13 ルリィが自分のしていることはまずいことだったのではと気づく
ルリィ視点に戻ります。
こちらを読んで、ランベルトの駄目さ加減に歯止めがかかればいいのですが・・・。
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防壁は建てても建てても終りが見えない。
カルフォヴィアとの国境だけだと思っていたら、マービラス国の国境にも防壁を建てることになり、マービラスとカルフォヴィアの国境にも防壁を建てることになった。
それが完成したと思ったら今度はジュラク国とカンガンゴ国にも防壁の設置を頼まれ、私はヴェルトラムに一年半以上帰っていなかった。
ランベルトとハルロイで別れた日のことを思い出す。
私は魔法を使うことに溺れている。
陛下と別れてからも土魔法を使うアイデアが色々と湧き出てきて、それが楽しくてランベルトの下に帰らなかった。
今思えば陛下と別れてから、一度戻るべきだった。
なのに私は戻らなかった。
皆に感謝されることにも酔っていた。
ランベルトは腹を立てているのか、見切りをつけてしまったのか、私に話しかけることなく、まともに顔を合わせることもなく、翌日挨拶もなく視察へと旅立ってしまった。
私は一人で目覚めた夫婦の寝室で呆然とした。
私が眠っていたせいで、ランベルトは何もしなかっただけなのかと思いたかったが、隣を見ると寝乱れた様子はなかった。
ランベルトの私室のドアを開けると、私室のベッドは寝乱れていて、ナイトテーブルには氷が溶けたグラスが一つポツンと置いてあった。
よくよく思い出すと、ランベルトと一緒に居た日数は五十日超えるか超えないかだけではないかと気づく。
妻として何もしていない・・・。
屋敷のことはロアに任せるけれど、最終判断は私がするつもりだった。
けれど、今の私は屋敷のことは何も解らない。
使用人達のことすら解らない。
離れている間、手紙すら報告書すら出したことはない。
カルフォヴィア側の防壁が完成した時には手紙を出したほうがいいかも知れないと考えたことはあった。
けれど今更手紙を出すのか?と考えてしまて、出しそびれてしまった。
そしてランベルトから最後に届いた手紙には、愛妾を持つ決心をしなければならないときに来ていると書かれていた。
当然、嫌だったけれど嫌だと言えなかった。
というかその手紙にも返事を出せなかった。
いつの間にか新しい屋敷に引っ越しは終わっていて、新しい屋敷に入る時は手を繋いで入ろうと言っていたことは、できなくなったのだと思い至った。
護衛騎士や側にいた人達に聞くと、一ヶ月に二度ほどは手紙を出していると言っていた。
私が一度も出していないと言うと「さすがにそれは酷いのではないか」と言われたが報告書を出す時に伝言を頼んでいたので、それで十分だと思っていた。
ランベルトへ手紙を出すことよりも、魔法をどう使うかのほうがよほど大事だった。
魔法に意識が行くと、他のことなど考えている余裕はなくなる。
意識を失って眠って、夢の中の世界のことを少しでもこちらの世界に取り入れることに夢中になってしまう。
私はことごとくランベルトを粗略に扱ってしまっていた。
ファルビナに一度ヴェルトラムに帰りたいと伝えると「今更ですか?せめてカルフォヴィアの国境沿いが終わった時帰るべきでしたね。ハルロイからなら一日の距離だったでしょうに。ここから引き返すのは無駄な時間を消費するだけなので、諦めてください」と言われて私は諦めざるを得なかった。
私は胸の内を護衛騎士達に話すと、非難はしなかったが「防壁作りが終わったらどこに帰ればいいんでしょうね?」と一人がぽつりと言った。
それはベルトラムに帰れないということなのだろうか?
その日から、護衛騎士達は無駄口をたたかなくなってしまった。
楽しかったはずの防壁作りがちっとも楽しいものではなくなった。
余計に夢の世界へと逃げ込むことになってしまった。
護衛の一人が、防壁作りが済んだ後、私達はどうすればいいのか指示を下さいと手紙を送ったそうだ。
その返事は王城へ帰ってくるようにと書かれていて、ヴェルトラムには帰れないのだと知った。
護衛騎士達は、ヴェルトラム邸には数えるほどしかいなかったので、愛着はないと慰めてくれたが、ヴェルトラムに帰れないのは全ては私の責任なのだと思った。
カンガンゴの端まで防壁が完成して、防壁の設置に携わっていた全員が王城へと向かうことになった。
ファルビナ様が一緒だということもあり、民達に治癒はせず真っ直ぐ王城へと向かう。
私はヴェルトラムに、ランベルトの下に帰ることに急いていた。
王城に着くと、回復魔法を掛けると、全員元気になる。
客室を与えられ、お風呂に入りたいとお願いした。
お湯に浸かり、ただ、落ち込む。
もうこれ以上は入っていられないと云うほどお湯に浸かって、出ると「聖女様」と呼ばれた。
「陛下と王妃が謁見する前に内々にお会いしたいと仰っています」
「解りました。今直ぐでしょうか?」
「はい。お願いしたします」
メイドの後ろを付いて歩き、応接室のような部屋へと招き入れられた。
陛下と王妃に挨拶をして、腰を下ろすことを進められた。
腰を下ろすと、防壁の完成に感謝していると丁寧な礼を言われ、話は進んでいった。
「ルリィに自由恋愛を認めたのに、ランベルトしか選べないような結婚を進めてしまって済まなかった。聖女ルリィがここまで結婚を嫌がっているとは思わなかったんだ」
「えっ?!」
想定外のことを言われて私は戸惑う。
王妃にも謝られて、私はどうしていいのか解らない。
「ランベルトから離婚届を預かっている。もう三年も何の連絡も取っていないそうだな。本来なら婚姻解消をしてあげたいのだが、白い結婚では無かったようなので、婚姻解消は認められなかった。本当に申し訳ない」
「あの、ちょっと・・・待ってください。どういうことでしょうか?離婚って・・・?」
「ランベルトから聞いている。必要最低限しか接触はなかったと。ランベルトに近寄るのも嫌で、全く帰らなかったのだろう?ランベルトも無理やり結婚させてしまったと後悔している。王族とは関わりたくないとずっと言っていたのにと」
陛下が何を言っているのか解らない。
「このまま不幸な結婚を続けるより、あっさり別れてしまったほうが、互いのためになると思うのよ」
王妃も何を言っているのだろう?
「不幸な結婚・・・?ですか・・・?」
「ええ。ランベルトとの結婚は聖女ルリィの望まない結婚だったのでしょう?」
それは確かに、結婚前にはそう思っていたけど・・・。
陛下と王妃の話は離婚が決まったことのように語られる。
「聖女ルリィはどのような未来が望みかしら?あなたの望むようにしたいとランベルトとも、陛下とも話していたの」
「ランベルトも?」
「ええ。あの子が一番後悔しているわ。無理強いして結婚させてしまってすまないと謝っていたわ」
「無理強い?」
私が戸惑っていることに陛下は気づいて「とりあえず、明日からどうしたいかな?教会に戻りたいかな?」
「私はヴェルトラムに戻るとばかり思っていました・・・」
「それが嫌で、戻らなかったのだろう?」
「えっ?!」
「陛下、聖女ルリィも色々聞かされて考えなければならないでしょう。今日はここまでにしましょう」
陛下も王女も何を言っているのか全く解らない。
陛下が頷くのが見えて、メイドに立ち上がるよう促される。
退室の挨拶もまともにできたのかも解らないまま、あてがわれた客室のソファーへと腰を下ろした。
目の前のテーブルにはランベルトの署名入りの離婚届が置かれていた。
私は離婚届を眺めたまま一晩を過ごして、未だ考えがまとまらず混乱していた。
ランベルトと離婚するの?
そんなこと考えたこともなかった。
いや、結婚していたことも考えていなかった。
私はどうすればいいの?
ランベルトと話をしなくちゃ・・・。
そうよ、ランベルトと話をしなければならないわ!!
私はメイドにヴェルトラムに帰ると伝えると「さすがにそれは思いやりがなさすぎるのではないでしょうか?」と言われた。
「申し訳ありません。差し出口でした。聖女ルリィがヴェルトラムに行きたいと言っていることを伝えてきます。暫くお待ち下さい」
別のメイドが朝食の用意をしてくれて、部屋を出ていく。
朝食が片付けられ、昼食が用意され、それも片付けられてもヴェルトラムへ帰りたいと言った返事は返ってこなかった。
夕食前になって、昨日訪れた応接室に呼び出され、王妃が一人で待っていた。
挨拶もそこそこにヴェルトラムに、ランベルトの下に帰りたいと伝えると「帰るって・・・」と王妃に戸惑われた。
「私、離婚したいなんて考えたことありませんでした」
王妃は酷く辛そうな顔をした。
「どうでも良かったのですね・・・」
「違います!!離婚なんて考えたこと、本当に無かったんです。目の前のことをこなすことが楽しくて、他のことを考える余裕が無かったんです。正直、土魔法を使うことが楽しかったです。でも、それはランベルトが後ろにいてくれると思っていたからで・・・」
いや、それは嘘だと自分で思った。ランベルトのことなんか考えたこともなかった。
夫だと解っていたし、報告書で元気でやってると連絡が言っていればそれでいいと思っていた。
ランベルトが後ろにいるなんて考えたこともなかった。
「解っていますよ。ランベルトに愛情がなかったことは。ランベルトも知っています。だから聖女ルリィを自由にすると言っているのです」
「離婚なんて望んでいません!!」
「でも、結婚生活もする気はないのでしょう?」
「それは・・・」
「離婚するという話になって戸惑っているのは解ります。でも、もうランベルトを傷つけてほしくないのです。ランベルトは傷つきすぎました」
王妃は目の前にあるお茶を持ち上げ、一口飲んで、ため息とともにカップをソーサーに戻した。
「聖女ルリィは何がしたいのかしら?」
「ランベルトと話をしたいです」
「それがランベルトを傷つけるだけでも?愛していないでしょう?」
また王妃はため息をついた。
「離婚届にサインして自由になりなさい。聖女ルリィはやりたいように生きていけます。王家からまだ防壁の設置の依頼もあります。あなたの好きな魔法をまだまだ使い続けられますよ」
「信じていただけないかも知れませんが、私は私なりにランベルトを愛しています」
王妃は信じられないと表情が語っていた。
「私はランベルトにこれ以上傷ついてほしくないと思っていますが、あなたがランベルトを愛していると言って、ヴェルトラムへ行くというのなら、私は止めることはできません。お好きになさい」
「ありがとうございます。直ぐにヴェルトラムへ向かってもいいですか?」
「流石に無理でしょう。まだ陛下との謁見もしておりませんし、聖女としての仕事はこなして欲しいと思います。よく眠れていないのでしょう?今夜はゆっくり眠った方がいいと思います」
「解りました・・・。では失礼いたします」
客室に戻ってベッドに横たわると、昨夜眠っていなかったこともあって、私は瞬時に眠りについた。
翌朝、朝食を食べると私は直ぐに出立した。
陛下との謁見があると言われていたこと等、頭からすっぽり抜け落ちていた。




