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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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92.分家任務、精霊煉成

「何だと?あの小僧が二環へ進んだばかりか、内務院に分家任務まで申請しただと!?」


叔父ラジェット・ローデンの驚きと怒りが入り混じった声が、応接堂に響き渡った。


「そのとおりだ」


傍らに座る中年の精霊使いは茶碗を持ち上げ、慌てる様子もなく茶を一口すすった。


「確かに私は、ラジェットさんから霊石を受け取っている。

だが、だからといって奴の申請を公然と却下するわけにもいかん。

できるのは、業務が立て込んでいることを理由に、任務の受領を三日遅らせる程度だ」


男は茶碗を置き、意味ありげな目をラジェットへ向けた。


「三日も引き延ばしたのだ。これが、私にできる限界だよ」


ラジェットは心の中で冷笑した。


何が「限界」だ。


要するに、さらに見返りを寄越せと催促しているだけではないか。


もっとも、今はこの男の強欲さを気にしている場合ではなかった。

何としてでも、ラインの両親が遺した財産を守り抜かなければならない。


ラインの成長速度はあまりにも速く、ラジェットに強烈な危機感を抱かせていた。


下等資質にすぎないというのに、学堂を出て間もなく二環へ進んだことで、彼の計画は完全に狂ってしまった。


「私は、このことを知らせるために来ただけだ。

用件も済んだことだし、そろそろ失礼しよう」


中年の精霊使いは立ち上がり、立ち去ろうとした。


「まあ、そう急いで帰るな」


ラジェットも慌てて立ち上がり、袖の中からずっしりと重い霊石袋を取り出すと、相手の手へ押し込んだ。


「これからも、いろいろと便宜を図ってもらいたい」


中年の精霊使いは霊石袋を軽く揺すり、中に入った霊石の重みを確かめた。

途端に、その笑顔が先ほどよりもずっと親しげなものへ変わる。


「まったく、ラジェットさんは水臭い。私たちは、もう十年以上の付き合いではないか」


男は自然な動作で霊石袋を懐へ収め、声を潜めた。


「安心しろ、今ある分家任務の中から、最も難易度の高いものをラインへ渡してやる。

ただし、奴がほかの精霊使いへ助力を求める可能性もある。

その点は、あらかじめ備えておいたほうがいい」


「はは、そのことなら心配はいらない」


ラジェットは陰気な笑みを浮かべた。


「私はすでに第一線を退いたが、これまで築いた人脈まで失ったわけではない。

あの小僧を監視する者も、とっくに用意してある。

そもそも分家任務は、申請者本人の能力を試すためのものだ。

金を払って外部の精霊使いに代行させれば、明確な族規違反となる。

むしろ、奴がそうしてくれれば好都合だ。こちらは尻尾をつかむ機会を待っているのだからな」


「それを聞いて安心した。では、私はこれで」


「見送ろう」


「いや、ここで結構だ」


ラジェットは応接堂の入口に立ち、中年の精霊使いを見送った。

相手の背中が完全に見えなくなってから、顔に貼りつけていた笑みが一瞬で崩れ落ちる。


「どこまでも強欲な奴め!」


彼は小声で吐き捨てたが、ラインのことを思い出すと、顔色はさらに険しくなった。


「ラインは下等資質にすぎない。なぜ、これほど早く二環へ進めた?

サイラスたち役立たずは、いったい何をしていた!生きた人間一人すら見張れんとは!」


今さら罵ったところで、何の意味もない。


サイラスたち四人は全員、ビーストウェーブで死亡した。

チーム任務を利用してラインを縛る手段も、当然ながら使えなくなっている。


ラインは二環へ進み、再び自由の身となった。


今の彼には、正式に分家任務を受領する資格がある。


「だが、奴は今や孤立無援だ

チーム全体を想定して作られた任務を一人で達成するなど、そう簡単にできるものではない」


ラジェットは何度も往復し、その表情を目まぐるしく変化させた。


やがて、足を止める。


「いや、待て」


「あの小僧は、妙なほど運がいい。

サイラスに動きを封じさせた直後、小規模なビーストウェーブが発生した」


ラジェットは顎の髭を撫でた。

「その結果、サイラスたちは全員死に、奴だけが束縛から抜け出した。

今回もまた、運よく任務を達成したらどうする?」


ラジェットの目に、陰鬱な光が宿った。


「最悪の事態を想定し、先に手を打っておく必要がある」


彼は幾度もの一族任務を生き抜き、最後には無事に第一線を退いた精霊使いである。

当然、何の手腕も持たない人間ではなかった。


表向きは学堂を出たばかりで、何の基盤も持たないラインと比べたとき、ラジェットの最大の強みは実力ではない。


長い年月をかけて築き上げた、人脈だった。


……


三日後、内務院。


「ミードの採取か……」


ラインは手にした任務文書を読み、瞳の奥に冷たい光を浮かべた。


今回の分家任務は、黄金蜂(おうごんばち)が醸したミードを250ml分採取するというものだった。


黄金蜂は、一匹一匹が成人の拳ほどの大きさを持つ。

全身には黒と金の縞模様が走り、尾部から伸びる針は鋭く硬いうえ、極めて攻撃性が高い。


だが、厄介なのはそれだけではない。


通常の小型蜂巣に蓄えられているのは、普通の蜂蜜だけだ。


中型以上の規模に成長し、長い年月をかけて蜂蜜が蓄積、熟成されて初めて、より貴重なミードが生まれる可能性がある。


つまり、ラインは最低でも数百匹の黄金蜂が棲息する蜂巣へ侵入しなければならない。


「完全な五人チームで挑んだとしても、極めて難しい任務だ」


ラインはすぐに、この任務の危険性を見抜いた。


人数が多ければ、すべての問題を解決できるわけではない。


ほかの精霊使いが蜂巣の外で蜂の群れを引きつけることはできる。

しかし、蜂巣の奥へ入り、ミードを採取する者は黄金蜂の集中攻撃に耐えられるだけの防御手段を持っていなければならない。


(叔父が裏で手を回したようだな。

私が防御精霊を持っていないと思い、わざわざこの任務を選んだのだろう)


ラインは心の中で冷笑した。


だが、ラジェットが把握しているのは、あくまで表に出ている情報だけだ。


こういうときこそ、酒飲のカイの遺産を一度も露見させていないことが大きな意味を持つ。


表に出した手段は他人に見抜かれやすく、対策も立てられやすい。

暗闇に隠した切り札こそ、最も警戒し難いものだった。


ラジェットは、ラインが防御精霊を持っていないと考えている。

そのため、存在すら知らないヒスイズスキンへの対策など、立てられるはずがなかった。


「とはいえ、ヒスイズスキンだけでは足りない」


ヒスイズスキンは、所詮一環精霊である。


数百匹の黄金蜂から一斉に襲われれば、その防御も間もなく蜂の針に貫かれるだろう。


しかし、二環のシロタマズスキンへ煉成できれば、話はまったく違ってくる。


「シロタマズスキンさえ煉成できれば、ミードの採取は難しくない。

酒飲のカイの遺産をさらに探索するうえでも、大きな助けになる」


ラインは実際に試すまでもなく、豊富な経験から二体の精霊の差を正確に判断できた。


彼はすでに二環初位の精霊使いとなっているが、逆矢を除き、所有する精霊はすべて一環のままだった。


それは、強靭な肉体を持つ大男が、手に小さな短剣しか持っていないようなものだ。


人を殺すことはできても、自らの力を完全に発揮することはできない。


現在、ラインは合計七体の精霊を所有している。


本源精霊である逆矢(さかや)、月印、酒虫、白イノシシの精霊、ヒスイズスキン、そして二体の微光蛍。


月印と二体の微光蛍を材料にすれば、二環精霊の月華印(げっかいん)を煉成できる。


白イノシシの精霊とヒスイズスキンからは、同じく二環精霊のシロタマズスキンを煉成できた。


月華印は攻撃能力を大幅に強化し、シロタマズスキンは防御面の不足を補ってくれる。

霊石に余裕があるのなら、ラインは迷うことなく両方を煉成しただろう。


しかし、無理やり二環へ突破するため、蓄えていた霊石の大半をすでに使い果たしている。

今残っている霊石では、一度の煉成しか支えられない。


「疑う余地はない。シロタマズスキンを優先するべきだ。

成功すればミードを採取し、分家任務を達成できる。

両親が遺した財産さえ取り戻せば、今の経済的な苦境を和らげられるだけでなく、さらに実力を伸ばすこともできる」


一転して

「だが、煉成に失敗すれば……」


ラインの表情が、次第に重くなっていった。


煉成に失敗すれば、投入した霊石をすべて失うだけでは済まない。

材料となる二体の精霊も、同時に損傷する。


今のラインには、二度目の煉成を試すだけの霊石が残されていなかった。


白イノシシの精霊とヒスイズスキンが衰弱すれば、回復させるために時間と資源を費やす必要も生じる。


そうなれば、分家任務を達成できないばかりか、酒飲のカイの遺産をさらに探索することもできなくなる。


彼の経済状況は、すでに破綻寸前だった。


ここで足止めされれば、成長速度は大きく落ちる。

それどころか、これまで積み上げてきた優位さえ、少しずつ失われていくだろう。


ラインはこのとき初めて、自分が重大な岐路に立っていることを、はっきりと実感した。


煉成に成功すれば、目の前の道は一気に開ける。


失敗すれば、深い谷底へ落ちるも同然だった。


もう一度今の位置まで這い上がるには、より多くの労力と、より長い時間を費やさなければならない。


……


同じ頃、族長の屋敷にある静室。


「精霊使いは、空界に広がる霊海(れいかい)を根本とし、精霊を手段として力を振るう」


族長ハクはライルの正面に座り、根気強く説明していた。


「精霊を持たなければ、どれほど大量の精神力を蓄えていても、それは空界に閉じ込められたままだ。

真の戦闘力へ変えることはできない。

ゆえに精霊使いは、自らの環階を高めるだけでなく。

精霊を煉り、養い、使う術を学ばなければならない」


ハクはわざと一拍置いた。

「煉、養、用。この三つは、いずれも奥深い

一生を費やしたとしても、その果てまで探究できるとは限らない」


ライルは真剣な顔で話を聞き、ときおり頷いていた。


ハクは説明を続ける。


「『煉』について、お前はすでに最も基本的な煉化を身につけている。

煉化とは、自らの意念で精霊の野生意識を上書きし、その精霊を己のものとすることだ。

だが、煉化のほかに、さらに重要な煉成がある。」


ハクの首元に刻まれた紋様から、ほのかな白い光が浮かび上がった。

それは、三環精霊だった。


「煉成を行えば、二体、あるいはそれ以上の精霊を融合させ、より環数の高い新たな精霊へ生まれ変わらせることができる。精霊という生命にとっての進化であり、昇華でもある」


ハクはライルを見つめ、声に幾分かの重みを加えた。


「ライル、お前はすでに二環へ進んだ。だが、手元の精霊は今も一環のままだ。

そろそろ、本物の二環精霊を一体煉成するべきだろう」


「族長様、どうすれば精霊を煉成できるのでしょうか?」


ライルは思わず尋ねた。


「精霊を煉成するためには、まず秘方を知らなければならない」


ハクはゆっくりと説明する。


「どのような精霊でも、自由に融合できるわけではない。

数え切れないほどの年月をかけ、先祖たちは幾度もの試行と失敗を重ねてきた。

膨大な資源だけでなく、時には命すら代償として差し出し、ようやく安定して煉成できる秘方を一つずつ築き上げたのだ」


ハクは笑みを浮かべた。


「我々ローデン一族は、月印系の研究を最も得意としている。現在では、五環まで連続して煉成できる完全な秘方を二つ保有している」


「五環秘方……ですか?」


ライルの瞳に、疑問が浮かんだ。


「五環秘方とは、秘方に記された経路に従って段階的に煉成することで、最終的に五環精霊へ到達できる秘方のことだ」


ハクは微笑を浮かべた。


「お前が持つヒスイズスキンと月印は、そのうち一つの秘方の起点に当たる」

「この経路に沿って煉成を重ねれば、最終的には五環精霊――天月神印(てんげつしんいん)を得られる可能性がある!」


「天月神印……」


ライルはその名を小さく繰り返し、顔に強い憧れを浮かべた。


今の彼にとって、五環精霊はあまりにも遠く、それゆえに壮大な目標だった。


「はは、今から五環のことを考えるのは、まだ早い」


ハクは軽く笑ったあと、手を上げて合図を送った。


「まずはヒスイズスキンと月印を出しなさい。

私がお前を導き、二環精霊――月華羽衣(げっかはごろも)へ煉成させる」


ライルは言われたとおり、二体の精霊を呼び出した。


実際の煉成へ話が移った途端、ハクの顔から笑みが消え、表情が真剣なものへ変わる。


「精霊煉成で最も重要なのは、複数の精霊を同時に操り、その内部に残る意念を融合させることだ。

お前の月印とヒスイズスキンは、どちらも完全に煉化されている。

元の野生意識はすでに消え、お前自身の意念に置き換わっている。

これから行うのは、その二つの意念を少しずつ近づけ、最後には一つへ融合させることだ」


「一つに融合させる……?」


ライルは目を瞬かせ、困惑した表情を浮かべた。


「初めて聞いたのだから、すぐに理解できなくとも当然だ。

焦る必要はない。何度か試せば、少しずつ感覚をつかめるようになる」


ハクは穏やかな声で宥めた。


「では、始めなさい」


「はい!」


ライルは力強く頷いた。


淡紅色の赤鉄精神力が体内から立ち昇り、煙のように月印とヒスイズスキンを包み込む。

そのまま二体の精霊を支え、空中へ浮かび上がらせた。


ライルは目を閉じ、意識を二体の精霊へ集中させる。

内部に残る意念を感じ取り、それを動かそうと試みた。


ハクは傍らに座り、煉成の過程を絶えず観察している。


空中に浮かぶ月印とヒスイズスキンは、互いに引き合う二つの星のように、ゆっくりと周囲を巡り始めた。


二つの意念が近づくにつれ、精霊同士の距離も少しずつ縮まっていく。


その進行は、極めて緩慢だった。


ほんのわずかでも集中が途切れれば、二つの意念は互いを拒み、それまでの努力がすべて無駄になってしまう。


三時間にわたって何度も試みた末、ライルの額は汗に覆われていた。


それでもついに二つの意念を完全に動かし、少しずつ融合させることに成功する。


その瞬間、月印とヒスイズスキンから同時に眩い白光が放たれた。


二つの光は互いに触れ合うと、瞬く間に一つへつながり、最後には洗面器ほどの大きさを持つ光球へ変わった。


「よし!」


ハクの目に賞賛の色が浮かび、すぐに声を上げる。


「今の状態を維持したまま、霊石を光球へ投入しなさい。

霊石に含まれる天然精神力が、精霊の変化を完成させるための力となる」


ライルは気を抜くことなく、急いで一個の霊石を取り出し、白い光球へ投げ入れた。


霊石は光球に触れた瞬間、急速に溶けていく。


やがて純粋な天然精神力へ変わり、白光にすべて吸収された。

力を完全に失った白い石粉だけが、ひらひらと寝台の敷布へ降り注ぐ。


「煉成が完了するまで、続けて投入しなさい」


ハクに促され、ライルは再び霊石を手に取った。


しかし、二個目の霊石を光球へ投じた瞬間、彼の集中がほんのわずかに緩んでしまう。


すでに融合していた二つの意念に、たちまち亀裂が走った。


白い光球は激しく震え、次の瞬間には弾けるように消滅する。


月印とヒスイズスキンは目に見えない力で反発し合い、それぞれ正反対の方向へ弾き飛ばされた。


煉成は、失敗した。


「しまった!」


ライルは勢いよく目を開いた。


「霊石を入れることばかりに気を取られて、意念の融合を維持するのを忘れてしまいました。」

「初めての煉成で成功しようというほうが、そもそも無理な話だ」


ハクは責めることなく、穏やかな声で慰めた。


「最初の数回は、失敗して当然だ。今の感覚を覚え、失敗した原因を振り返れば、次は必ず前進できる」


しかし、そこまで言ったところで、声が再び厳しいものへ変わった。


「ただし、失敗を重ねすぎてはならない。

煉成に失敗するたび、材料となった精霊は傷つく。

回復を待たずに無理やり次の煉成を行えば、月印もヒスイズスキンも、それが原因で死ぬ可能性がある」


ライルは慌てて二体の精霊を呼び戻し、その状態を詳しく調べた。


月印の表面には、すでに幾つもの細い亀裂が浮かんでいる。


ヒスイズスキンは光を失い、柔らかな身体をライルの掌に横たえていた。

動く力すら残っていないかのように、すっかり弱り果てている。


傷ついた二体の精霊を見つめ、ライルの胸は重く沈んだ。


この瞬間になって初めて、彼は心の底から理解した。


精霊を煉成することが、どれほど困難で危険なのかを。

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