19-2・帝都の冒険者ギルドにて
藤原くんから課された任務に挑むため、僕と真田さんは朝一で旅支度を調える。革の鎧を着て、先生の剣を背負ってベルトを締め、小さい斧を腰ベルトに引っ掛けて、新たに手に入れた甲羅の盾を背中の剣に引っ掛ける。
「源君、亀みたいだな」
「ほんとだぁ~!亀さんだ~!」
甲羅の盾を背負っていた所為で、出掛けに吉見くんと沼田さんから亀扱いをされた。真田さんの格好(銀の胸当て)が洗練されているので、並ぶと僕の格好の野暮ったさが目立つらしい。
「格好悪いかな?どう思う、真田さん」
「後ろから見ると亀だね。格好良くはない」
「どっかに格好良い盾、落ちてないかな~」
帝都くらいの規模になると、冒険者ギルドは数件ある。僕達は町の西側にある冒険者ギルドを訪れて、藤原クエストに合う依頼を物色した。
「命令口調、すっげームカ付く。絶対、嫌がらせだよね」
「僕達の戦闘能力を把握してもらわなきゃなんだから仕方ないよ」
組織の末席にしがみついてるだけで、「僕達は弱いから何もできません」ってわけにはいかない。集団で効率良く動く為には適材適所の配置が必要。その為には、一定の実績を示さなければならない。
「3日間でホブゴブリン3人ならなんとかなるでしょ」
ホブゴブリンくらいなら討伐できる。単純計算で、「1日にホブゴブリンを1人」×3。余裕とは言えないけど、クリア可能なお題だと思っていた。
「・・・ヤバいね」
徒歩1時間くらいの範囲にあるのは薬草探しの依頼ばかり。モンスター討伐の依頼は報酬が良いんだけど森の奥に踏み込んで散策しなければならず、日帰りができるか微妙。しかも、モンスターの本によれば、ホブゴブリンには縄張り意識があるらしく、同一地域に複数のホブゴブリンが生息していることは希で、「あっちの森に1人、そっちの森にも1人」と分散されている。つまり、「日帰りできない代わりに3人纏めて討伐する」は不可能。
「ほら、やっぱり嫌がらせじゃん」
「ねぇ、真田さん」
「・・・ん?」
「なんか、文句ばっかり言うの真田さんらしくない。
いつもならもっと前向きというか無謀だよね。
藤原くんと組むの勝手に決めちゃったのは『ゴメン』なんだけど、
どうやれば上手にできるか考えたいな」
「そ、そうだね・・・ごめん」
「僕の方こそ、偉そうなこと言っちゃってゴメン」
「でも一個訂正しとくけど、『無謀』ではないからね。
そこそこ、『可能』だと思って動いてるよ」
真田さんが僕の目を見て微笑んでくれた。「文句言われたらどうしよう」って思ってたけど、ちゃんと解ってもらえて嬉しい。根がビビりの僕は、真田さんに牽引されたり背中を押してもらって、ここまで来られたと思っている。
「ホブゴブリン以上のモンスター討伐は、日帰りじゃ難しそうだね。
これ見てよ。これなら、西の宿場町を拠点にすればなんとかなりそうだよ」
「あっ!ホントだ!」
西の宿場町の北にある洞窟を住処にしているホブゴブリンを討伐する依頼だ。西の宿場町付近の仕事なのに、帝都に依頼が来ている。おそらく、宿場町では強い冒険者が常駐をしないので処理ができないのだろう。
「それからコレとコレ」
帝都と西の宿場町を繋ぐ街道付近(西寄り)に出没するオーガの討伐依頼と、西の宿場町の南の山に生息するトロールの討伐依頼だ。
「僕にトロールを討伐しろと?」
それは「そこそこ可能」ではなく「無謀」では?やっぱり、真田さん方が度胸があるっぽい。
「キツいかな?」
「キツいってより無理でしょ」
一昨日、僕がトロールの一撃を喰らって気絶したのを忘れちゃった?近藤くん達の特殊能力を借りっぱなしなら可能かもしれないけど、彼等はもう東の宿場町に遠征に出ちゃったし・・・。
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昨日、全体会議が終わって解散したあと、僕は藤原くんの部屋を訪ねた。目的は、「藤原クエストに吉見くんや沼田さんの助けを借りても良いか?」と「真田さんとセットで動かなきゃダメなのか?」と確認する為。
吉見くんが手伝ってくれれば無駄なく行動できるし、沼田さんがいれば多少の無謀な行程でも生還率が上がる。
「却下に決まってんだろ。甘えたことを言ってんな。
オマエと早璃だけで何とかしろ」
「なら、真田さんには留守番してもらって、僕の単独任務にしても良いかな?」
真田さんが一緒なら戦いは楽になるけど、単独の時とは違って逃走が難しい。真田さんには痛い思いをしてほしくない。ホブゴブリンくらいなら、1人で動いた方が気楽に戦える。
「はぁ?オマエさぁ・・・。
望んで隣に立とうとしてくれる奴すら守る気無ーの?」
「・・・守りたくないわけじゃなくて」
「ちっとは根性ある奴かと思ってたけど、見当違いだったか?
早璃を外すかどうかは、オマエと早璃で決めろ」
「・・・う、うん」
藤原くんに威圧的に対応されると恐い。結局は、話したいことの半分も説明できないまま、話を打ち切って部屋に戻った。
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・・・で、単独で動くか結論を出せないまま今に至る。きっと真田さんに話したら「ジェンダーレス」「守られる為に一緒に行動しているわけじゃない」で終わりだろうな。
「とりあえず、洞窟のホブゴブリン退治だけでも受付を済ませてくるよ」
別々に受付を済ませて複数の依頼の同時攻略をするつもりなので、真田さんには引き続き好条件の依頼を探してもらって、僕は1つ目を受注する為に受付に行く。
「その依頼、たった今、受注されちまったぞ」
「げっ!マジで?」
「今、店から出て行った銀髪のニイチャンだ。
欲しいなら、直談判をして譲ってもらうか、パーティーを組むか、
早い者勝ちの的当てにするか・・・
依頼がクリアされるなら、どの手段でも俺は構わねーぞ」
洞窟のホブゴブリン退治をベースにして、他の依頼を探す予定だった。そこを軸にしないと、一から計画の練り直しになってしまう。
僕はダメ元で談判をする為に、お店から出て「銀髪のニイチャン」を追った。
「あのっ!スミマセンっ!その依頼なんですけど・・・えっ?」
振り返った「銀髪のニイチャン」を見て驚いた。ブラークさんだ。いつのも黒い格好をしていなかったから、直ぐには解らなかった。




