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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第96話:固執

 黒曜家に、天才に、黒曜濡羽に私は負けた。

 ギリギリの攻防を乗り越え、彼は私の予想を超えて勝利を掴み取った。

 今まで幾度も天才に負けてきた。

 敗北による自虐、勝者への嫉妬、強さへの渇望……

 いつもなら感情が重なり、混ざり答えのでない自問に悶えるはずだった。

 しかし、今回の敗北で私の中で生まれたのは答えだった。

 彼の拳が、私に来た瞬間。

 衝撃と同時に、言葉を受け取った気がした。

 あの技は、ただ才能に溺れる天才では届かないであろう技……努力した天才にしか届かないであろう技。

 かつて天才でありながらもその才能に溺れ、自らの手で腐らせた私とは大違いだ。

 だからこそ、思い出した。

 初めて魔術を行った時の感動と憧れを。

 昔は良かった。

 家柄、才能、実利……何も気にせず魔術に対して夢想していた。

 彼は、黒曜濡羽は、その時の感情と光景を今だに色褪せることなく魂に刻まれているのだろう。そして、その感動と共に魔術を極めているのだろう。

 私もそのような生き方がしたかった。いや、今からでも歩めるだろう。

 ただただ魔術のために生きる人生を、何もかも捨てて縛られない人生を。

 その第一歩として、私は、私の好きな魔術で人を助けよう。


「ブラン君、あの女性をただの魔法使いだと思ってはいけませんよ。彼女は千夜城に収監されているはずの大犯罪者ですから」


 白回で彼女を癒している時に彼女は教えてくれた。

 魔法使いで犯罪者……千夜城から脱獄させるなんて、ライター会長は何を考えているんだ。


「協力者に言うのはなんですが、魔件局捜査官として言いますね……怖いのなら逃げても良いんですよ」


 彼女は微かに震える私の指を見てそう言った。


「そうだよ、弟くんはわたしの背後に隠れていれば良いの」


 アシュリーは嫌な笑みを浮かべながら両手を広げ、迎える用意をする。

 私は黙る。

 確かにこの戦いは負ければ終わりの戦いだし、魔法使いと相対するのは怖いことだ。

 だが、この魔法使いと相対して分かったことが一つある。


「大丈夫だ。私はもっと怖い経験をしてるから」


 こいつはあの時の濡羽よりも怖くない。

 そして、私はどんな絶望にもう二度と屈しない。


「『白染め』」


 四肢が白色になり、地面の石板が白化していく。


「掛かってこい、魔法使い」


 アシュリーは血色の槍を飛ばす。

 迫る血色の槍に触れ、白化させ無効化していく。

 白化すれば魔法と言えども効力を失い、崩壊する。


「援護をお願いできますか?」


「勿論よ、『香淹』」


 香淹がコーヒーの香りを生み出すことや強烈にすることも出来るが、本領は香りを嗅いだ特定人物の集中力と反応速度を上げるバフ技でもあるということ。

 私は一歩ごとに白化した地面の弾性を上げることで飛び跳ねるようにアシュリーに迫り、拳を振るう。


「お姉ちゃんが相手してあげるわ、弟くん〜〜」


 流れ出た血が大鎌の形を取り、鎌の刃が私の突き出された腕を引っ掛け、私の体勢を崩す。


「それじゃ、家族にしちゃうね」


 大鎌の血が分離し、ナイフとなりアシュリーの手に収まり、振るわれる。

 彼女が叫びながら忠告する。


「血を取られちゃ、ダメ!」


 その言葉は間に合わず、ナイフは私の首元を切り裂く。

 しかし、血は流れなかった。


「へぇ、やるじゃん」


 アシュリーの目に映るのは、白で覆われた首の傷跡だった。


「傷を負った瞬間から白回すればは血は出ない」


 濡羽との戦いを経て、私の魔術技術は上昇した。

 直感的に魔術を行使出来るようになると、同時に操作技術も上昇した。

 今なら出来るだろう。

 白という形無き概念の遠隔操作が。


「『白走』」


 私の掌から白の線がアシュリーに向かって走る。

 超至近距離とその速度ゆえに回避は出来ず、アシュリーは咄嗟に大鎌の大部分を血液に戻し、白線にぶつけ、体に当たることを防ぐ。

 触れた血は一瞬で白化し、崩壊した。

 その隙に、私は動く。

 今までの戦いでこの女は、考えられないような血液を消費しているのに変わった様子がない。

 こいつの血縁魔法は血の生成も出来るのか?

 いや、違うな。

 血縁魔法の対象者がまだいる。そいつらから再生力などを得て、消費した瞬間から生産しているのか。

 その時、アシュリーは内心、舌打ちした。

 チッ、今ので三人沈んだわ。

 ここに来て血縁にしたのは戦闘用の3人を除いて、20人居たけどもう10人しかいない。やっぱり、血は使わない方が良いわね……でも、もう残りは少ないし使い潰すつもりでいきましょうか


「血縁魔法……『血助(ファミリ)』」


 アシュリーを中心に蜘蛛の巣状の血色の印が生じる。

 嫌な予感がした私と彼女が動く。


「『操糸(マリオネット)』」


 しかし、その動くは無数の糸によって封じられる。

 私と彼女は激しく困惑する。

 この糸は、これは魔術……何で、魔法使いが魔術を!


「『音撃(ブーム)』」


 次の瞬間には鼓膜を破壊するほどの爆音が発生し、私と彼女は耳と鼻から出血する。

 血助の効果、完全支配した魔術師の固有魔術限定行使、発動出来る魔術上限は5つ。

 この瞬間、アシュリーは魔法に加えて最大5つの魔術を行使出来るようになった。


「家族の助けって良いわね。弟くんもお姉ちゃんも早く、わたしの家族になってわたしの助けになってよね。二人の魔術は強力だからわたしの助けになるわ」


 アシュリーは近づき、拒否感を一切示さす鼻から垂れた血を手に取る。

 そして舐め取り、血族の効果が発動する。

 これでブランは残り、10分で支配されることになる。

 そして琲李のタイムリミットは2分に迫っていた。

 そんな中、白回で鼓膜を復活させた私はアシュリーに言う。


「お前、そんなに家族求めて……家族に愛されなかったんだな。可哀想な奴だ」


 その言葉は、アシュリーの琴線に触れる。


「魔術師風情が! わたしの、わたしの愛を、憐れむな!」


 アシュリーは思い出していた。 

 かつて、実の父親に言われた言葉を。

 お前が可哀想だから、魔法が有用だから養子にするんだ。愛してると勘違いするなよ、ゴミが。


「お前は、わたしの心を傷付けた。家族の心を傷付ける奴は、わたしの家族に要らない! 支配した後に心を破壊してから捨ててやる! 後悔しても、もう遅いからね」

アシュリーが血縁にしたのは23人と少ないですが、血縁にする方法は対象の血を摂取するだけなので本来ならもっと対象に出来ますが、アシュリーの家族に対する好みからこの数になっています。

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