第98話:愛とは……
私は白で自身と彼女を拘束る糸を白化させる。
血助の効果は、多分だけど血縁対象にした魔術師の魔術を使用すること。
何か制限はあると思うが、純粋な手数の多さは強さに直結する。
一つは糸を操る魔術、もう一つは音を操る魔術と見ていいだろう。
まだあると思うが、もう負けない。
「『皚々』!」
「見えない、どこに行った!」
光が白化し、アシュリーの視界を塞ぐ。
ひとまずは作戦を考える時間を作る。
捜査官さんも私の考えが理解出来たのか、距離を一緒に取る。
「ブラン君、制限時間は10分よ。5分経ったら体の支配権が奪われる。でも体の制御が奪われる訳じゃないんだと思う、現に私が動けているから。でもアシュリーのくらった攻撃は私に移動させられるわ」
「10分経ったらどうなるんですか?」
「アシュリーの言葉だけど精神が支配されるらしいわ」
それは終わりだ。
となると5分以内で倒さないとただ時間が過ぎるだけになる訳だな。
ちょっと待てよ。
「捜査官さんの残り時間は?」
「捜査官さんじゃなくて、珈琲李よ。残りは2分ほどね」
なるほどね、早く倒さないとな。
両足から地面を白化させていきながら琲李に忠告する。
「琲李さん。白色の地面は触れないようにしてくださいね、触れたら危険ですから……」
「分かったわ。それなら私は遠距離援護主体で行くわね」
白化した光が薄れていく。
アシュリーの目がこちらを捉える。
「琲李さん、近接主体ですよね?」
白化した地面を更に広げ、アシュリーの方にやる。
「そうだけど、どっちも出来ないと捜査官はやっていけないのよ」
「そうですか、大変ですね。捜査官わ!」
「『白草』」
白化した地面から白色の草が生え伸び、アシュリーを襲う。
「『縫止』」
糸が白草を地面に縫い留める。
だが、白草と同時に飛んでいた高温のコーヒーが顔に掛かる。
「『漆煮』」
「アアアアァァァ」
悲鳴と共に苦味が口に広がり、魔力循環を阻害する。
私は駆け出し、琲李もブランがあえて白化しなかった地面を通ってアシュリーの元に向かう。
「ブラン君、これ飲んで基礎能力が上昇するから」
「貰います」
私は受け取った万能上昇を飲み干すと、すぐに魔術を準備しながら両手に白染めを付与する。
「『白妙』」
手の中に純度の高い白で槍を作り出し、構える。
アシュリーは私と琲李さんを見ると、手を向けた。
「『麻痺霧』
霧が掌から放出され、それを吸い込んだ私の動きが鈍くなる。
なるほど、三つ目の術は毒の生成か。
でも、この程度の麻痺、意味ない!
私はアシュリーに槍を振り下ろす。
白妙で生まれた槍は私以外が触れた時点で、急速に白化する。
「『歪布』」
槍の軌道がわずかに逸れ、地面に刺さり地面を白化する。
白化した地面が広がる中、アシュリーは動く。
「『陶酔』」
アシュリーは私に近づき、その体から甘い香りを放つ。
甘い香りは私の思考を鈍らせ、警戒心を無意識に下げさせる。
「ブラン君!」
琲李の声に意識を取り戻したが、遅すぎた。
アシュリーの手は無防備な胸に触れており、ゆっくりとでも確実に魔術を行使される。
「バイバイ『微毒』」
毒素魔術、微毒。
触れている対象に致死性のない神経阻害毒を付与する。
本来なら彼はここで完全に動けなくなるはずだった。
だが、コーヒーが彼を覚醒させる。
「『醒酔』」
濃厚な香りが、神経阻害を突破する。
私は動く。
「『白波』、『白眼』……」
これ以上、アシュリーに魔術を使わせないために周囲の外部魔力を制御し、動体視力の情報処理を上げ、アシュリーのカウンターを警戒する。
純白の槍を腰を捻りながら突く。
「チッ」
真っ直ぐアシュリーに向かった槍は接触の直前に何かに弾かれる。
『薄幕』、事前に張っていたと思われる防護の布。
「今度こそ、わたしの勝ちね」
「いや、私の勝ちだ」
私の体の支配権が渡される2秒前、私とアシュリーは同時に動いていた。
「『白染め』!」
アシュリーの深紅の外套の胸もと付近を掴み、白化していきコートはすぐに純白になり、その脅威はアシュリーに迫る。
「『血奔』!」
アシュリーも外套を掴むブランの手を反射的に掴み、血流を強制加速させ内部から身体バランスを崩壊させようとする。
体の支配権が渡されると、アシュリーを蝕んでいた白化はブランに返るが、すでにブランの手を掴んでいた右手から肩の付け根までは白化していた。
だが、これ以上二人はアシュリーに攻撃を与えることは出来なかった。
「わたしの勝ちよ! いえ、家族の勝ちよ! ほら、諦めてわたしの家族になりましょう。わたし、家族は絶対に傷付けないわよ」
アシュリーが勝負の最中にも関わらず盛大に勝利を祝っている中、琲李は本能的に動き、魔術を行使した。
「滴閃!」
コーヒーの刃がアシュリーに向かう。
「無駄よ、家族の刃は家族に届かない」
「そうね。でも家族じゃないならどう?」
白化した箇所は白であり、アシュリーの体とは認識されず、傷は返らない。
そして、ブランはすでに白化した箇所を脆弱にしていた。
コーヒーの刃は容易く、アシュリーの右腕を破壊し、肉を巻き込む形で右半身も抉り切る。
「アアアア、イタイイタイ! 体が……」
真っ赤な血が白の地面に広がり、アシュリーは崩れ落ちる。
だが、覚悟と復讐心を持って魔法を何とか行使する。
「『血呪』」
遠方に居る生き残った血縁対象者5名に命令する。
その命令とは、魔奥発動に必要な詠唱の多重輪唱化。
長い詠唱を五人で輪唱し重ねることで、一瞬で魔奥発動を可能にする。
便利だが詠唱を肩代わりされた血縁対象者五名は詠唱の終わりと同時に命を落とし、アシュリーには相当な負荷が掛かる中、行使される。
「死ね! 魔奥、『血よ、水よりも濃い絆よ、我が力に』!!!!」
アシュリーの足元に血色の家系図が広がり、どこからか赤い光の糸が引き抜かれたように伸び、アシュリーの心臓へと縫い込まれていく。
次の瞬間、彼女の瞳が赤く濁り、他の魔法の魔法陣が背後に重なって展開される。
魔法陣は脈打ち始め、アシュリーの体が再生し、また動き出す。
ブランと琲李は固まり、アシュリーの出方を伺う。
だが、そんな行動は無駄だった。
「『塵震』」
二人は吹き飛び、建物に突っ込む。
それは魔法使いにあってはならない、もう一つの魔法だった。
多重輪唱で飛ばされた詠唱
魔女は心奥にして最奥を覗く。水は流れど、血は残る。名も、顔も、誓いも失われようとも。我らを繋ぐは断ち切れぬ赤き線。血よ、血よ、裏切らぬ証明となれ。命を寄越せ、力を寄越せ、絆を我が内に。




