20 ルリィ十歳に戻る
ルリィ視点です。
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「元護衛の怪我を治して欲しい」とランベルトが願い出てきて、私はその願いを叶える。
幼いランベルトが私を見る目はキラキラと輝いていて、眩しくて真っ直ぐ見ることが出来なかった。
精力的に治癒魔法をかけて回り、私の魔力量の増え方は前回よりもっと多かった。
前は頭一つ分飛び抜けていたが、今は頭三つ・・・五つ分くらい飛び抜けている。
まだ戦争にすら行っていないのに、既にエリアヒールが使える。
このまま力を振るい続けたら、この国から病人はいなくなってしまうではないだろうか?
魔力を使い果たして気を失っても、夢の世界の夢は見なくなってしまった。
戦争に行ったら見るようになるのだろうか?
せっかくもらったやり直しの機会を失敗で終わらせたくない。
第一王子に些細なことで呼び出されることも、女性との過ちのために朝に呼び出されることも前回と変わりがない。
私がその女性達の名前を手帳に書き連ねていくことは変えたりしない。
何があっても、第一王子の妻にはなりたくない。
十三歳になって戦争に行くことになり、戦場でエリアヒールを味方だけに掛けるという器用なことをしながら乱発していると、十四歳で戦争が終わってしまった。
前回は十六歳だった。
この二年を有効に使わなくては。
メキシアの領地の半分をジャイカルは勝ち取ってしまった。
ここでも前回と大きく変わってしまった。
戦争の功労者として報奨をもらうことになり、第一王子との婚約破棄を申し出て、前回と同じように認められ、第一王子は同じように南で子爵として生きていくことになった。
この後、貴族達がうるさくなるのが解っていたので、報奨の場で、防壁作りの手伝いへと出発する許可ももぎ取った。
今回はどこにも寄り道せずに防壁へ辿り着き、土魔法を思う存分振るった。
前回は初めての土魔法で百m程だったものが、一kmほど一気に防壁を建てられた。
工事日程が短く済むことに、私はホッとしていた。
今回はランベルトと結婚してからは離れなくていいようにしたい。
時が戻ってからずっと考えていた。
私はどうしたいのか。
前回とかなり変わってしまったけれど、ランベルトは私を望んでくれるだろうか?
毎日不安に思いながらも、土魔法を使い続けた。
メキシアの王族が来る前に防壁は完成した。
後で嵩上げをしなくていいように、始めから十五mの防壁を作った。
私以外の土魔法使いの成長が望めないけれど、気が付かないふりをした。
堀にも水を流した。
川の堤防を作り、騎士寮を建て、大衆浴場を建て、世帯用のマンションも建てた。
道の敷設も前回同様にした。
山頂砦も作った。当然、全ての砦にエレベーター完備だし、水道もあらゆる場所に設置した。
ただ、どれも魔力が必要になるので、魔力が全くない人にとってはトイレの水一つ流せない事態になっている。
力を使い果たしても、違う世界の夢は見られない。
メキシアの王族がこちらに向かってきていると報告が入り、私は防壁から離れ、村々へと治癒と回復魔法を掛ける旅に出た。
通りすがりに広範囲にエリアヒールを掛けて顔も見せずに通り過ぎる。
ハルロイ邸に辿り着いた時、ランベルトと出会えた。
メキシアの王族に治癒魔法を掛けて欲しいと言われたが「敵に掛ける情けはない」と断った。
ランベルトは納得してくれた。
それでも旅に同行するように言われ、同じ馬車に乗ることになった。
この時、私はまだ十六歳だった。
ランベルトに、なにか言われる前に、カルフォヴィアの国境にも防壁を建てたいと、私から言うと、逡巡の後、頼むと言われた。
私はランベルトと別れて防壁作りに精を出した。
カルフォヴィア、マーベラス、ジュラク、カンガンゴの防壁を全て作り上げた時、私は十八歳になった。
王家からの勲章と報奨を受け取り、大金を手にした。
今思い出せば、前回は報奨を与えると言われただけで、まともに報奨を貰わなかったと思い出した。
報奨も貰えず、ランベルトと生活もできなくなってしまったのだと気づき、泣くに泣けないと思った。
今回もランベルトに逃げ道を塞がれ、結婚を迫られた。
凄く凄く嬉しかった。
時が戻された時、ランベルトを純粋に愛している自信がなかったので、嬉しいと感じられたことにも喜びを感じた。
私は現在、ランベルトを愛しているのかもう一度必死になって考えている。
意地だけでは駄目だと自分の心の中を必死で見つめ続けた。
結局私はランベルトとの結婚を選んだ。
前回と同様、ランベルトが十八歳になった日、私は陛下と一緒にバージンロードを歩き、ランベルトへと手渡された。
両親と兄弟は涙で濡れていた。
ランベルトの寝室で処女膜再生をしてみたが、今回は反応がなかった。
私の処女膜は戦争では今回は破れなかったみたいだ。
ランベルトが私の中から出ていった時、彼自身に血が纏わりついていた。
二度目を求められ、三度目を求められた時、ランベルトに「愛してる」と言われ「私も愛してる」と伝えた。
ランベルトは信じられないという顔をして、私を強く抱きしめ、三度目を受け入れた。
ランベルトと話し合って、浄化魔法は使わなかった。
ランベルトは「一日も早く子供が欲しい」と言った。
「二人の時間も勿論大切なのだが、やはり子供が欲しいのだ」と言った。
子供は多ければ多いほど嬉しいと、ランベルトは話す。
この国は、聖人、聖女の力を発露させてしまうと教会に可愛い我が子を取り上げられてしまうから。
前回は、ランベルトに何も聞かず、浄化魔法を使っていた。こんなところでもランベルトに我慢させていたのだと初めて知った。
王都を出発すると、今回は奥様方は脱落しなかった。
すでに道が完成していたから。
山を掘ってトンネルも作ってあるので、ハルロイ邸まで四日程で着く。
ハルロイでお世話になって、ハルロイ砦を通り過ぎて、ナルニア邸に宿泊した。
ここで、今生では初めての温泉に浸かった。
温泉が好きだと伝え、この地に温泉施設を作ろうと提案した。
ナルニア邸から馬車で一日の距離に宿泊するための宿をその場で作った。
私の土魔法に全員が驚いて、野営しなくて済んで助かったと礼を言われた。
翌昼前にヴェルトラム邸へと到着した。
今回は奥様方とも十分交流を持つ時間を持てた。
知らなかった貴族のご婦人方とのお付き合いで色々と教えてもらうことができた。
まだ半月以上はベルトラム邸に側近とその妻たちもいるので、交流ももっと深めることが出来るだろう。
新たなベルトラム邸の場所を、宿から馬車で一日の距離に移動させよう。と提案した。
そうすれば少し、クルイストに近づき、馬なら一日で着く事ができると言うと、皆の了承がとれた。
新しく建てる場所にランベルトと一緒に立ち、玄関がこの辺で・・・等話をして、とても楽しかった。
土魔法で建物の外観を仕上げ、今度は手を繋いで一緒にランベルトと屋敷の中に入った。
細々とした区切りを作って、大きな浴場を設置して温泉の水脈から湯が上がってくるようにした。
「物見台を作ろうかと思っているんだけど・・・」
「物見台?」
「うん、ここからでもメキシアの様子が見て取れるように、背の高い建物を建てたら便利でいいかと思って・・・」
「一度試しに作ってみてくれるか?」
前回にはしなかった会話を、ランベルトとした。
勝手に作るのではなく、話し合って作ることに意味がある。そう信じて。
愛してるの言葉も安売りにならない程度に、ランベルトへ伝える。
物見台は前回と同様にランベルトは喜んで、最上階までエレベーターで苦もなく上がる。
戦争が早く終わったこともあって、死んだ村民も少なく、前回のように人が足りないとぼやく必要が少なく済んだ。
勿論人手は足りないのだが、若い人たちが生き残っていて、治癒魔法と回復魔法で無理が利いた。
側近達が各々の屋敷へ向かうと、新しい屋敷へと引っ越しが始まった。
引っ越しが落ち着いた頃、側近達の屋敷へと視察へ回ることが決まった。
順番に回りながら、側近達の屋敷の横に物見台を建てていく。
「ハルロイへ行くことがあったら、ハルロイにも物見台を作ってやってくれ」
とランベルトに頼まれて私は「一緒に行ってくれるなら」と了承した。
村民達に治癒と回復魔法を掛けて、問題点を洗い出し、次の屋敷へと向かう。
ぐるりと一周して、アンサーレッツと時戻りして初めて会うことになる。
ランベルトと離れることなくずっと一緒。
アンサーレッツの領地にも各屋敷に物見台を接地して、オールベルトへと向かった。
オールベルトでも同じことをして、子供が生まれるのを楽しみにしていると伝える。
防壁にはもう、手を加えるところはない。
ランベルトと一緒にヴェルトラム邸へと戻り、ランベルトに可愛がってもらう。
恥ずかしいけれど、たまに一緒に温泉にも入る。
ルリィの心には今生でついたものではない、大きな傷がある。
その傷は一生消えないのだろう。罪の意識とともに。
いつランベルトに捨てられてしまうのか、突然不安に襲われる。
そんな日はランベルトに少し甘えて安心する。
ランベルトを私に引き止めるために早く子供が欲しかった。
陛下が視察に来たいと言い出し陛下を迎える準備に忙しくなった。
ランベルトと一緒にハルロイ砦へ行き、第二防壁の屋敷にも物見台を設置した。
ハルロイ、オートマル、ガリアルトにも喜ばれた。
メキシアとカルフォヴィアから村民が逃げ出し始めた。
メキシアの王族と関わらなかったのに、やはり戦争は避けられない。
ほんの少し心が逸った。
同じ失敗はしないと自分に言い聞かせる。
聖女ルリィが欲しいとメキシアが言っていると情報を入手した。
今回はメキシアの王族に会わなかったのに何故?と思ってしまった。
ランベルトは「この防壁を作った人物を欲しがるのは当たり前のことだ」とルリィを抱きしめてくれた。
陛下が近づいてくる報告書が届く。
私は女主人として屋敷の中の差配をしている。
足りないところはレイとロアが助けてくれる。
前回は全く関わらなかった。けれど今回は違う。
私が主導する。助けてもらうだけだ。
ランベルトにも色々助けてもらって、準備がなんとか整った。
陛下がやってくることにランベルトがソワソワしているのが少し可愛い。
ナルニアを出発して、中間の宿で一泊したと伝令が来て、翌日、日が暮れる少し前に陛下はやって来た。
「屋敷まで新しいものになっているのか?」
「ルリィが頑張ってくれました」
陛下は嬉しそうに「そうかそうか。仲良くやっておるか?」と聞いてきて、恥ずかしい思いをしながらも、二人で「はい」と答えた。
陛下と初めての食事に緊張したけれど、陛下は鷹揚でいてくれた。
ランベルトと陛下がお酒を飲むので私は退席し、明日の手配をロアに確認した。
翌朝、少しお酒を飲みすぎた二人に、笑って回復魔法を掛けて、感謝され、陛下が「他の聖人、聖女達と効果が違う気がするな」とおっしゃった。
陛下は二日酔いが無くなると、ガッツリと朝食を食べ、物見台へと上がりたいと言った。
「聖人の方はお休みしていただいても構いませんよ。勿論、一緒に登られてもいいですよ」と私が言うと「では休ませてもらいます」と言って、その日はゴロゴロすると言っていた。
エレベーターで一気に最上階へと昇る。
「素晴らしい眺めだな!!メキシアを見下ろせるのが素晴らしい」
陛下はここにいると言って、その日の殆どを物見台の最上階で、ジャイカルとメキシアとカルフォヴィアを見下ろしていた。
前回に比べると、物見台は凸形になっている。
最上階へ行くには一階分だけ階段を登らなければならない。三六〇度の視野を確保したかったから、エレベーターは下の階まで。
物見台から降りた陛下は、「いい気分だった。ルリィよ、今度王都に来たら、城にも物見台を作ってくれ」
「かしこまりました」
「エレベーターも頼むな」
「お任せください」
そう言って笑っている陛下を見て、前回、私がいないときにもこんな風に楽しく会話したのかな。と思った。
前回はエレベーターはなかったけれど。
その日はゆっくりするとおっしゃって、部屋で食事を取られ、早々にお休みになったと報告があった。
「ルリィ、ありがとう」
「何がですか?」
「ここにいてくれて、父上に心を尽くしてくれて、感謝する」
「当たり前のことをしているだけです」
ランベルトにこんなふうに感謝されたことがなかったと思って、涙が出そうになった。




