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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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86/132

86.抜け殻の策、一挙に二環へ

「ライン、持ち堪えろ! 今助けに来たぞ!」


サイラスは心配そうな顔で叫びながら、大股で部屋へ踏み込んだ。


しかし次の瞬間、入口で硬直する。

狭い室内には誰もおらず、ラインの姿などどこにもなかった。


つい先ほどまで切々と言葉を並べ、いかにも心配しているように振る舞っていたサイラスは、今や石像のように立ち尽くしている。

残る三人も沈黙し、しばらく誰一人として口を開かなかった。


彼らは扉の前で長々と演じていたが、結局、最初から最後まで観客のいない一人芝居だったのである。


「どういうことだ?あいつはどこへ行った!」


サイラスが突然沈黙を破り、その顔に羞恥と苛立ちが浮かんだ。


「妙ですね」


ソラが慎重に口を開く。


「ラインがいないのなら、なぜ扉に閉関修行の書き置きを残したのでしょう?」


サイラスは陰気な顔で答えず、冷たい声で命じた。


「さっさと大家を呼んでこい!」


言い終わるより早く、入口を塞いでいた古い扉を蹴り飛ばし、脇へ退けた。


ほどなくして、大家がやってきた。


「わしを呼んだだと?ふん、こっちこそお前を探していたところだ!」


大家は白髪交じりの老人だったが、その声には張りがある。

寝台の上に横たわる扉を一目見るなり、顔を険しくした。


「わしの竹楼(ちくろう)で大声を出したうえ、扉まで蹴壊しおって。若いの、ずいぶん威勢がいいではないか」


ローデン集落で余分な家屋を所有し、それを他人へ貸し出せる者が、ただの普通人であるはずがない。


集落内の不動産は、そのほとんどがローデン一族の者に握られている。

ここで暮らす普通人は、奴隷でなければ一族に仕える従僕であり、このような商売を営む資格など持っていなかった。


目の前の老人も、すでに高齢となり、外へ出て任務を行うことはなくなっていたが、今なお精霊使いである。


こうした者は長年の蓄積によって広い人脈を持つ。

第一線から退いたとはいえ、サイラスが好き勝手に威圧できる相手ではなかった。


「先輩、どうかお怒りをお鎮めください」


サイラスはすぐさま怒気を引っ込め、顔に笑みを取り戻した。


「我々はチームメンバーを探していたのです。少々焦ってしまい、誤って扉を壊してしまいました」


老大家は鼻を鳴らした。


「わしは、店子がどこへ行ったかなど知らん。

ただ、お前が扉を壊した以上、弁償してもらう。それだけだ」


「もちろんです」


サイラスは胸の内に苛立ちを溜めながらも、渋々数個の霊石を差し出した。

老人の機嫌を直すため、さらに一個を余分に上乗せする。


霊石を受け取ると、老大家の険しい顔もようやく和らいだ。


「この部屋を借りた少年が、お前たちの探している者なら、もう丸一日戻ってきていないぞ。

昨日の朝、一か月分の家賃を先に払い、布団や火鉢、日用品をいくつか買ってきた。

その後、安い石炭をどこで手に入れられるか、わしに尋ねてきたのだ」


老人は眉をひそめ、ラインの行方を思い出そうとしているようだった。


「集落の東にある谷に小さな炭鉱があり、石炭など大した値もつかないから、自分で掘ればよいと教えてやった。あの少年は礼を言って出ていき、それから一度も戻っておらん」


「なるほど」


サイラスは振り返り、部屋の中を見回した。


寝台には真新しく厚い布団が敷かれ、傍らには買ったばかりの机と椅子が置かれている。

部屋の隅にある鉄製の火鉢も新品だったが、中には石炭が一欠片も入っていなかった。


どの痕跡も、大家の話と一致している。


サイラスは長く息を吐き出し、胸にあった不安を半分以上消し去った。


「どうやら、石炭を掘っているうちに遅くなったらしい。仕方ない、明日また来よう」


そう言うと、真っ先に部屋を出ていった。


しかし三日目になっても、ラインは姿を現さなかった。


サイラスたち四人は再び狭い部屋に集まり、揃って訝しげな表情を浮かべていた。


「石炭を掘るだけなら、これほど時間がかかるはずがありません」


ソラが眉をひそめる。


「閉関修行に備え、一度に多めに掘ろうと考えたのかもしれませんが、それでも二日も経てば戻ってくるはずです。谷で何かあったのではないでしょうか?」


サイラスはわずかに目を細めた。


部屋に置かれた真新しい布団と火鉢を指し、冷笑を浮かべる。


「あの小僧は普段からひどく金に細かい。

それなのに一か月分の家賃をまとめて払い、これだけの日用品まで買い揃え、扉にはわざわざ閉関修行の書き置きを残した

つまり、もともとここへ住み、二環への突破に挑むつもりだったことは間違いない」


サイラスは残忍な表情を浮かべた。

「残念ながら、あまり運には恵まれなかったようだがな。

最近は狼の巣が勢力を増し、集落周辺の獣も例年より活発に動いている。

石炭を掘っている最中、徘徊する狼の群れにでも遭遇したのかもしれん」


「リーダーのおっしゃるとおりです」


二人の女精霊使いが声を揃えて同意する。


サイラスは顔を上げ、声を出して笑った。


「ははは!こちらはあの小僧を始末する機会がなくて困っていたのだ。

勝手に荒野で死んでくれたのなら、大いに手間が省ける。

野鹿の捕獲任務も、急いで終わらせる必要はない。

我々が外へ出たとき、偶然あいつを見つけてしまえば、見殺しにするわけにもいかないからな」


「くくく……」


残る三人もその意図を察し、一緒になって笑い始めた。


……


四日目。


ローデン集落から遠く離れた山麓の村、その薄暗い一室で、ラインは寝台の上に足を組んで座っていた。


すでに三日三晩、石像のように身じろぎ一つしていない。


意識は、完全に空界へ沈んでいた。


墨緑色の霊海(れいかい)から絶えず波が立ち上がり、一波、また一波と、周囲を囲む白い晶膜へ衝突する。


精神力の波は、途切れることなく押し寄せていた。


かつては厚く強固だった晶膜も、今では縦横に走る無数の亀裂に覆われている。

髪の毛ほど細いものもあれば、深く内側まで食い込み、今にも晶膜全体を引き裂きそうな裂け目もあった。


この亀裂のすべてが、ラインが三日三晩、眠らず休まず修行を続けて得た成果である。


食事と排泄を除けば、修行を止めた時間はほとんどない。

休む際も必ず十五分以内に抑え、晶膜が完全に修復する時間を与えなかった。


精神力の波の強さを抑えながら、霊石から天然精神力を絶えず吸収し、消耗した分を補い続ける。


そのため、晶膜を削る速度こそ遅かったが、攻勢を長時間維持できた。


この方法には、極めて高度な制御力が必要となる。


衝撃が強すぎれば、精神力はすぐに枯渇する。

反対に弱すぎれば、晶膜の自己修復を上回ることができない。


さらに、精神力の波を操りながら、同時に霊石から天然精神力を吸収し続けなければならなかった。


どこか一つでも誤れば、それまでの三日間の努力はすべて水泡に帰す。


霊石が一個、また一個と力を失うにつれ、精神力を補う速度も、次第に消耗へ追いつかなくなっていった。


墨緑色の海面が、少しずつ低下する。


二割一分。


一割八分。


一割五分――


精神力の海面が一割三分まで低下したとき、亀裂に覆われた晶膜も、ついに限界を迎えた。


パキン!


魂の奥底から響いてきたかのような、鋭い破砕音。

次の瞬間、無数の亀裂が一斉に広がり、互いに繋がっていく。


ホン――!


厚く強固な晶膜が、完全に崩壊した。


無数の白い結晶片が精神力の海へ落下し、墨緑色の飛沫を次々と跳ね上げる。

それらは瞬く間に白い光の粒へ変わり、跡形もなく消えていった。


晶膜に代わって空界を覆ったのは、新たな白い光膜である。


同じように半透明だったが、一環の晶膜よりも明るい。

柔らかな白い光が空界全体を照らし、まるで新たな誕生を告げているかのようだった。


それと同時に、空界の底で、一筋の淡い赤色の精神力がゆっくりと生まれた。


まだ変化しきっていない墨緑色の精神力に混じり、細く弱々しくありながらも、まったく異なる気配を放っている。


淡赤色の赤鉄精神力!

二環初位へ達した証である。


「成功した」


ラインは勢いよく目を開いた。


暗い部屋の中で、冷たい稲妻が一瞬だけ閃いたかのように見えた。


一環と二環の間に立ちはだかっていた壁を、ついに打ち破った。

ラインは正式に、二環初位へ進んだのである。


だが直後、激しい眩暈が頭の奥から押し寄せてきた。体がわずかに揺れ、危うく寝台から転げ落ちそうになる。


三日三晩一睡もせず、これほど緻密で負担の大きい修行を続けたのだ。

意志が耐えられても、肉体はすでに限界へ近づいていた。


「やはり、この身体はまだ若すぎるな」


ラインは苦笑し、ゆっくりと横になった。


「ここまで誰も邪魔をしに来なかったということは、集落へ残した仕掛けも働いたようだ。

今夜は休み、明日になったら集落へ戻ろう」


枕元の布団をどうにか引き寄せ、体へ掛ける。

瞼を閉じた途端、数日分の疲労が激流のように押し寄せてきた。

僅か数呼吸のうちに、ラインは深い眠りへ落ちていた。


そのまま目を覚ますことなく、翌日の午後まで眠り続けた。


再び目を開いたとき、精神はすでに大半が回復していた。

しかし肉体の奥には、どうしても拭いきれない虚弱さが残っている。


ラインは身を起こして軽く手足を動かすと、部屋の扉を押し開けた。


この五日間で、初めて部屋の外へ足を踏み出す。


扉が開く音に、近くで待機していた者がすぐに気づいた。

痩せた体つきで、細長い目を持つ男が足早に近づいてくる。


この村の担当精霊使い、バキだった。


「ようやく出てきたか」


やつれた顔をしているものの、ラインが無事であることを確認すると、バキは明らかに安堵した。


「あと一日か二日、何の動きもなかったら、本当に扉を破って様子を確かめるところだったぞ。

私のところで死なれでもしたら、一族の調査が入る。

そうなれば、面倒なことになるからな」


ラインは淡く笑っただけで、何も説明しなかった。


五日前、借りた部屋の準備を整えたラインは、わざと大家に石炭の鉱脈がある場所を尋ね、分かりやすい行動の手掛かりを残していた。


だが、その後に集落東側の谷へ向かったわけではない。


ラインは集落を直接離れ、山麓にあるこの村までやってきたのだ。


借りた部屋、真新しい布団、まだ使われていない火鉢、そして扉に貼った閉関修行の書き置き。

それらはすべて、ラインが意図的に残した目眩ましだった。


サイラスたちが痕跡を追って調べれば、意識は自然と集落東側の炭鉱へ引きつけられる。


しかし、ラインが実際に閉関修行を行った場所は、バキのもとだった。


ジャック一家の一件によって、バキとラインは半ば盟友のような関係になっている。

バキはキバの従兄であり、同時にこの村の担当精霊使いでもあった。


かつてビッグ・ジャックは密かに外道の精霊使いとなり、付近へ三年間も潜伏していた。

しかしバキは、その間ずっと異変に気づけなかった。


この事実が明るみに出れば、バキの経歴には決して消せない汚点が残る。


だからこそ、ラインを殺して口を封じるより、無事に生き続けてもらうほうが、バキにとって都合がよかった。


一族の精霊使いを一人殺すには、あまりにも大きな危険が伴う。

その一方で、得られる利益はほとんどない。


反対にラインが不審な死を遂げ、一族による徹底した調査が始まれば、ジャック一家に関する過去まで掘り返される可能性がある。


この共通の秘密が存在する限り、バキはラインの安全を守るため、可能な限り力を尽くす。


岩の裂け目にある洞窟は、この村より遥かに人目につかない。

だが、二環突破を試みる場所としては決して適していなかった。


サイラスたちが執拗にラインを捜し続け、偶然あの洞窟へ近づけば、酒飲のカイが残した継承まで露見する恐れがある。


それこそ、ラインの命を脅かしかねない本物の災厄だった。

そのためラインは、危険を冒して洞窟へ向かうより、バキへ一つ貸しを作る道を選んだのである。


バキはさらに何か言おうとしたが、突然その顔が引き締まった。

五日前とはまったく異なる気配が、ラインから漂っていることに気づいたのだ。


「お前……」


バキはラインの全身を見回し、目に驚愕を浮かべた。


「本当に成功したのか?一気に二環へ突破するとは!」


五日前、ラインが突然訪ねてきて事情を説明したとき、バキは静かな部屋を貸すことを承諾した。

しかし心の中では、ラインが成功できるとは考えていなかった。


霊石を使い、強引に二環への突破を図る。

言葉にすれば簡単だが、実行するのは極めて難しい。

精霊使いは霊石から天然精神力を吸収しながら、同時に霊海を操り、晶膜へ衝撃を与えなければならない。


一心二用が求められるだけでなく、一波ごとの力を寸分違わず制御する必要もある。

晶膜の修復速度を上回りながら、早々に精神力を使い果たしてはならない。


通常、この方法を実践できるのは、強い意志と十分な忍耐力、さらに数年分の修行経験を備えた精霊使いだけだった。


だが、ラインはまだ十五歳にすぎない。

バキから見れば、成功する可能性など限りなく低かった。


しかし、事実は目の前にある。

ラインは成功した。

それも、ほんの数日で。


「運がよかっただけです」


ラインは淡々と答え、それ以上この件について語ろうとはしなかった。


空になった腹を撫で、話題を変える。


「私は今日、集落へ戻るつもりです。その前に、食事を一度いただけるなら助かります」


バキはようやく我に返り、すぐさま満面に笑みを浮かべた。


「ははは、ライン。ここまで来たからには、飲み食いの心配などするな

いくぞ、すぐに酒と料理を用意させよう!」


ラインがまだ一環だった頃も、バキは両者の関係を保とうとしていた。

しかしその態度には、常にどこか上から見下ろすようなところがあった。


今やラインも二環へ進み、環階において二人は対等となった。


それだけではない。


どのような方法を用いたにせよ、下等資質でありながら十五歳で二環へ到達した者なら、バキがその価値を改めて見定めるに値する。


豪勢な料理を腹いっぱい食べると、ラインの体力もかなり回復した。


バキは自ら彼を村の入口まで見送った。


「ライン、最近は狼の巣の勢いが増している、集落周辺の獣も、普段より活発だ。

一人で戻るなら、道中は十分に気をつけろ」


そこまで言うと、バキは空を見上げた。


暗い雲から、細かな雪がゆっくりと降り始めている。


「また雪か。今夜はもう一泊して、明日の朝に出たほうがいいのではないか?」


ラインは首を振り、その引き留めを断った。


すでに五日間も姿を消している。

二環初位へ進んだ以上、次はチームで受けた任務を放棄し、内務院へ分家の申請を出さなければならない。

これ以上、先延ばしにできないことが多すぎた。


ラインはバキへ別れを告げ、一人で集落へ戻る山道を歩き始めた。


雪は音もなく、白い羽毛のように舞い落ちる。


雲間を抜けた夕日が、降りしきる雪を淡い金色に染めていた。

細雪はラインの黒髪や肩、濃紺の武装束へ積もっては、その足取りに合わせて静かに振り落とされていく。


遠く離れた山腹には、ローデン集落が静かにうずくまっていた。


金色の暮光と一面の白雪の中、その姿はすでに、はっきりと見えていた。

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― 新着の感想 ―
啐啄同時的な感じですね。この世界だと助けを借りるほうが邪道っぽいですが。
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