私情警察4 ~中編~
「どうぞ、おかけください…江藤さん」
「失礼します…」
年配女性の名まえは江藤玲子。能面のような…どこか感情がないように見える。
(ここにくる時点で、そうとう苦しい思いをしているはずだ…)
彼女は無言で腰掛けた。
「話しは聞いております…。轢き逃げだそうですね」
「ええ…あなたの知り合いの圭介さんにはお世話になりました。とても親身になってくださって…いろんなところから情報をかき集めてくれたんです」
(アイツ…オレ以外には誠実だな……)
「しかし、おかしいですね?あの事件は犯人が捕まったと聞きましたが…」
オレは目をほそめた。
「しかし、ここに来たということは…」
「そうです、やつらは身代わりを使ったんです!」
「身元不明の人間を使って…自分らは逃げおおせた…そんなところでしょう?」
彼女は静かにうなづいた。
「しかし、なんで?そのことを江藤さんは知っているんですか?」
「わたしが……行きつけの店でやつらが来て…すべて聞いてしまったんです…!しかし、警察に行っても証拠がないので、なんともなりませんでしたが…」
(そこで、圭介に出会ったか…)
警察というのは、カタがついた事件をそう簡単に掘り返したりはしない。
自分たちのメンツもあるからだ。有力な情報があるならともかく…。
まして、老婆の証言だけでは…妄言で片付けられてしまう。
「あいつらは…ヘラヘラ笑っていたんです…!」
(……………!)
「あいつらは…反省なんかしていない! 運が悪かったとしか思っていない!」
すべてを話すと江藤さんは指輪をギュッと胸に抱きしめた。
「老後はしずかに暮らそうと…約束してたのに…いままで……二人三脚の人生でした…それがこんな形で…奪われるなんて…」
「あなたの事情は理解できました…」
だが…オレには必ず聞かなければならないことがある。
「江藤さん。オレがすることは法に反することです。そしてあなたはその犯罪に加担するのと同義…。その意味がわかりますね…?」
「ええ…!夫の無念が晴らせるなら…わたしは地獄に行く覚悟です」
(地獄に行く覚悟…か…)
その瞬間…江藤さんの顔が豹変した。
「たよれるのはもうあなたしかいないんです!!」
すべてを話し終えた彼女は、オレに頭を下げてきた。
「わかりました…。あなたの無念…オレがはらしましょう……!」
「ありがとうございます。圭介さんに…出会ってよかった…」
(圭介……いい仕事するじゃねーか……)
外道どもが生み出す負の連鎖…。それによってうまれた無念。
クルマの塗装などから轢き逃げ犯はすぐ捕まるものだが…なるほど替え玉か…。
だが、すぐに後悔させてやる…。法で裁かれた方がよかったとな…!
資料によると、外道どもは街はずれにあるライブハウスにあらわれるようだ。
なにやら話し声が聞こえてくる……。
「ったくよ、この間はついてなかったよなぁ、じじいはねちまってよぉ」
「ま、替え玉くんでなんとかなったけどな!」
「ぎゃはははははは!」
(今のどこに笑える要素があるんだよ?)
外道とは笑いの感性がちがうようだ。まったく理解できん。
ツカ、ツカ、ツカ……
「よう、アホども。断罪の時間だ」
「あ?おっさん…死ぬか?」
「今の話しに反応するってことは…ジジイの関係者か?」
「…………」
オレはなにも応えない。
毎回、毎回似たような会話のやり取り…もうウンザリだ。
「ああ、もうめんどくせぇからこれ使ってみるか…」
「ああ? なに言って…うげ! 目が…! 足が…!いてぇ!!」
「お、おい大丈夫か?テメェなにしやがった!」
オレが使ったのは…指弾というやつだ。
デコピンの要領でパチンコ玉を弾く…。
うまいヤツは空き缶に穴をあけられるらしいが…。今のオレにはムリか。
大体狙ったとこに飛んでいくが、いかんせん威力がない。
一撃で失明させるくらいにはしないとな…。
……と、考えていると無傷のほうの外道が勢い良く突っ込んできた。
「クソが…死ねやぁあ!! ゴラァ!」
オレに当たるわけがない。オレはかるく避けて腹パンをお見舞いした。
腹パン、ボディーブロ、アゴはね、足刀蹴り…キレイに決まった。
「ぐ、がはぁ!ぐ…ぇえ……」
外道は勢いよく吹っ飛んだ。
眼を痛がっていたもう一人の方は…完全に戦意喪失している…。
「や、やめてくれぇ~。目が…目が…」
(たった、指弾一つで戦意喪失か…ま、こっちは楽でいいがな…)
コツ……コツ………コツ………
静かに外道たちに歩み寄る…。
「こんなことに時間はかけたくないんだ…」
目を痛がっている外道をハイキックで意識を刈りとった。
こうしてターゲットの二人を捕獲したオレはいつもの場所に連れ込んだ。




