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黒泥の魔術師  作者: 11時11分
アヴァロン島占拠事件 ~親友に恋し、初恋を愛す~
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第90話:血縁

 時はタリヤがシュッツたちを逃した直後に戻る。


「セルヴィス、何でお前がここに居るの?」


 タリヤは自分の座る車椅子の車輪部分を強く掴む。


「観光って言ったら信じるか?」


「信じないわよ」

 

 タリヤは目の前の魔法使いを見る。

 セルヴィス・ディヴォース。

 40年前に起こった残星大戦で最も勝利に貢献した魔法使い。その後、元老院の命で作られた魔件局の局長を務め、局長を退いた後は世界各地を放浪していると聞いたけど、ここに居るなんて。


「お前はライターの味方なの?」


()()()


 今わなって、言葉足らな過ぎでしょ。

 うちのシュッツもそうだけど、もう少し分かりやすく話せないの?


「私からも良いか。腐った魔件局は元に戻せたか?」


「お前が気にすることじゃないでしょ。お前があのクズに局長の座を渡したから、あんな事になったのよ」


 私の前の局長はクズだった。

 自らの私利私欲の為に魔件局の力を使っていたから、魔件局には未だに汚名が纏わりつく。

 あのクズを下ろしてから、私がどれだけ苦労して立て直しているか。


「私の読み通りだな。甘い蜜には悪党が集まり、悪党には優秀な捜査官が集まる、これで魔件局は安泰だな」


「お前の読み通り? 冗談じゃない、私がどれだけ残業したかどれだけ頭を下げたか分かる!」


 タリヤは車椅子を魔術で動かすことで物凄いスピードでセルヴィスに迫る。


「黒猫魔術——」


「観光だって言ってるだろ。観光客に暴力はいけない」


「観光でも一発入れなきゃ、気が済まない! 『黒猫の足跡(ノワール・トラス)』!」


 タリヤの姿、音、存在感が消え失せる。

 セルヴィスは慌てる事なく、視線を辺りに向けよう……とするが、眼球が言うことをきかず、回転だけする。


黒猫の眼(ノワール・ウイユ)』、対象の眼球付近に軽い吸引点を生み出することで眼球を回し、目を回させる。

 しかし、この場においてはセルヴィスがこちらを最後まで捉えさせないための策であり、布石だ。


「ふむ」


 セルヴィスの背後にタリヤの姿が現れる。

 右手をセルヴィスの背中に置きながら魔術を行使する。


「『黒猫の牙(クロック・ノワール)』!!」

 

 瞬間、対象セルヴィスを空間ごと十字に捩じ切るような強力なブラックホールが生み出される。

 空間が、セルヴィスが紙のようにくしゃくしゃになろうとする中、セルヴィスは一言つぶやく。


「『分離(セパレート)』」


 瞬間、空間は元に戻り、車椅子は縦に半分になる。

 車椅子に座っていたタリヤは少し遠いところで崩れていたが両手で上体を支え、セルヴィスの方を見るが、そこには姿がない。


「どうした? 子猫。私はずっとここに居たぞ?」


 背後から見下ろすようにセルヴィスは告げる。


***


 琲李は一人、物陰から射手が居ると思われる通信塔を見る。

 敵はおそらく弓による射撃に特化した固有魔術を扱う魔術師、今分かっているのは以上な射程と射撃能力。

 シュッツの読み通りなら、今この場所に近接特化の敵が向かってきてる。

 そいつを射撃に警戒しながら抑え、殺す。そして援護に来た射手も殺す。


「『甘香(かんこう)——エスプレッソ』」


 エスプレッソコーヒーを生み出し、一杯摂取する。

 豆本来の雑味の少ない上質な味わいと共に瞬発能力を向上させる。


「妹の敵はどこだァァ!!」


 建物を壊しながら象頭で上裸の大男が大通りの中央に立つ。

 その手に持つ棍棒には血がべっとり付いていた。

 私は射撃を警戒しながら大通りに出る。


「くっ」


 体を出した瞬間に矢が眉間に飛んで来るが、エスプレッソを飲んだことで強化された動体視力と反射神経が回避を可能にした。

 矢は私の頭の横を通り過ぎ、地面に突き刺さる。


「見つけたぞ、妹の敵はオラの敵だ!」


 象頭の男が私目掛けて、両手を組んで叩きつける。

 石畳の床が砕け大きなクレーターが形成される。

 私は華麗に回避し、魔術を行使する。


「『漆煮(しっち)』」


 高音で濃縮されたコーヒーの弾丸が象頭の顔に着弾し掛かる。


「アツイアツイ! 苦い苦い! ま、魔力が練れない!?」


 象頭の男の目は高音のコーヒーが掛かった影響で使い物にならなくなり、象男は視界が妨げられた状況で激しく暴れる。

 振り回される拳が地面、街頭、建物を壊す。

 この男の固有魔術は人の姿で象の力と重さを降ろすって所ね。ここじゃ、男が邪魔になって射撃することが出来ない。

 拳を避けながら距離を詰め、私はコーヒーを摂取する。


「『甘香(かんこう)——ダークロースト』」


 苦味と強いコク、ロースト香が口内に広がり私の身体能力を上昇させる。

 そして、象頭の鳩尾に強烈な掌底を叩き込む。


「ぐふぅ……見つけたぞ、妹の敵ィィ!」


 象の硬い皮膚によって衝撃が吸収される。


「しまった」

 

 私は急回避し、象頭から距離を取る。

 拳が激しく私がさっきまで居た位置に叩き込まれ、陥没していく。

 そして象頭から離れ過ぎた為に矢が飛んでくる。


「ちっ……」


 矢が右足に突き刺さる。

 眉間を意識し過ぎた……足を狙ってくるとわ。

 傷口から流れた血が地面に垂れる。


「うっ……これは血の匂い! そこかぁ」


 犬の2倍はあるとされる象の嗅覚が血の匂いから私の居場所を突き止め、そこを殴り壊す。

 回避は出来たが、矢の突き刺さった足が痛む。


「ッ……『香淹』」


 コーヒーの香りが辺り一面に広がり、血の匂いを隠す。


「どこ行ったァァ!」


 また象男が暴れる中、私は路地裏に隠れていた。


「ふぅーーゥゥィ!」


 私はハンカチを噛みながら矢を引き抜き、魔力で止血する。

 布を外すと持久力と自然治癒力を上げるカフェオレを摂取する。

 あの象頭を殺すにはアレしかないわね。

 私は路地裏から姿を現し、通信塔から隠れるように象頭の男の前に立つ。


「私はここよ」


「そこか!」


 象頭は拳を振り下ろしてくるが、私は横に回避する。

 その状態で両手を合わし、両手の中で生み出したコーヒーを濃くしていく。

 ライトロースト、ミディアム、ダーク……

 象頭は続け様に拳を振ってくるがその全てを回避する。

 エスプレッソ、そして……リストレット。


「『適閃(てきせん)』」


 この技はコーヒーが濃いほどに威力が上がる。

 ほぼ線と言える細さの刃状のコーヒーが、象頭の首を切断する。

 首が落ちる前に象頭は地面に膝を付く。

 それを通信塔から見ていた射手は通信塔から飛び降り、魔力で生み出した風に乗って滑空しながら矢を放つ。

 ほぼ同時に放たれた5本の矢が私に向かう。


「「『甘香——エスプレッソ、濃縮』」


 瞬発力向上を数秒にまとめることで効力を最大限強化する。

 強化された動体視力、反射神経、神経伝達速度によって私は射られた5本の矢を掴んで止めた。

 射手はその対応に歯軋りしながら矢を最大まで溜めて私との距離が50メートルほどで放つ。

 だが、しかし弓が該当する遠距離攻撃が恐ろしいのはいつ、どこから飛んで来るか分からないためだ。

 射撃のタイミングと場所が見えている時点で、魔術的に強化されていようが弓は何の意味も持たない。


「『泡沫(うたかた)』」


 泡立つコーヒーが盾のように展開され、矢が突き刺さる。

 衝撃で弾けた泡から漂う香りが射手の意識を戦闘からズラした瞬間、射手の胸を刃となったコーヒーが貫く。


「『滴閃』」


 滴閃は濃いほど威力が上がり、強靭になる。

 だが、濃くなければそれは糸や鞭のようにしなやかな刃となる。


「はぁ〜〜私の勝ちね」


 死んだ射手が地面に落下するのを見送ることなく、考え事を始める。

 さて、このまま通信塔に向かって良いものかしら。

 それにしても象頭にも射手にも心臓の辺りに血色の紋章が刻まれているけど、これは何かしら?

 考えていても意味ないわね、それに勝利のコーヒーを味合わないと。

 私は懐にいつも入れてある愛用のコーヒーカップに手を伸ばすのと、そいつが現れたのは不幸にも同じタイミングだった。


「あぁ〜〜、やっぱお姉ちゃんとお兄ちゃんじゃ。無理だったか〜〜」


 茶黒い肌に黒髪の三つ編み、濁った赤色の瞳で深紅の外套を羽織った女性だった。その雰囲気はどこか歪で今まだ以上に濃い血の匂いを纏っていた。

 そして女性は満面の笑みを浮かべながら、私に向かって言う。


「あなた、私のお姉ちゃんにならない?」

敵の概要

:射手 二級レベルの女性魔術師で固有魔術は射撃魔術、弓による射撃強化など。

:象頭 二級レベルの男性魔術師で固有魔術は象化魔術、象に変じ重さや肌などを得る。

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