91:唐揚げのためなら働ける
■金欠女子高生
家に帰って、軽く掃除を済ませたあと、ソファーに腰を落ち着けてテレビをつけた。
―― 近年、若い女性が男性とデートなどをし、その対価として金銭を受け取る「パパ活」が社会問題となっています。特に、女子高生がお小遣い稼ぎのためにパパ活を行い、トラブルに巻き込まれるケースが急増しており、深刻な状況です。
―― 本日は、実際にパパ活を行っている女子高生への取材を敢行し、その実態に迫ります。
―― スタジオには、青少年の問題に詳しい専門家をお招き……
パパ活か。おれには関係のない話だな。
「……悠斗でも誘ってみるか」
悠斗の家はそこそこ裕福な家庭だ。
バイトなんてしなくても小遣いだけで十分やっていける。
どうせ断られるとは思いつつも、ダメ元で電話をかけてみた。
そういや悠斗とは、夏祭りで会ったきり連絡を取っていなかったな。
『どうした、琢磨』
はやっ。
コール音もなしに出やがった。
「いや、ちょっと相談があってさ」
おれはバイト先で、人手不足に困った店長から友達を誘うよう頼まれたことを説明した。
『そういうことか。返事ちょっと待ってもらってもいいか?』
意外だった。
てっきり即断られると思ってたのに。
「悪いな。都合悪かったら遠慮なく断ってくれていいから」
『OK。いまデート中なんで、あとで連絡するわ』
そう言って、悠斗はさっさと電話を切った。
……エヴァはあの日以来、大人しくしているようだ。
と思いたい。
そろそろ姉ちゃんが帰ってくる時間だ。
風呂の湯を入れようと立ち上がったとき、玄関のドアが開く音がした。
なんか騒がしい。
「ななちゃん、どうしよう! どうしたらいいと思う?」
仕事帰りで疲れているはずなのに、帰ってきて早々、心優に絡まれるなんて、姉ちゃん、ついてないな。
二人がリビングに入ってきたので、おれは巻き込まれないように気配を消して静かに撤退しようとした。
「たっくん、どこ行くの?」
心優に腕をガシッと掴まれる。
「いや、今から風呂の湯を入れようと思って……」
「そんなの後でいいでしょ。そこに座って、私の話を聞いてよ!」
強引に腕を引っ張られ、おれはダイニングチェアに座らされる。
突然のことで、テレビを消し忘れてしまった。
リビングのほうからは、ボイスチェンジャーで声を変えた、女性の声が流れてくる。
―― 私みたいに特に取り柄がなくても、サクッと楽して簡単にお金をいっぱい稼げるじゃないですか。新しいスマホも欲しいし、友達と美味しいものを食べに行きたいし。
―― 最初は本当に軽い気持ちだったんです。でも、どんどんエスカレートして……
心優は向かいに座るなり、溜息まじりに話し始めた。
要約すると──
海の家で小遣いを使い過ぎて金欠になり、月末のお小遣い日までの約一週間、買い食いをするお金が無くなって途方に暮れているということだ。
おばさんに小遣い前借りを打診したが、あっさり撃沈されたとか。
「たっくぅん、なにかいい方法ないぃ?」
こいつに食い物以外の悩みってないのか?
「おじさんに甘えるとか?」
心優の父さんは娘に甘いからなぁ。
「それは無理。お母さんが『小遣いは渡さないように』って、お父さんに念押ししてるから」
なるほど、おばさんに先回りされたのか。
「少しくらいなら貸してあげられるけど」
エプロン姿の姉ちゃんが、手を止めずに言う。
「それはダメ」
心優はきっぱりと断った。
「お金を借りて、ななちゃんとの関係が壊れたりしたら嫌だもん」
いつも言っているように、心優は姉ちゃんとの関係を大切にしてるようだ。
「たっくんなら借りてあげてもいいけどね」
「誰が貸すか」
おれとの関係も大事にしろ。
「それじゃ、みゅうちゃんはどうするつもりなの?」
レシピ本をめくりながら、姉ちゃんが尋ねた。
「そうなんだよね。なにか手っ取り早くお金を儲ける方法って無いかな。私みたいな、なんの取り柄もない女子高生でも、サクッと楽していっぱい稼げるようなやつ」
…………
おれは思わず固まってしまったが、姉ちゃんは違った。
「みゅうちゃん、何考えてるの」
そうだよ、お前、何やって大金を稼ぐつもりだよ。
姉ちゃんはズイッと心優の前に詰め寄り、膝をついて心優の両肩をガシッと掴んだ。
「えっ……?」
真顔の姉ちゃんに、心優は声も出ないようだ。
「ダメだよ、そんなことしちゃ。唐揚げくらいなら私が毎日作ってあげるから、早まっちゃだめ。ねっ」
鬼気迫る姉ちゃんの説得に、さすがの心優も頬を引きつらせてる。
「な、ななちゃん、何を言ってるの?」
姉ちゃんは立ち上がって、心優を胸に抱き寄せた。
「みゅうちゃんは私の妹みたいなものなんだから、コンビニの唐揚げがいいんだったら、唐揚げ代くらい私が出してあげる。だから変なこと考えないで」
心優は困惑顔をおれに向けて、助けを求めてくる。
いや、おれも困惑してんだけど。
「いっぱいって、どれくらい欲しいんだよ」
「そうね、三千円位あれば」
…………
あっ、姉ちゃん、何事もなかったように心優からスッと離れ、キッチンに戻っていった。
「ねぇ、ななちゃん、唐揚げ作ってくれるってホント?」
「えっ、あっ、うん。明日でよかったら」
「やったぁ!」
心優は両手を握って、頭の上でガッツポーズを決める。
姉ちゃん、若干気まずそうだ。
……まあ、おれだって同じことを考えたんだけど。
そうだ、今なら。
「なぁ心優、お前、うちのファミレスでバイトしてみないか?」
「バイト? そんなの無理だよ、私、不器用なんだから!」
そうだよなぁ。ウエイトレスなんてしたら、料理を落としそうだもんな。
でも、店長と約束したし、一人でも紹介したという実績は残したい。
「時給は安いけど、月曜日と木曜日の週二回バイト代が出るんだ。明日が水曜だから、木曜日には三千円以上振り込まれるぞ」
心優の表情がわずかに揺れる。
――もう一押しだ!
「明日四時間バイトすれば、から揚げちゃんを16箱、1箱に5個入ってるから、えぇっと…… 80個買えるぞ」
心優は身を乗り出して、おれの両手をがしっと掴んだ。
「行く! 紹介して!」
よしっ!
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