111:写真の中の二人
■飲み込んだ想い
仕事終わりのおれは、なぜかパフェ専門店のテーブルに座って、時給を軽く超える値段のちょっと贅沢なフルーツパフェをじっと見つめていた。
……でかい。
これが一番安いメニューだなんて信じられない。
直径15センチくらいあるパフェ用グラスに、高々と盛り付けられたフルーツと生クリーム。
もはや芸術作品の域に達している。
向かいで店員さんが、愛衣ちゃんの注文したチョコレートパフェをテーブルに置き、にっこりと微笑んだ。
80センチ四方のテーブルに、このサイズのパフェが二つ並ぶと、正直かなり狭い。
「写真、お撮りしましょうか?」
左横の席でスマホを構えていた愛衣ちゃんに、店員さんが声をかける。
愛衣ちゃんのパフェは、おれのより十センチは高い。
早く食べないと溶けて倒壊しそうだ。
「すみません。それじゃお願いします」
そう言って愛衣ちゃんはスマホを店員さんに渡し、パフェに顔を寄せる。
「彼氏さんも、もっと近くに寄ってください」
「えっ、おれ?」
つい自分を指さしてしまった。
「ほらっ、琢磨さんも一緒に」
「はっ、はぁ……」
おれは遠慮がちに、愛衣ちゃんの隣へ寄る。
「はい、チーズ」
――カシャッ。
店員さんの明るい声とともにシャッター音が響いた。
「これでいいかしら?」
「はいっ、ありがとうございます!」
愛衣ちゃんがスマホを受け取り、ぱっと笑う。
横から覗くと、二つのパフェに挟まれ、おれたちが顔を寄せ合う姿が写っていた。
可愛い笑顔の愛衣ちゃんとは対象的に、ぎこちない笑い顔で写っている自分を見て、ますます自分の容姿へのコンプレックスが募った。
正直、消してほしい。
でも、愛衣ちゃんの嬉しそうな顔を見ると、とても言えない。
「琢磨さん、これ私のSNSに投稿してもいいですか? こんなにうまく撮れること、滅多にないので」
だめだ、断れない。
おれは渋々頷いた。
投稿を終えた愛衣ちゃんが、スマホをおれに向ける。
「んっ?」
「私のSNSを教えますので、れっ、連絡先を交換してください」
「えっ?」
しばらくフリーズしていたが、やっと意味を理解して、おれは慌てて鞄からスマホを取り出した。
ふと愛衣ちゃんを見ると、どこかホッとしたような表情をしている。
……どうしたんだ?
ロックを解除し、メッセージアプリを開くが……
友達追加の仕方が分からない。
滅多に追加するものじゃないしな。
「ちょっと借りますね」
モタモタしていると、愛衣ちゃんがサッとおれのスマホを取り上げ、手慣れた指さばきで操作し始めた。
すぐに小さな電子音。
「はい、完了です」
愛衣ちゃんからスマホを受け取ると、すぐに通知音が鳴った。
「私のSNSです。時々でいいから見てくださいね。あと、”いいね”も忘れずにお願いします」
「うっ、うん」
なんとなく押しに負けて、すぐにSNSを開く。
アプリが立ち上がり、さっき撮った写真がトップに表示された。
とりあえず、いいねボタンをタップする。
「アカウント、持ってたんですね」
「いつか忘れたけど、心優が勝手にアカウントを作ったんだよ」
「勝手にですか!?」
そんなに驚くことかな?
「写真を見て”いいね”を押せって言われたんだけどさ。開いてみたら、から揚げちゃんの写真ばっかで、すぐに見るのをやめた」
「たしかに、神木先輩って食べ物の写真しか投稿してませんもんね。特に晩ご飯のおかずとか多いですよね。あっ、でも最近は可愛い猫の写真もありましたよ」
言われて心優のページを開く。
「これ、昨日のうちの晩ご飯のおかずだ。こっちは一昨日の。で、これはその前の……」
何枚かダミアンの写真も混ざってるが、大半は姉ちゃんが作った晩ご飯の記録だった。
「神木先輩って、琢磨さんの家で毎日晩御飯を食べてるんですか?」
愛衣ちゃんの指摘通り、毎日のようにうちで晩御飯を食べてるみたいだ。
「正確には晩ご飯の後の“ちょっと早い夜食”かな。海に行ったとき話したけど、うちの姉ちゃんと心優は実の姉妹みたいに仲が良くって、いつもリビングで二時間くらい喋ってるんだよ」
確か、食後食だっけ?
そう答えた途端、愛衣ちゃんの表情が曇った。
どうしたんだ?
「それより愛衣ちゃん、今日は何か用があったんじゃないの? 話したいことがあるって……」
今日、こんなお洒落な店に来たのは、愛衣ちゃんから「話したいことがある」と誘われたからだ。
「いえ、その話はまた今度」
え、また今度?
「琢磨さん、早く食べないと溶けちゃいますよ! さっ、早く!」
急に早口になった愛衣ちゃんは、どこか悩むようにうつむいたままパフェを食べ始める。
おれはその様子を少し眺めてから、スプーンを手に取った。
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