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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第91話:東西

 大通りで襲撃を受け、二手に分かれたシュッツたち。

 東側に回って行くシュッツ、濡羽、ミア、ルナと西側に回っていくルフィナ、理差、ニトロ、ジェニーは歩みを止めることなく通信塔に向かって駆けていた。

 観光街:東部

 高級店と豪華なホテルが立ち並ぶお金持ち御用達の高級街で普段なら宝石、ドレス、腕時計などで着飾った者たちが召使を引き連れて闊歩しているが今は誰も居らず、急いで逃げたのか道には高級バッグが放り捨ててあった。


「シュッツさん、あまり人を見かけませんね。血の匂いも全くないような」


 物が散らかって荒れては居るが死体や血痕は全くなかった。


「お金持ちのことだ。急いで逃げたんだろ」


 シュッツはそう濁したが、明らかにこれは異常だった。

 逃げると言ってもここは島で逃げられる場所などそう多くないし、観光で来た者なら更に少ない。

 だから店の奥やホテルの中に隠れているのかと魔力感知を行うが、気配のひとつもしなかった。


「濡羽、ミア、ルナ……ここから先は危険だ。注意して進んだ方が良さそうだ」


「「「はい」」」


「判断、遅すぎじゃない?」


「些か死を軽んじ過ぎでわ?」


 向こうから二人の人物が現れる。

 一人は金髪ショートボブで銀色の瞳がこちらを見る。薄手のロングコートに銀糸の手袋を着用した女性。

 もう一人は抜けた灰髪を短く整え、喪服のような黒衣を纏う表情の乏しい30代後半の男性だった。


「お前ら、何者だ?」


 シュッツは牽制しながら尋ねる。

 俺たちは引き際と攻め際を見定める。


「九言衆、ヴィヴィアン・アッシュビー」


「同じく九言衆、モーティマー・グレイヴ」


 シュッツはすぐに記憶から九言衆という組織を探すが、該当はなかった。

 ただ二人の名前には覚えがあった。


「コイン殺害事件の犯人と墓地生埋事件の犯人……」


「ええ、そうよ。あたしたちってそんな有名なの。ちょっと前まで監獄に居たから、世間に疎くて、あなたが良い人なら教えてくれる?」


「ヴィヴィアン、彼らを墓地を埋葬するのが私らに任された仕事ですよ。死人は口無し、お喋りなど到底不可能ですよ」


 おいおい、冗談じゃないな。

 千夜城に収監されている魔法使いが何でここに居るんだよ。

 それもこの二人は同族である魔法使いを殺してる。


「何で外に出てるんだ、お前ら?」


 シュッツが俺が気になることを尋ねる。


「大変だったんだよ。昨日、急に騎士様が来て私たちを解放してくれて自由だと思ったら、ここで暴れろって言うんだもん。でも、来てくれて良かったわ、だってここなら自由に身勝手に人を殺せるもの〜〜」


 ヴィヴィアンは軽く跳ねながら笑顔でそう言う。

 シュッツは唇を軽く噛み、背後の俺たちに小さく言う。


「すまない、お前ら」


「ッ——オジサンは魔件局捜査官、シュッツ・ラウル・ディネ!。お前らを千夜城脱獄の罪で魔力持ち犯罪者取扱法第六条に則り、お前らを処理する」


 ヴィヴィアンは笑みを深める。


「善人は大変ね。処理なんて言い回してるけど、素直に殺すって言えば良いのに……あたし、殺し合い大好きだから受けてあげる。こっちのモーティマーは死体の後片付けが上手いから後のことは気にしなくて良いわ」


「そうですね。それに私は僧侶なので供養も出来ます、なので幸福で苦しみのない死が汝らに訪れることを……」


「濡羽とミアはモーティマーを、ヴィヴィアンはオジサンとルナでやるぞ」


 観光街東部『高級街』。

 黒曜濡羽、ミア・ファタールvsモーティマー・グレイヴ

 シュッツ・ラウル・ディネ、ルナ・フェメノン・ルージュvsヴィヴィアン・アッシュビー


***


 観光街:西部

 観光客と島の住人が食べ物や日用品を買う商店街で、普段なら多くの一般客と島の住人が行き交う道には血溜まりと持ち物が散乱していた。

 だが、それだけでありルフィナたちは何の邪魔もなく琲李が射手を殺した頃に、通信塔に辿り着く。


「ッ——!?」


 ルフィナと理差は顔を歪ませる。

 通信塔エントランスの上辺りに5人の魔術師の遺体が釘付けにされていた。

 遺体から流れ出た血がエントランスを赤く染め、エントランスを塞ぐように山積みにされた観光客・学生らの遺体に降り注いでいた。


「先輩……」


 その5人はルフィナと理差の先輩で二人の同僚であり家族だった。


「来たかい、だいぶ遅かったね」


 山積みにされた死体を椅子に座っていた一人の人物が降りる。

 白銀髪を長い三つ編みにし、細い針のような装飾品で飾り、裾がほつれた和服を見にまとう男性だった。


「久刹! 裾がほつれてるし、血臭い! 大事な大事な戦いなんだから、完璧な正装で居ないと」


 そして通信塔の立つ広場の一角にあるベンチに座った人物もエントランス並びに男性に近づく。

 濃紺の長髪をきっちりまとめ、細縁の眼鏡を掛け、仕立ての良いダークカラーのドレスコートを着た女性だった。


「九言衆、永那久刹(えいだ くせつ)だ」


「九言衆のエリザ・ディテイルズよ」


「永那久刹、一夜のうちに9人の人間を切り殺した人斬り九針。エリザ・ディテイルズ、300の事故を引き起こした事故魔。千夜城に収監されているはずなのに、何でここに居るのかは知らないけど、確かなのは……」


「先輩たちを殺して、その遺体を辱めたな!」


 ルフィナの顔に激情が浮かぶ、


「ああ、もしかしてこの魔術師たちの同僚? ってことは魔件局戦闘課の捜査官か。魔術師にしては強かったけど、君らじゃ僕には敵わない。それに初対面で人を犯罪者って決めつけるのはいけないよね? 僕は冤罪だって言ってるのに……」


「久刹、それ仲間の中でも貴方しか信じてないから、言わなくて大丈夫よ」


「え、仲間なのに? 信じてくれよ。僕、本当に無実なんだよ」


 バンッ!

 乾いた音と同時に銃弾がルフィナの指から飛ぶが、久刹は腰に差した刀を抜き放ち、弾丸を真っ二つに斬り落とす。


「ああ、君らは変わらないね。こっちは無事だって言うのに一方的に虐めてきて、殺されても正当防衛だからね」


 久刹から殺気がルフィナと理差に飛ぶ。

 理差は戦闘を予感し、敵を見据えながら仲間に指示を出す。


「ジェニーさんは下がっててください。私はあの女を、ニトロさんは精霊術でルフィナのサポートを標的はあの男です。ルフィナ、冷静にね……第六条で殺しても構わないから」


「分かりました、離れてます」


「月に叢雲、花に風ね」


「もとより殺すつもりよ」


 通信塔エントランス前広場。

 ルフィナ・ガンバレット、ニトロ・フェメノン・ヴェールvs 永那久刹

 時差理差vsエリザ・ディテイルズ


 こうして、ライターの用意した脱獄囚『九言衆』と濡羽らの戦いが始まった。

 その頃、戦えない魔法使いを連れて織可と宗近らキングクラウン出場魔術師たちは学院に向かっていた。

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