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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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93.乾坤一擲、白玉煉成

霊海では波がうねり、潮が満ちては引いていた。


見渡す限り、海水はすべて淡紅色に染まっている。

ここはもはや一環の青銅の霊海ではなく、二環精霊使いだけが持つ赤鉄の霊海だった。


空界の四方は、明るい白色の光膜に覆われている。

紛れもなく、二環初位の光景である。


赤鉄精神力で満たされた霊海は、空界全体の四割四分を占めていた。

その海面の上に、逆矢が静かに姿を現している。


一年近くにわたる眠りと休養を経て、逆矢の状態はようやく幾分か回復していた。


かつての胴体は粗く、くすみ、一片の光沢すらなかった。

まるで枯れ朽ちた薪のようだったが、今では表面にごく薄い油を塗ったような艶が浮かび、わずかな生気を取り戻している。


以前の両翼は、秋風に吹かれて落ちる枯葉のようだった。

色は枯れた黄色で、縁も至るところが欠けていた。

今では翼の表面に淡い緑色が芽生え、欠けていた縁にも細い黒線を引いたような輪郭が生まれ、再び完全な弧を描いている。


(逆矢は時間を食らう精霊だ。流れ去る時間そのものから力を取り込み、ゆっくりと己を修復することもできるのか?)


ラインは逆矢を見つめ、考えを巡らせた。

本源精霊に対する理解が、また一つ深まった。


精霊使いは精霊を煉り、養い、使う。


そのうち「使う」の一語だけでも、無数の分野に細分化できる。


ラインは前世で逆矢を錬成したものの、その性質を詳しく調べる暇もなく使ってしまった。

だからこそ、今もこうして新たな特性を一つずつ確かめている。


(とはいえ、今もひどく衰弱している。死の淵から、ほんの数歩這い上がったにすぎない。

現状で利用できるのは、やはりその気配だけだ。環階(ランク)の高い精霊の威圧によって、ほかの精霊の野生意識を抑え込み、単体の精霊を煉化する助けにできる。

だが、煉成には何の力も貸せない)


煉成の成功率を高める役割は、別種の特殊な精霊が担う。


それぞれの精霊には得手不得手がある。

逆矢の力は時間と重生に集中しており、もともと精霊の煉成には向いていなかった。


逆矢のほかにも、海面には数体の精霊が浮かんでいる。


丸々と太った酒虫は身体を小さく縮め、赤鉄精神力の波に合わせて上下しながら、楽しそうに揺られていた。


白いテントウムシに似た白イノシシの精霊は、翡翠のようなヒスイズスキンと互いの周囲を巡りながら、海面の上をゆっくりと飛んでいる。


ラインは空界から意識を引き戻し、目を開いた。


右手をゆっくりと広げると、掌には一つの三日月と二つの五芒星が、印としてはっきり浮かんでいた。

そこに宿っている月印と、二体の微光蛍である。


ラインは寝台の上で胡坐を組んだまま、傍らへ目を向けた。


そこには三つの霊石袋が置かれている。

二つは大きく膨らんでいたが、三つ目はすでに半分以上しぼんでいた。


霊石袋の隣には、雪のように白いイノシシの牙が一本、横たえられている。

その大きさは、地球にいた成獣の象牙にも匹敵するほどだった。


病蛇のチームは苦戦の末にイノシシ王を倒した直後、雷狼の群れに襲撃された。


イノシシ王の肉の大部分は雷狼に食い荒らされ、死骸に残された最も価値ある戦利品は、二本の牙だけだった。


一族の規則上、ラインもイノシシ王の討伐に参加した一員である。

そのため、二本のうち一本を分配されていた。


ラインは目の前の霊石袋と牙を見つめ、次第に表情を引き締めた。


(残った霊石では、一度の煉成しか行えない。今回の煉成が終われば、成功しようと失敗しようと、手元の霊石はほとんど尽きる。

だが、このまま先延ばしにしても、日々の修練と精霊の餌で霊石は減り続ける。あと十数日も経てば、煉成を試すチャンスすら失うだろう)


ラインは合計七体もの精霊を養っている。

その経済的負担は、一般的な一環や二環の精霊使いを遥かに上回っていた。


しかも、ラインは下等資質である。


修練速度を維持するため、頻繁に酒虫を使って精神力を精錬するだけでなく、精神力を回復させるために霊石を何度も使用してきた。

当然、一日に消費する資源も桁違いに多い。


最近では、精神力の回復に霊石を使うことさえ中止していた。


今、霊海に満ちる赤鉄精神力は、すべて自身の回復力だけで少しずつ蓄えたものだった。


ラインはすでに、一個の霊石すら無駄にできないほど、細かく支出を計算している。


今の状況は、崖から転落し、両手で崖際の雑草へ必死につかまることで、かろうじて落下を免れているようなものだった。


しかし、時間が過ぎるにつれて、身体を支える草の根は一本ずつ千切れていく。

何もしなければ、いずれ谷底へ落ちる。


残された選択肢は、まだつかめるものが手元にあるうちに、それを足掛かりとして崖の上へ一気に這い上がることだけだった。


成功すれば、シロタマズスキンの力で分家任務を達成し、両親の遺産を取り戻せる。

そうなれば、ラインは新たな段階へ進めるだろう。


失敗すれば、そのまま谷底へ落ちる。


再び今の位置まで這い上がるために、どれほどの時間と労力を費やすことになるか、見当もつかない。


「いずれにせよ、始めるしかない」


ラインは深く息を吸い込んだ。

その目に、揺るぎない決意が宿る。


(白イノシシの精霊!ヒスイズスキン!)


ラインが念じると、二体の精霊は同時に空界から飛び出し、目の前で静止した。


(一(・)つ(・)に(・)な(・)れ(・)!)


心の中で鋭く命じる。


白イノシシの精霊とヒスイズスキンから同時に眩い白光が放たれ、そのまま互いへ向かって激突した。


衝突音は一切響かなかった。

しかし、二体の精霊は接触した瞬間、眩く輝く白光に完全に呑み込まれた。


白い光球が絶えず明滅している。


それは、ラインが二体の精霊へ残した意念が、少しずつ近づき、融合し始めた証だった。


ラインは二つの意念を安定させながら、霊石袋から霊石を取り出し、次々と光球へ投じていく。


霊石は中へ入るたびに急速に分解され、純粋な天然の精神力へ変化した。

力を失った白い石粉だけが、雪のように舞い落ち、次第に寝台の上を覆っていく。


霊石を一個吸収するごとに、光球は少しずつ膨張した。

初めは洗面器ほどだったものが、やがて石臼ほどの大きさにまで広がっていく。


「そろそろだ」


ラインは目を細め、傍らに置かれたイノシシ王の牙をつかんだ。

そして、何の迷いもなく白い光球へ投げ入れる。


もし、ほかの精霊使いがこの光景を目撃していれば、間違いなく驚愕しただろう。


白イノシシの精霊とヒスイズスキンを材料として、シロタマズスキンを煉成する秘方は、千年以上前から伝わっている。

ほとんど誰もが知る、極めて有名な秘方だった。


しかし、その秘方にイノシシの牙を加えるなど、これまで誰も聞いたことがない。


だが、過去に誰も知らなかったからといって、その秘方がすでに完成の域へ達しているとは限らない。


本来の歴史では、百五十年後になって初めて、一人の精霊使いがこの秘方を改良する。


その人物は膨大な実験を重ねた末、煉成の途中でイノシシの牙を一本加えれば、白イノシシの精霊とヒスイズスキンの融合が安定し、成功率を二割も高められることを発見した。


五百年後の未来から重生したラインは、当然その方法を知っている。


雪のように白い牙が光球へ沈んだ瞬間、奇妙な変化が起きた。


それまで目を焼くほど激しかった白光が、一瞬で柔らかなものへ変わる。


光は無秩序に周囲へ放たれなくなり、光球の表面をゆっくりと巡り始めた。

明滅が繰り返されるたび、そこには自然そのものが生み出したような、不思議な律動が生まれていく。


ラインは息を止め、二つの意念の融合を維持した。


白い光球が、ゆっくりと収縮し始める。


石臼ほどの大きさから、洗面器ほどへ。


洗面器ほどの大きさから、拳ほどへ。


そして最後には、すべての白光が空気の中へ消え去った。


白イノシシの精霊とヒスイズスキンは、すでにどこにもいない。

代わりに、一体の新たな精霊が生まれていた。


それはラインの目の前に静かに浮かび、楕円形の小石のような姿をしている。

全身は一点の曇りもない白色だった。


だが、それは紙のような青白さでも、牛乳のような乳白色でもない。

温かみと透明感を併せ持つ、玉の白さだった。


表面には柔らかな光沢が流れ、まるで一塊の白玉から削り出されたかのように見える。


これこそが、二環精霊――シロタマズスキン!


ここに至って、ラインはようやく胸に溜め込んでいた息を、ゆっくりと吐き出した。

張り詰めていた心も、ようやく落ち着きを取り戻していく。


今回の煉成は、簡単に見える。

しかし実際には、至るところに危険が潜んでいた。


精霊を煉成するためには、まず精霊使いが複数のことを同時に処理できなければならない。


普通の人間なら、左手で円を描きながら、右手で四角を描くだけでも難しい。


煉成中の精霊使いは、複数の精霊を同時に制御し、それぞれの意念の融合を維持しながら、投入する精神力まで調整し、さらに突発的な変化にも対応しなければならない。


そのうち一つでも僅かに疎かになれば、煉成は失敗する。


この能力は、天賦の才だけで身につけられるものではない。

長年にわたる訓練、数え切れないほどの失敗と挫折、そして何が起きても揺らがない強靭な精神が必要となる。


ラインがこれほど手慣れた様子で煉成を行えるのは、前世で積み上げた五百年の経験があるからだ。


その経験の一つ一つは、時間と資源、ときには血を代償として手に入れたものであり、決して偽ることのできない本物だった。


煉成の成功率を左右する第二の要素は、精霊使いが精霊そのものをどれほど理解しているかである。

精霊の習性、能力、生命構造への理解が深いほど、煉成中に起きる変化も把握しやすくなる。


この事実が世間に広く認められるようになるのは、およそ三百年後のことだった。


そのため、一体の精霊を長く使い続け、深く理解しているほど、煉成の成功率も高くなる傾向がある。


第三の要素は、正確で独自性に富んだ秘方だった。


今回加えたイノシシ王の牙が、その好例である。


一見すれば、材料が一つ増えただけにすぎない。

しかし、その一本が画竜点睛の役割を果たし、煉成の成功率を二割も引き上げた。


低環の秘方の多くは、すでに世間へ広く伝わっている。

だが、本当に価値ある秘方は、各勢力によって厳重に秘匿されていた。


たとえば、ローデン一族が月印を中心に築き上げた二つの五環秘方は、歴代の族長と、中枢を担うごく一部の長老にしか知る資格がない。


五環、あるいはそれ以上へ連続して煉成できる完全な秘方ともなれば、精霊使いは自らの命と同じほど大切に扱う。


外部の者へ伝えるくらいなら、そのまま墓の中へ持ち込むことを選ぶ者も少なくない。


しかし、これら三つの条件をすべて満たしていたとしても、煉成が必ず成功するわけではなかった。


五百年分の記憶と経験を持ち、複数のことを同時に処理する技術に熟達し、常人を遥かに上回る精霊への理解と、後世で改良された秘方まで備えているラインでさえ、失敗する可能性は残されている。


ただ、その失敗率が普通の精霊使いより遥かに低いというだけだ。


精霊煉成とは、生命をより高い階層へ昇華させる行為であり、一つの創造でもある。


本来なら自然界で長い年月を経なければ成し遂げられない変化と進化を、わずかな時間に無理やり圧縮する。


そして一つの光の塊の中で、新たな生命を芽吹かせ、花開かせ、実を結ばせるのだ。


地球の神話において、このようなことができる存在は神だけだった。


だが、この世界で精霊使いたちは、それをこう呼ぶ。


煉(・)成(・)

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