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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第93話:子猫

 タリヤは車椅子を失い、地面に伏す中、見下すように立つセルヴィスを睨みつける。


「セルヴィス、お前の力を何となく理解出来たよ」


「そうか……その状態で何か出来るとは思えないな」


 欠損した左腕、包帯を巻かれ立つことも出来ない両足。

 魔術師としてここまでよくやっていると言える傷であり、誰の目を見てもタリヤの敗北は明らかだった。


「まだ、まだ私は戦える!」


 瞬間、タリヤが上に吹き上がった。

 まるで重力が逆向きになったようにタリヤは宙に浮き、右手を振るう。


「『白猫の爪(オングル・ブラン)』」


 白色の爪痕が刻まれた右拳がセルヴィスに触れた瞬間、セルヴィスは激しく吹き飛ぶ。


「『断因(カット・コーズ)』」


 だが、途中で不自然で急停止した。


「なるほど、やはりそうか。最初から疑問に思っていたんだ」


 セルヴィスはタリヤを見据えながら続ける。


「子猫の魔術はどこか魔法の領域に足を踏み出していると思っていたけど、違った。心臓で魔力を生み出せ、世界との繋がりを持っている、魔術も魔法も扱えるんだろ」


「子猫じゃないけど、当たりよ」


 タリヤ・灰霧・シャフラ。

 彼女の父は魔術師で母は魔法使いだった。

 二人は種が違くとも家の格が違くとも学院時代から愛を育み、その末にタリヤが生まれた。

 通常、魔法使いは両親が魔法使いであっても子が魔法使いとして生まれる前提条件である世界との繋がりを持つ確率は10%ほどで、両親が魔法使いでないならその確率はもっと下がり、0.1%だ。

 逆に魔術師は両親が魔術師なら50%の確率で魔術師の子が生まれ、両親が魔術師ではない無能力者でも15%ほどの確率で魔力を生み出す心臓を持って生まれるとされる。もし、どちらも所有している者が居たとしても不思議ではなく、とてつもない確率の上に生まれてきたと言える。


「魔法使い特有の膨大な魔力前提で作り上げられた魔術と生来から持つ魔法。厄介極まりないが、私を殺せるほどじゃないな」


「それはどうでしょうね?」

 

 黒猫魔術、重力を操ることが出来る。

 白猫魔法、反重力を生み出し操ることが出来る。

 一つの魔術と一つの魔法、二つ合わさればそれは……


「『我は黒と白の奇術を行う者』」


 詠唱と共に黒色の重力と白色の反重力がタリヤの元で束ねられていく。


「『黒はこの世に星の破壊を見せ、白は平等の力に抗う光景を見せる』」


 セルヴィスは理解する。

 この詠唱は魔奥並みの術を行うために組み込まれたもの、この術が成立すれば子猫は更に高みに更なる強者となり得る。止めることは出来る、しかしそんな事はしない。


「見せてくれ、子猫。三代目魔件局局長の力を」


「『黒は堅甲となり、白は柔軟となる』」


 タリヤの全身を覆い、鎧を形成する。

 黒が急所部や覆う防護となり、白が欠けた腕と両足を支える。


「『純黒は純白にて生き、純白は純黒にて生きる』」


 同時に混ざり合っていく。


「『合わさりて、混沌を生む』……黒白猫(コクビャクビョウ)混魔(コンマ)『灰猫(ブワール・)戦鎧(アルミュール)』」


 灰色の鎧を身にまとい、両足で立つタリヤの姿がそこにあった。


「さて、戯れを始めようか」


 タリヤの言葉にセルヴィスは、不敵に笑いその顔を戦士のものとする。

 先に動いたのはタリヤだった。


「『灰猫の歩調(ブワール・パ・クーペ)』!!」


 タリヤの一歩ごとに重力と反重力が入れ替わり、縦横無尽に彼女は乱れ動き回る。何にも、誰にも、左右されることのない彼女の姿を目で見て追うことも、予測することも不可能だ。

 タリヤは天井、壁、床などありとあらゆる場所に動き回ると急にセルヴィスの背後に現れる。

 そして、右手で触れる。

 瞬間、セルヴィスを地面に固定していた重力が反転し、反重力も入れ交じり、彼の体は宙で球のように身動き出来なくなる。


「『灰猫の球遊(ブワール・ジョンブレ)』」


 そして、更に彼女は動く。

 重力でセルヴィスを一点に縫い留め、反重力で上下左右に空間ごと引っ張る。

 瞬間、彼の体は四つに引き裂かれる。

 タリヤの処刑技。


「『灰猫の断罪(ブワール・デシャンス)』」


 その場に両者以外の人物が居たら、タリヤの勝利を確信しただろう。

 だが、相手があのセルヴィスだと分かったらタリヤに憐れみと優しさの視線を送るだろう。

 引き裂かれたはずのセルヴィスが物陰から現れた。


「『乖離(ディスロケート)』……中々、良い技だった」


 タリヤは唇の端を噛み、怒りと疑問が渦巻く。

 どうすれば、この怪物に有効打を与えられる。

 セルヴィスの魔法の効力はもう何となく分かっている。

 あらゆる対象の分離、十大魔法が一つ分離魔法。


「もう、十分だろ?」


「まだ! ———ッ!」


 駆け出そうとしたタリヤの胸から腹に掛けてが大きく裂け、血が飛び散る。


「ぐふぅ、ごふ……」


 肺に入った血がゴロゴロ、音を立てる。


「子猫、魔術師にしては頑張った方だ」


「ま、まだ……私は一人の魔術として……」


「はぁ、『剥奪(ストリップ)』」


 灰猫戦鎧を維持する魔力が分離され、解ける。

 タリヤは両足の支えを失い、地面に倒れる。


「くっ……魔法使いに敗れ……」


「すまない、子猫……」


 もう戦えないタリヤにセルヴィスは容赦なく魔法を行使する。


「『分断』」


 ***


 大競技場・廊下

 セルヴィスが去った後には、惨劇の光景だけが残された。

 ただ一つの魔術師の遺体。

 右腕が離れた場所に落ち、両足も頭の上の方に転がっていた。

 灰色の髪は赤に染まり、眼帯していない方の瞳も閉じていた。

 魔法使いに対する対抗手段、秘級魔術師でも敵わなかったのだ。

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