92:店長、顔面偏差値に屈する
◇四十五日目【満月】 【7月24日(水)】
■タックンの周りが華やかすぎる件
ファミレスの厨房で、時計を見上げた。
もうすぐ10時。
予定だと、部活の練習を終えた心優が10時半頃にバイトの面接に来ることになっている。
ソフトボール部はグラウンドのスケジュール調整で希望の時間帯を押さえることが出来ず、夏休みの練習時間が早朝6時から9時までという、ちょっと気の毒な時間帯になったらしい。
まあ、そのおかげでバイトのピークタイムには来られそうなんだけど。
「吉野くん、ちょっと!」
店内がまだ落ち着いているせいか、店長に呼ばれた。
厨房を出て店長室へ向かうと、なぜか店長はおれの手を両手でガシッと握りしめてくる。
「吉野くん、ありがとう。本当にありがとうね!」
おれは店長から涙ながらに感謝された。
おれを見上げる目がうるうるしている。
話を聞くと、心優から電話があって、面接は心優だけじゃなくソフトボール部からあと二人来ることになったらしい。
それに加えて、悠斗も「社会経験のため」とか言って、面接に来るとメッセージがあったし、実質、四人紹介したことになった。
「いや、あの、よかったですね、ははは」
店長にはよくしてもらってるし、役に立てたならおれも嬉しい。
「吉野くんのおかげで、五人も面接に来てくれることになったんだ! 本当に感謝してるよ。このまま誰も来なかったら、他店に応援を依頼することになってたから、本当に助かったよ。ありがとう」
店長は握ったおれの手をぶんぶん振る。
五人? あれ四人じゃなかったっけ。
コンコン
「はい、入っていいよ」
ドアが開いて、美帆さんが顔を出す。
「店長、アルバイトの面接にお二人お見えですが、通してよろしいですか?」
相変わらず、所作が美しい。
店長がおれの手を握っているのを見て、なんとも言えない表情をしてるけど。
「通してくれる」
「はい」
美帆さんは綺麗にお辞儀をすると、静かに店長室を後にした。
代わりに見慣れた男が入ってきた。
「失礼します。よっ、琢磨」
よっ、じゃないよ。
お前、面接にきたんだろ。
「失礼します」
蚊の鳴くような小さな声に気づいて、悠斗の後ろへと視線を向けると……
一瞬、呼吸が止まった。
そこにいたのは、長い髪をさらりと揺らし、繊細な雰囲気をまとった少女がいた。
美しいお辞儀をしているその姿は、どこか儚げで、目を奪われずにはいられない。
「えぇっと…… 川上悠斗さんと、高原鈴さんですね?」
店長の視線は、エヴァ、いや鈴ちゃんにくぎ付けだ。
まあ、気持ちは分からんでもないが、あんまりガン見しすぎると犯罪になりますよ。
と言いたくなった。
悠斗は隣で苦笑している。
「店長、悠斗はおれの友達で、鈴ちゃんは悠斗の彼女なんです」
「えっ、あぁ、そうなの? いやぁ、綺麗な彼女さんだね。悠斗君もかっこいいし、美男美女だね」
店長、何言ってるんだよ。
「面接、宜しくお願いします」
悠斗が履歴書を差し出す。
「よろしくお願いいたします」
続いて鈴ちゃんも履歴書を手渡した。
店長は二人を交互に見て――
「採用です」
おい。
□
「それでどうだったの?」
厨房に戻ると、美帆さんが興味深そうに尋ねてきた。
「二人とも採用だそうです」
「そりゃそうだろう。二人ともあれだけ見栄えがするんだから、ホールにはぴったりだよ」
大森さんも話に加わる。
「カップル採用ってとこね。二人とも吉野くんの友達?」
「はい、悠斗は親友で、鈴ちゃんは悠斗の彼女です」
「タックンの周りには美人が多いんだな。以前来たアイドルみたいな子たち、一人はお姉さんで、パフェの子は幼馴染なんだろ」
美帆さんに聞いたのか。
「本当に、吉野くんは恵まれているわね」
美帆さんもからかってくる。
「パフェのほうは、もうすぐ面接に来ます。友達連れて」
「え、まじで? あの幼なじみも誘ったのか。たっくんも隅に置けないな」
「こっちもカップルでバイトなんて、妬けるわね」
とても妬いてくれているようには見えないニヤニヤぶりだ。
「美帆ちゃん、お客さん来たぞ」
楽しそうに雑談していた美帆さんは、仕事の顔に戻ってエントランスに向かった。
「あれ、戻ってきた」
美帆さんは真剣な表情で厨房の横を通り抜け、バックヤードに向かった。
その後ろには、小鴨のように三人の女の子がついていく。
一番前を歩くのは心優。
コッと微笑みながら、小さく手を振ってくる。
その後ろには、ショートボブの、あれっ?
愛衣ちゃん?
おさげちゃんは髪を切ったらしい。
目が合うと、彼女も笑顔で軽く会釈してくれた。
そして最後は……
えっと、ネコさん?
やばい、名前が出てこない。
和樹くんの姉さんだから、カズなんとか…… いや、違うな。
そのネコさんに、キッと睨まれた。
三人が店長室に消えていくのを見届けていると、大森さんが楽しそうに笑った。
「すごいな、タックン。あれみんな、タックンが連れてきたのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
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