傷は即死という被害の最適化がなされ、局地的被害は広域災害という影響の最大化が行われ、犠牲は最も意味のある死へと再構成される。

 ヴィヴィアンはその効果をシュッツ、ルナを含めた空間に拡張する。


「『(シルヴァー・)世界(アウトカム)』」


 瞬間、起こるすべての出来事が、無作為に選ばれた最良の結果へと即時変換されようとした。

 だが、それを阻むように一つの魔術が輝く。


「検索魔術、『真因検索(トゥルー・クエリ)』」


 より良い結果が世界に受け入れられなくなり、崩壊する。


「相棒、ワイを置いていくとはどういう了見」


 シュッツは相棒、クリスを見る。


「クリス、ここに居る事に驚きだが……手伝ってくれ」


「餅のローンだけど今北産業だから」

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