第104話:曇り日
夜が近づき、暗くなってくる時間帯。
シュッツとルナは敵、ヴィヴィアンを見ていた。
ルナは理解していた。
魔法が使えない自分が最も弱いから、シュッツは濡羽とミア二人をモーティマーの方にやり私と組んだのだ。
そして敵は魔法が使える魔法使い。
シュッツがいくら強くても魔術師一人とお荷物である私を抱えた状態で勝つのは不可能だ。
だから、シュッツと私はこれから濡羽とミアが来るまでの時間稼ぎをする。
二人が負けるかもしれない、なんて言う不幸な結末は考えるな。
今は、何も出来ない私が出来ることを考えろ。
「魔力刃……シュッツさん、近接戦闘は任せてください」
持ってきておいた魔法杖に魔力を通すと銀色の刃が先端から生じた。
良かった。
魔法杖は動くってことは魔法杖の魔法も使えたかもしれないけど、シェリーとの試合で使っちゃったから発動出来ないわね。
「嬢ちゃん、敵の攻撃は全てオジサンが破棄するからオジサンを信じて走ってくれ」
「はい!」
私は魔法杖を構えながら駆ける。
ヴィヴィアンの魔法の詳細は分からないけど、シュッツさんの伏線破棄で破棄出来ない攻撃ではないだろう。
瞬間、ヴィヴィアンが笑みを浮かべながら魔法を行使する。
「銀裏魔法、『裏災』」
「ッ!」
瞬間、シュッツの伏線を捉える視界に映ったのは……
周囲の建物に生じた無数の小さな伏線が大きな伏線へと繋がる光景。
小さな伏線は……
落ちそうな小物や、転がっているビン、ガス漏れ、ゴミ、老朽化、火花などそれ単体では何の脅威もない。
だが、それらが急に密接に結び付く。
傾く、落ちる、ぶつかる。
床を転がるビンが弾み、壁に当たり、振動が走る。
軋む音、老朽化した建物は耐えきれず、気づかれないまま漏れ出すガス。
散らかったゴミが舞い、空気が濁り、逃げ場を失う。
一瞬。
機械の接触不良。
火花。
次に瞬間、すべてがつながり、押し合い、重なり合い——
爆音と衝撃が、考える間もなく空間を塗りつぶした。
複数の建物が倒壊し、瓦礫に満ちた通りに無傷で立つ一人の人物が居た。
「ハハ、盛大な爆発だったわ。花火はやっぱり、派手な方が良いわね」
この事態を起こしたヴィヴィアンは笑っていた。
ヴィヴィアンの魔法。
銀裏魔法はあらゆる災厄に対し、良い面を強制的に作り出す魔法。ただし、その良い面は必ずしも本人にとって良い物ではない。
その効果で周囲の小さな災厄を全て良い方向に増幅し、大規模な環境攻撃に成長させたのだ。
そして当の本人は、爆発の影響をもう一つの技で無効化した。
裏恩、自身に降り注いだ災厄を全て恩恵に変換することで、爆発の熱や衝撃などで魔力を回復させた。
「さぁーて、モーティマーの元に向かおうかな。あの人の事だから、今の爆発や光も沈黙させているんだろうな」
ヴィヴィアンはその場を去ろうとするが、その行動を止めたのは一筋の銀色の刃を振るう私だった。
「あれ? 死ななかったんだ!」
銀色の魔力刃を同じく地面から生じた銀色の刃が防ぐ。
ヴィヴィアンは私を見る。
「なるほど、魔力の大量放出ね」
爆発が来るとシュッツが分かった瞬間、私もその気配を察知した。
私は咄嗟に解決策を考えながらシュッツの前に出た。
そして爆風が生じ、迫った瞬間に私は魔力を大量に放出した。
魔力は形のないエネルギーだが、爆風や衝撃など同じく目に見えないか捉えきれない小さな物に軽微だが干渉する事が出来、大量に放出することでそれらを弾く壁を形成したのだ。
代償に私は魔奥を放てる程の魔力を失ったが、魔法を使えない現状においては大量の魔力など意味がない。
「よく考えたみたいだけど、意味ないから」
ヴィヴィアンは距離を詰めながら行使する。
「銀裏魔法、『裏労』」
「うっ……」
瞬間、私は強烈な脱力状態に陥る。
「ダメじゃない、ストレス抱えちゃ!」
ヴィヴィアンは倒れそうになった私の腹を蹴り上げる。
「ぐっ」
私はお腹をさすりながら地面を転がる。
「ほらほら、攻撃してみなよ」
「伏線回収」
「ぐへぇ」
ヴィヴィアンは石につまづき倒れる。
「嬢ちゃん、敵の魔法が何となく分かってきたぞ。説明したいが、その前に幸福な光景を思い出せ」
「幸福な光景……」
ルナは濡羽の顔を思い出す。
すると、脱力状態が緩和していく。
「動けるな。ヴィヴィアンの魔法は多分だが災厄に対して希望を起こす魔法だが、その希望が本人にとっての希望とはなりえないって感じだろう」
「なるほど」
さっきの技は私が抱えていたストレスという災厄に対して休ませようという希望を起こしたが、それが強制的な脱力となって本人の希望とは違うって事ね。
「なになに、相談? あたしも混ぜてよ」
ヴィヴィアンは鼻血を拭いながら立ち上がる。
魔法とは単縦な物も多いが、ヴィヴィアンみたいに難解な物もある。
難解な魔法の対処法はちゃんとその魔法の詳細をイメージして何が出来るか? 何が出来ないかを考えていけば良い。
そして難解な魔法ほど出来ることは限られるため、手札は少ない。
「シュッツさん、もしかしたら勝てるかもしれません」
「へぇ、それなら嬢ちゃんのプランに乗るかな」
私とシュッツは構える。
「良いね良いね、やっとあたしのこと殺す気になったの? ありがとう、その災厄があたしを更なる幸福に連れて行ってくれる」
「嬢ちゃん、この戦いに巻き込んだのはオジサンだから次は最初に行かせてくれるか? 頼むよ」
妙に責任感を出すシュッツに私は若干戸惑いを覚えながらも了承する。
「分かりました。でも、私は遠くからの援護は無理なのであまり前線に出ないで下さいね」
「分かってるよ」
シュッツは前に出る。
「ヴィヴィアン、お前の仲間は全員、千夜城に収監されていた犯罪魔法使いたちなのか?」
「ええ、そうよ。あたし達はやっと自由を手に入れて自由に殺せる立場になったの。邪魔しないでくれる」
「はぁ……やっぱり、お前らと話すのは疲れる。さっさと全員、しょっぴいてそのうるさい口を黙らせようか」
「バカね」
「ぐふぅ」
地面から生じた銀色の刃がシュッツの腹を斜めに貫いた。
「あれれ、おかしいな? 捜査官さんが犯罪者に負けちゃうよ?」




