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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第99話:愛を教えるのは……

無理やり1話で終わらせようとしているので、少し長いです。

 千夜城に収監されたアシュリーはそこで仲間となる九言衆と血縁対象として有用な魔法使い二人にあった。

 一人は、物をあまり知らないアシュリーから見てもバカと言える魔法使い。

 もう一人は、傲慢で自分の知識は賢者を超えると自称するある意味でバカな魔法使い。

 どちらも娼館で培った技術ですぐに取り入り、血縁対象に出来た。

 血助で使用できるのは魔術だけだが、魔奥を行使すれば魔法使いが血縁対象がいれば魔法を行使できる。

 デメリットは血縁魔法が魔奥行使中は行使出来ない事だが、二つの魔法で魔術師二人を殺す事など容易い。


「家族とか関係ない、皆殺しよ。でも、死体は家の墓地に入れてあげるわ。例え罪人であっても家族は家族だもの同じ墓に居ないとね」


***


 私と琲李は崩れた建物に倒れていたが意識ははっきりとしていた。


「何だ、今の衝撃は」


「魔法だね」


 衝撃が襲う前、アシュリーの手元に戦いの余波で生まれた瓦礫や粉塵が集まっていたのを見るに、ゴミ・廃棄物・不要物を分解し、任意のエネルギーへ変換する魔法。

 血助で魔術を行使していたから、魔法も行使できるかも知れないと思っていたが、これほどとわ。これで魔術と同じく複数持っているのなら厄介。

 でも、魔奥の効果がそれなら血縁魔法は行使出来ないと見て良いだろう。


「琲李さん、私も魔奥を使います」


 私の魔奥なら、アシュリーを殺し切れる。


「ちょっと待って、それなら私が領域結界を張った後に頼むわ。私の領域にブラン君もアシュリーも入れば、それだけ勝率が上がる……それに私一人じゃ、アシュリーを抑えられる自信がないのよね」


 確かに、あの魔法は強力だ。

 琲李さんには荷が重い相手だが、私なら白化させれば無効化できる。


「分かりました……私がアシュリーを抑えるので領域結界の発動準備をお願いします」


「それなら、最後にこれ飲んで。私が提供できる最高のバフをあなたに施すわ」


 私は琲李から受け取ったコーヒーを飲み、カフェイン過多へと陥る。

 琲李は姿を隠し、私は来るであろうアシュリーを身構える。

 瞬間、熱気と共にアシュリーはブランに向けて掌を向けた


「『塵熱(ダスト・ヒート)』……生きたまま、火葬してやる」


 可燃ゴミを熱エネルギーに変換し、放つ火炎と高音波が私の服と肌を容易く焦がし焼いていく。

 だが、私は冷静に炎を白化していき後追いで発動した白回で火傷と服を治していく。

 アシュリーは炎が効かないと分かるともう一つの魔法を行使した。


「『指向落下(ダウン・ベクトル)』」


「くっ」


 私の体全体に強烈な重力が地面に叩き落とすように掛かる。

 白化出来るのは見えて触れられる物のみ、見えず触れられない重力を白化することは出来ない。


「やはり、重力なら効くわね。塵よ、圧殺しろ『塵圧(ダスト・プレッシャ)』」


 崩壊した建物の破片が圧縮され、私の元で位置エネルギーとして解放された。空間的に深い井戸となった私を含む空間は全てを巻き込んで歪んでいく。


「『白染め』」

 

 私は全身を白化する。

 重力を白化することは出来ないが、重力や空間の影響を受けない白という概念を全身に付与することは出来る。

 そのまま私はアシュリーに迫ろうとするが、間髪入れず魔法を行使される。


「『指向固定(ワンウェイ)』」


 前方に移動することが出来なくなり、私は横に移動してしまう。


「塵よ『塵電(ダスト・スパーク)』」


 アシュリーを中心に辺り一体に電気が瞬き、広がる。


「効かないよ」


 なるほど。

 もう一つの魔法は対象の「向き・流れ・進行方向」を一方向に固定・強制する魔法か。ゴミをエネルギーの変換する魔法と相性が良いな。

 だが、私の体は白化しており、すぐに白を絶縁体にしていたので痺れる事はなかったが、術者であるアシュリーはちゃんと制御しなかったのか一瞬痺れていた。


「ああぁぁ、お前は何なんだ!」


 一度放出したエネルギーの残滓が再び塵へと戻り、エネルギーに変換されアシュリーの体に蓄えられる。

 そして満タン以上に蓄えたエネルギーをレーザー状にして周囲にばら撒き放つ。


「『塵流(ダスト・フロー)』」


 レーザーは崩れかけた建物を容易く切り抜けて、隣に立つ高い建物を中層で切り離し、建物は自重に耐えられず崩れてくる。

 その先は私とアシュリーが戦っている場所で、私たちは上から降ってくる大きな瓦礫を気にしながらも互いに魔術、魔法を行使する。


「『白草』」


 白化させていた床から白色の草がアシュリーに向かって生え出すが、押さえつけるように強力な重力が白草を襲う。

 白草は成長出来ず、地面にその頭を擦り付けるのみになる。

 その姿が二人の目に強く印象に残る。

 何かの力で押さえつけられ、満足に成長できず落ちていく姿を戦闘中にも関わらず自分たちに重ねる。

 昔はそうだった。

 だが、今は違う。目的も、意義も、意思もあり自分のやりたい事、成したい事を為せている。

 アシュリーは瓦礫から落ちてくる粉塵を一斉に変換する。


「『塵雨(ダスト・レイン)』」


 エネルギーの雨が降り注ぐ中、私は四肢に白染めを付与しながら駆ける。

 全身の白化を解除し、四肢に白を集める。

 あの瓦礫がアシュリーの魔法効果範囲に入ったら、負ける。

 その前にアシュリーを白化させる。

 

「良いわ、拳で相手してあげる」


 アシュリーも応えるように粉塵や瓦礫を運動・熱エネルギーに変換し、身体表面に循環させる。

 私は半開きにした拳を振るう。

 威力は落ちるがこうする事でインパクの瞬間に握るか、広げるかを瞬時に使い分けることが出来、白染めに向いた私考案の格闘術。

 だが、アシュリーは体を逸らすことで避ける。

 避けると同時に半身を私の方に出し、拳に運動エネルギーを込め、打つ。


「はっ」


 本来なら、接触した瞬間に運動エネルギーが衝撃・威力となって私の体を壊すはずだったが拳が触れたのは空虚な白だった。

 白虚、自分の体の一部を白化しなおかつ、空白にする。

 そして、白を固め拘束する。


「貴様の負けだ、アシュリー」


 私は白染めを付与した両手をアシュリーに伸ばす。

 両手が触れる直前、アシュリーは笑う。


「まだ、わたしは負けてない」


 落下してくる瓦礫が、アシュリーの魔法効果範囲に入る。

 瞬時にエネルギーを変換し、拘束されていない左掌に集める。

 掌を私に向け、エネルギーの奔流が渦が巻く。


「『塵指(ダスト・ベクトル)一線(・バースト)』」


 世界が「私へ行け」と命じられ、塵が光へ、光が槍へと変わる。

 音は一泊遅れて来る。

 衝撃は直線。

 残るのは、えぐり抜かれた空間と右半身を失った私。

 吐血しながらも立ち、アシュリーを見ながら私は呟く。


「耐えたぞ、琲李」


「領域結界、『閉店知らずの(コーヒー・)喫茶店(フレッシュ・タイム)』」


 気付くと私はアシュリーを机を挟んで座っていた。

 机の上にはそれぞれの好みと思われるコーヒーが置かれており、味のある良い喫茶店に居た。

 琲李の姿はカウンターにあり、コーヒーを淹れていた。

 領域結界、魔奥が対単体の奥義ならこちらは対集団向けの奥義で領域系統魔術と違い、結界内の景色は心象風景と現実景色の融合で変更することは出来ない。

 ただ術者にとって自分有利な戦場と言えよう。


「アシュリー、ひとまずコーヒーでも飲んで落ち着くか」


「ええ、そうね。この空間内に入ってから戦意が失せたわ」


 私は無くなっていた右半身を白回で何となく復元しながら、ブラックコーヒーを味わう。アシュリーはモカコーヒーを味わっている。

 そのコーヒーは今まで飲んできたブラックコーヒーよりもダントツで美味しく、一生飲んでいたいと思える味だった。


「アシュリー、君の人生を教えてくれないか?」


 殺す相手の事を知るのは精神を蝕むかもしれないが、アシュリーの事を殺人犯として殺すよりもアシュリーとして殺す方が私にとっては合理的な選択だった。

 アシュリーは呟くように自分の過去を語り出した。

 その人生は辛いものだが、共感出来るとは思えなかった。


「君を可哀想だと思ったことは訂正しよう。君は可哀想じゃない、だから君にどんな過去があろうが私は君を敵と見なし、殺す」


「そう……」


 この空間は嫌だな。

 やたら時間の流れがゆっくりだ。

 まぁ、琲李の配慮だと思うけど長過ぎる。

 魔奥は詠唱が無くともある程度の技量があれば魔力操作と技術だけで発動出来る。だが、詠唱よりも時間が掛かってしまう。

 閉店知らずの喫茶店の効果は、領域内に滞在する対象の時間感覚の調整と言ったところか。

 冷静な者ほど遅く、焦っている者ほど速く時間が流れているように感じるが二人の共同時間は同じなため、行動や思考速度に差が生じる。

 現在、アシュリーの時間感覚1秒は私の時間感覚10秒ほどですでに私は魔奥発動準備を終えていた。

 後は発動するだけだった。


「この世に愛なんて存在しないのね」


「アシュリー、それは違う。まぁ、それは君が考える事だ」


(『白き夜にて瞳を奪う』)


 アシュリーは全感覚を失う。


***


 白色の世界だけが広がる。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 何も匂わない。

 何も感じない。

 何も分からない。

 そんな無だけの世界に一つの灯りが生まれた。

 アシュリー……

 それは母だった。


「お母さん?」


 アシュリー。

 次に現れたのは優しい時の父だった。


「お父さん?」


 そして自分の幼い姿が現れる。


「わたし?」


 幼い自分を両親二人が囲み、笑顔で笑い合う。

 昔、自分が心から望んだ光景だった。

 アシュリーはその光景に向かって手を伸ばそうとしたが、そうしなかった。

 分かっていたのだ。

 愛とはこういうもので、今の自分には触れられないものだと。

 自分はどこで間違ったのだろう。

 不義の元に生まれた時、魔法を持っていると分かった時、娼館で生きていた時、魔法を使っていた時、父とその家族に拾われた時、友を殴った時、愛を知りたいと思った時、家族をその手に掛けた時……いや、時間や状況は関係ない。

 愛を教えられる立場に回った時点でわたしは間違っていたのだ。

 愛とは教えられる物ではなく自分で理解し、学んでいくものなのだから。

 答えを理解した瞬間、わたしの姿は幼い姿になった。

 そして遠く彼方に見える両親に向かって駆け出していた。

 次は間違えない、自分で自分だけの愛を見つけるのだ。


***


 アシュリーの全身は白化した。

 そして、霧のように光のように溶けて無くなった。

 領域結界が解ける。

 私は緊張が解け、疲労から地面に寝転ぶ。

 琲李はコーヒーの入ったカップを口に運び、香ばしい湯気を吸い込みながら——


「……ああ〜〜」


 と、脱力する。

 それは安堵の吐息でもあり、勝利を物語っていた。 

珈琲李の領域結界の詠唱

魔女は心象にして現実を知る。苦味は目を覚まし、甘味は心を解き、香りは時間を欺く。一杯ごとに刻は異なり、急ぐ者には刹那を、迷う者には静寂を。ここに卓を並べ、杯を満たし、世界を一息分を遅らせよ。——開店だよ、さぁ座って。共にコーヒーを味わおう。


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