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105:可憐な暴君

■レディの扱いを学べ


 玄関ドアを閉めると、靴を脱ぎ捨てて、そのまま階段を駆け上がった。


「ダミアン!」

 部屋のドアを乱暴に開け放つが、返事はない。


 寝ているのかと思って押し入れの中を覗いてみたが、気配すらなかった。


「隣の部屋か……」

 小さく呟き、隣の部屋のドアを開ける。


 シャッターが下りた薄暗い部屋の電気をつけると、ちょうど仏頂面のダミアンが押し入れから出てくるところだった。


「大きな声で吾輩を呼ぶな、うっとうしい」

 ぶっきらぼうに言いながら、可愛らしいキャミソールを着た少女の姿で、押し入れから飛び降りた。


 スカートの裾がふわりとめくれる。

 おいおい、パンツ、いやパンティが丸見えだ。

 さらに肩のあたりから、ブラの紐までチラッと見えていた。


「……お前、ブラジャーまで自分で作ったのか?」

 つい感心して見入ってしまう。

 すると、ダミアンの目が鋭く細められた。


「貴様、目つきがいやらしいな。もしや、吾輩に欲情したのではなかろうな?」

 じろじろ見られて嫌がっているのか?

 あっ、でもちょっと嬉しそうだ。


「いや、お前が作った服のクオリティが高すぎて感心してたんだ。これ、フィギュアショップに持ち込んだら、高値で売れるんじゃないか?」

 ダミアンの表情が一気に消え、おれに向かって歩み寄ってきた。

 そして、何の前触れもなく、弁慶の泣き所に蹴りが入った。


「あ痛っ!」

 床に転がり、呼吸もまともにできないほどの痛みが襲う。

 さらに追い打ちをかけるように、ダミアンが肩を踏みつけた。

 冷たい目がおれを見下ろす。


「貴様には、レディの扱いというものを、一から叩き込まねばならんな」

 指をポキポキ鳴らす音が耳元で響く。

 こいつは本当にガラが悪いなぁ。


 いや、それより脚が、脚がめちゃくちゃ痛い。


「あっ、脚、折れてないか?」

「ふん、そんなもの唾をつけなくても数分で治る」


 本当に折れてるのか?

 怖くて脚を見ることが出来ないぞ……


 しばらく息が荒くなっていたが、次第に痛みが和らいでいく。

 これも、血の契約のおかげか。


 ダミアンは、おれの顔の横にドサッと腰を下ろしてあぐらをかいた。

 やっと足が完治したので、おれもダミアンの前であぐらをかく。


「ごっ、ごめん」

 なんとか謝罪の言葉を絞り出すと、ダミアンは冷たい瞳でじっとこちらを見上げた。


「うむ」

 ……骨を折られたおれが謝るって、どう考えても理不尽だ。


 でも、こいつも女だ。

 これからは女として扱うように心がけよう。

 でないと、致命傷にならない程度に報復されそうだ。


「でっ、何の用だ」

 ダミアンが仏頂面のまま問いかける。


「帰り道で爆裂のあっくんに会ったんだよ」 

 その一言に、ダミアンの眉がわずかに動く。


 話を続けると、ダミアンはすっと立ち上がり、部屋の中を落ち着きなく歩き始めた。

 右へ、左へ。

 頭の中で何かを整理しているようだ。


「でっ、奴は貴様のことは気にも留めなかったのだな?」

「あぁ、 『わりぃわりぃ』 とか言って謝ってきたぞ」

 その答えに、ダミアンは小さく唸る。


「ということは、サマエルは貴様が吾輩の関係者だと気づいていないということか……」

 ダミアンは顎に手を当て、思案するように目を細めた。


「たぶんな」

「よし、今後その男には近づくな。もしまた会うようなら、そいつに調子を合わせて、さっさとその場から立ち去れ。絶対に関わるな」

「わかっているよ。あんなのに関わりたくない」

「それでいい。もし奴がエヴァを襲ったのであれば、近いうちにエヴァが片付けるだろう」


 確かに、エヴァなら何とか……

 するだろうけど。


「でも、あっくんも人間だろ。あいつを殺せば鈴ちゃんが辛い思いをするんじゃ……」

 おれの言葉を聞いたダミアンは、冷たく鼻を鳴らした。


「エヴァが自分の命を脅かす者を放っておくはずがない」

 その一言が胸に重くのしかかる。身近なやつが、人を殺すかもしれない。

 そんな現実を突きつけられるのは、想像以上に苦しいことだ。

 おれの動揺を察したのか、ダミアンが続ける。


「エヴァの命を狙ったのだ。しかたがないと諦めろ。そうしなければ鈴が死ぬことになる」

 そうだ、何も悪くない鈴ちゃんが殺されるなんて、絶対に避けるべきだ。


「しかたない…… か」

 身近な人達に危険が及ぶ。


 こんな状況下なのに、そんな当たり前のことを、おれはまだどこか他人事みたいに感じていて、ピンときていなかった。

 おれが知らないところで、たくさんの人達が、命を失い、傷ついているというのに。


 思い悩んでいると、ダミアンが小さな手でおれの膝に触れ、にこりと柔らかく微笑んだ。


「そうそう、脚を折ったというのは貴様の勘違いだ。だが、次もそうだとは限らないからな」

「ひっ!」

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