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ヒカリを結ぶ第2部~命を捧げた契約のその先~  作者: HANA


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第2部9話 任されたその先で


蓮はタバコに火をつけ、ひと吸いすると隣にいる蒼真を見た。


蒼真はまだ立っていた。

—ひゅー、ひゅー。とゆっくりと全身で息をしている。

眼も虚ろだ。


「…おい、蒼真、ちょ…」


ちょっと座れよ。と蓮が言おうとした時だ。


蒼真の腕が陽葵へ伸びていた。

だが体が力を失い、ゆっくりと崩れ落ちていった。


蓮は目を見開いたが、蒼真を支えてやる事が出来なかった。

一歩が出ない。

手が届かないと感じた。


陽葵が駆け寄って来たのが見えた。

そんな陽葵を見て、蒼真が微笑んでいるのが見えた。


「…っ蒼真…」

絞り出すように陽葵が名前を呼んだ。

陽葵は自分の膝へ蒼真の頭を乗せて抱きしめた。


「…泣くなよ…笑えよ」

蒼真は何とか声を絞り出している。

その声は掠れている。


「だって…っ…」


蒼真はまた微笑むと、優しく


「…大丈夫だよ」


それだけ呟いた。

そして、蓮へ視線を向ける。


「…任せた」

最後の力を込めて、蓮の眼を真っ直ぐに見て呟いた。


—そして、ゆっくりと眼を閉じると、幸せそうに微笑みながら永遠の眠りについた。







「…任せた」


蓮に蒼真の声が届いた時。

蓮の頭には記憶が蘇っていた。



大きな門の前で出会った、不安そうな少女。

少女と出会う直前に暖かなヒカリに包まれた事。

少女の瞳を真っ直ぐに見た自分。


「守る」


陽葵だ。

そうか…あれは俺が陽葵を守ると言う…約束だったんだ。

あの時の暖かいヒカリは2人の契約のヒカリだったんだ…。


「…限界を越えて…守る」


蓮はぽつりと呟いた。

蒼真の妙に突っ走る違和感。

それは自分にはなく、蒼真と陽葵にはあった、契約だからだ。


「なぁ、蒼真ぁ…お前居なかったら、俺は誰と喧嘩すんだよ…」


戻ってこいよ。

嘘だ。って笑って起き上がってくれ。


そんな俺の願いが通じることはなく、蒼真の身体は動かない。


夜の静寂に、ただ陽葵の啜り泣く音だけが響いていた。









蒼真が息を引き取り、少し遅れて天音さんと橘さんが部隊を引き連れて屋敷に到着した。


天音さんは細め「…そうか…」と呟き、蒼真の頭を優しく撫でた。



立ち上がる事が出来ずにいる蓮を橘さんが心配している。

言葉を掛けられても、蓮は何も答えず、目は虚ろだった。



—あれから、数日がたっていた。


蓮はあのまま病院へと運ばれ、蒼真の葬儀には出席していたが、橘さんに支えてもらいながら、やっと歩いている状態だった。

今も病室で横になったまま、ご飯も食べようとしないという…。


「陽葵さん」

後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには天音さんと橘さんがいた。


「…大丈夫ですか?」

優しく微笑む、天音さんのその顔は蒼真の微笑みと同じだった。


何故、この人は辛くないんだろう。


そんな事を陽葵は一瞬、考えたが天音の言葉がそれを遮った。


「蒼真は…自分で選びました」


「あなたを守るために」


ああ…この人は…。

蒼真の全てを知っていたんだ。


「私には止めることは出来ませんでした」


ゆっくりと天音が語る。


「蒼真の選んだ道を…っ…」


天音の言葉が詰まった。

陽葵が初めて、天音の感情を見た瞬間だった。

辛くない訳がない。

この人は親なのだから…。


「蒼真は…私には何にも教えてくれませんでした」


少しだけ、寂しそうに陽葵は呟く。


「でも、最後に好きって…笑えって…」


—決めたのに。

泣かないと思えば思うほど、涙が溢れていく。


「私も、蒼真の事、好きでした」

陽葵の溢れ出した涙は止まることなく、流れていく。


「だから…私は…っ…蓮を守ります」


「守られているだけの私でいたくないんです」


はっきりと力強く答えた。


天音さんは頷くと力の事を話し始めた。

神代久遠家は力の直系で制御の役割を担っていた事。

蒼真が限界を越えて、私を守り、この世を去ったことで私の力は失われたと思われること。

すべて、教えてくれた。






静かな夜だった。

風が、わずかに揺れている。

蓮は一人、病室を抜け出していた。

手には火をつけたタバコ。

だが、吸うこともなく、ただ指の間で揺れている。


「……はぁ」

深く息を吐くと

「……つまんねぇな」とぽつりと、零した。


いつもなら、隣にいた。

くだらないことで言い合って。

笑って。

時には、殴り合って。


「……おい」

返事なんて、来るわけがない。

分かってる。


それでも——


「……どこ行ったんだよ」


視線を空へ向けた。

星なんて、興味なかったはずなのに。

あいつはよく、星を眺めてたっけ…。



「……戻ってこいよ」


蓮が小さく、呟く。

その言葉は、夜に溶けていく。

風の音だけが、残る。

その時だった。

ふと、蘇る蒼真の言葉。


『……任せた』


「……っ」

蓮の手が、わずかに震えた。

「……ふざけんなよ」

歯を食いしばる。

「勝手に全部押し付けやがって……」

拳を強く握りしめた。


「……誰と喧嘩すりゃいいんだよ」


声が、掠れる。

「……俺はまだ……」

言葉が、続かない。

沈黙。

そのまま、しばらく動けなかった。


——でも。


ゆっくりと、息を吐く。

「……はぁ……」

「……ったく」

少しだけ、力が抜けたように蓮は笑った。

「ほんと、最後まで勝手なやつだな」

視線を握りしめた拳へやった。

握っていた拳を、ゆっくりと開くと

「……でもよ」とぽつりと、呟く。


「任されたまま、何もしねぇのは」

「……ダセぇよな」


風が吹く。

蓮は、タバコの火を消す。

そして——

ゆっくりと、前を向く。


「……任せろよ」


小さく、でも確かに、そう呟いた。


もう、返事はない。


それでも——


「……ちゃんとやるからよ」


蓮は一歩を踏み出した。





「怪我人のクセに、タバコはダメだろ?」

橘さんと天音さんがいた。

見舞いに来てくれたのだろう。

忙しい合間を縫って2人は毎日のように来てくれていた。

「おや、顔が変わりましたね」

天音さんが微笑み呟く。

「君なら、分かってくれると思っていました」


そう…2人は見舞いに来ても、決して慰めたりしなかった。

傍に寄り添い、陽葵の事、花壇の花の事、他愛の無いことばかり話してくれていた。


「ありがとうございました」

力強く、蓮はそれだけ答えた。


病室へ戻る蓮の背中を2人は静かに見送った。


「よし…大和、酒でも飲みに行こう」

一瞬、この忙しいのに…と橘は言いかけたが、言葉にはしなかった。

まったく、天音は…。

蓮と陽葵さんを見守って、その後で自分だもんな…。

「朝まで、付き合うよ」

「ありがとう、大和」

本当に不器用な似た者同士の強い親子だ。


—ヒカリは受け継がれていく。


❋ END❋



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