83.偽りの気遣い、身内の枷
五人は集落の通り脇に立っていた。
サイラス・ローデンは温和な笑みを浮かべ、ラインへ語りかける。
「ライン君、今日の働きには皆が驚かされた。お前をチームへ誘ったのは、やはり正しい判断だったようだ。
ただ、学堂を卒業したばかりのお前は、正式な精霊使いが守るべき規則にまだ詳しくないだろう。時間もあることだし、今のうちに簡単に説明しておこう」
ラインは口を挟まず、静かにサイラスを見つめていた。
サイラスは人差し指を立てる。
「まず、精霊使いは毎月、最低でも一件の一族の任務を完遂しなければならない。
こなした任務の数が多く、成果も優れているほど、一族内での評価も高くなる」
続いて、二本目の指を伸ばした。
「次に、一族の任務は主に内務院と外務院から出される。
精霊使いが一度に引き受けられる任務は一件だけで、正式に受諾した以上、原則として最後まで遂行しなければならない。」
さらに、薬指も立てた。
「三つ目。特別な事情がある場合、精霊使いは自ら任務を放棄できる。
ただし、一族内での評価は大きく下がるうえ、一環精霊使いには任務を放棄する権利そのものがない。
二環へ到達して初めて、年に一度だけ行使できる権利だ」
そこまで話すと、サイラスは一度言葉を切り、表情を引き締めた。
「最後に、これが最も重要だ。一族内での評価は、その者の将来を左右する。
評価が高ければ上層部の目に留まりやすくなり、より多くの資源や機会も与えられる。逆に評価が低すぎれば、どれほど努力しても重用されることは難しい」
ラインは話を聞きながら、静かに頷いていた。
これらの規則なら、とうの昔に熟知している。
サイラスの説明に嘘はなかった。
だが、都合の悪い要点を意図的に省いている。
直接嘘をつくよりも、このように真実の半分だけを語るほうが、学堂を出たばかりの新人に誤解を与えやすい。
「さて、腐泥の凍土を集める任務はすでに終わった」
サイラスの顔に、再び笑みが戻った。
「続いて、野鹿を捕獲する任務を引き受けてある。危険性も低く、お前のような新人が経験を積むにはちょうどいい」
ラインは胸の内で冷笑しながら、表情だけは平静に保った。
「ご配慮ありがとうございます、リーダー」
すると、ソラ・ローデンがすぐさま口を挟んだ。
「ライン君、本当にリーダーに感謝したほうがいいぞ。簡単な任務は安全だが、報酬は笑ってしまうほど少ない。
リーダーはお前に配慮して、わざわざそんな任務を選んでいるんだ。おかげで、チーム全員の取り分まで減っているんだからな」
残る二人の女性精霊使いも、それに合わせて声を上げた。
「そうよ、ライン君。口先だけのお礼では、誠意が感じられないわ。リーダーに一度くらい、食事をご馳走したらどう?」
「ライン君は学堂を卒業したばかりだから、世間の人間関係がどれほど複雑なのか、まだ分からないでしょう?
食事をしながらなら、分からないことを私たちに聞くこともできるわよ」
サイラスは声を上げて笑い、わざとらしく片手を振った。
「お前たち、ライン君を困らせるな。卒業したばかりなのだから、手元の霊石も少なく、生活に余裕がないはずだ」
「そんなわけないでしょう!」
女性精霊使いの一人が、わざと声を張り上げた。
その顔には、隠す気すらない嫉妬が滲んでいる。
「ほかのことはともかく、年末考査の一位には霊石百五十個の褒賞が出たはずよ。百五十個なんて、私たちにとっても相当な財産じゃない」
「リーダー、今回はライン君を見誤りましたね」
ソラも大声で笑った。
「一度の食事代くらい、惜しむはずがないでしょう。なあ、ライン君?」
もう一人の女性精霊使いは、自らラインの傍へ寄り、昔から親しい間柄であるかのように声を潜めた。
「ライン君、あなたのためを思って教えてあげるのよ。
私たちに取り入るかどうかは、どうでもいいわ。でも、リーダーとの関係だけは、きちんとしておいたほうがいい。
知っている?メンバーの一族内での評価には、リーダー自身が記入する部分があるのよ。
リーダーが優秀だと書けば、あなたは優秀。役に立たないと書かれたら、これから苦労することになるわ」
「そのとおりだ」
ソラもすかさず同調する。
「一族内での評価は、精霊使いにとって極めて重要だ。優秀という評価を受け続ければ、すぐに上層部から目をかけてもらえる。
ある程度の経験を積んだ頃には、ほかの精霊使いより何年も早く出世できるかもしれないぞ」
その間、サイラスは傍らに立ち、目を細めて笑いながら成り行きを見守っていた。
ほかの者たちが話し終えるのを待ってから、再び片手を振り、慈悲深く温厚な人物を装って口を開く。
「お前たち、妙なことを言うな。私は常に、公平かつ客観的な評価を心がけている。一度の食事程度で買収されるような人間ではない。
もっとも、ライン君も心配する必要はない。チームへ入ったばかりの新人なのだから、今後評価を書く際には、事情を考慮して多少は配慮しよう」
相手が普通の少年なら、彼らの息の合った芝居に、すっかり翻弄されていただろう。
まず一族内での評価の重要性を説いて圧力をかける。
次にリーダーが新人の将来を握っていると匂わせ、最後には、その本人が恩着せがましく「配慮」を申し出る。
世間を知らない新人なら、ありがたい話だと信じ込み、素直に霊石を差し出して全員へ食事を振る舞っても不思議ではない。
彼らが付け込んでいるのは、新人の知識不足と幼さだった。
しかし、ラインの瞳は最初から最後まで冷たく澄み切っていた。
リーダーがメンバーの評価に関与する権限を持っていることは事実である。
一族はリーダーへ一部の権限を与え、その立場に相応の権威を持たせている。
そうすることで、メンバーを指揮し、管理しやすくしているのだ。
だが、サイラスたちの説明ほど重大な権限ではない。
リーダーが記す意見は、一族内での評価を構成する一要素にすぎなかった。
最終的な評価は、任務の達成状況、貢献の記録、日頃の行いなどを内務院が総合的に判断したうえで決まる。
そもそも、仮にリーダーが本当にメンバーの将来を左右できたとして、それが何だというのか。
ラインは一族内での評価など、初めから眼中に入れていなかった。
一刻も早く環階を上げ、三環へ到達した時点で、この土地を離れると決めている。
ローデン一族の中で一生を浪費するつもりなどなかった。
まして、くだらない将来のために、数十年、数百年も一族へ命を捧げる気などあるはずもない。
目先の利益しか見えていない精霊使いたちにとって、一族内での評価は命より重いものかもしれない。
だが、ラインにとっては――
屁ほどの価値もなかった。
ラインはしばらく沈黙したあと、淡々と告げた。
「話は分かりました。ほかに用事がありますので、先に失礼します」
「えっ?」
サイラスたちの笑顔が、一斉に固まった。
女性精霊使いの一人は目を見開き、自分の耳を疑う。
(どういうこと?あれだけ説明したのに、何一つ理解していないの?)
ソラの顔にも険しい色が浮かんだ。
今すぐラインの胸倉を掴み、その頭の中に何が入っているのか問い詰めたいほどだった。
サイラスも堪えきれず、口元を一度引きつらせた。
ラインが何の反応も示さなかったせいで、先ほどまでの芝居はひどく滑稽なものになった。
念入りに用意した脅しも誘惑も、観客から一度も拍手を得られない茶番へ変わってしまったのだ。
ラインが踵を返して立ち去ろうとすると、サイラスは胸の苛立ちを無理やり押し殺した。
再び笑顔を貼りつけ、足早にラインの前へ回り込む。
「おいおい、ライン君、そう急いで帰ることはないだろう。この連中は冗談が好きなだけだ。今の話を真に受ける必要はない」
そこで口調を変え、気遣うように尋ねた。
「これから住む家を探すつもりなのか?
もう学堂の宿舎には住めない。卒業したばかりのお前は、集落の家賃事情にも詳しくないだろう。よければ、私たちも一緒に行こう。
集落には多少の伝手もあるし、条件のいい物件もいくつか知っている。手間をかなり省けるはずだ」
ラインはわずかに眉を上げたものの、その表情は相変わらず平静だった。
「確かに家を借りるつもりです。リーダーに、何か心当たりがありますか?」
「ちょうど、家賃が安く、立地もいい家をいくつか知っている」
サイラスは親しげに笑うと、当然のように先頭へ立ち、一同を案内し始めた。
……
「この家は月に霊石十五個だ。一個でも足りなければ貸さないぞ」
……
「霊石八個で私の家を借りたいだと?寝言は寝て言え!」
……
「この家の立地は、ほかとは違う。夜は静かで、周囲の治安もいい。何より、族長様の屋敷に近い。
これほどの家を月に霊石二十五個で貸してやるのだ。十分に安いだろう」
……
一行は集落の中を何度も行き来した。
空が次第に暗くなっても、ラインは一軒たりとも借りようとしなかった。
女性精霊使いの一人が、不満げに言った。
「ライン君、いくらなんでも節約しすぎじゃない?集落の広さなんて限られているし、どこの家賃も大して変わらないわ。
これ以上探したところで、もっと安い家なんて見つからないでしょう」
もう一人も、すぐに続いた。
「私なら、族長様の屋敷に近い家を借りるけど。あの家は二階がとても広くて、窓からの眺めもよかったじゃない。
月に霊石二十五個なら、年末考査でもらった褒賞だけで半年も住めるわよ」
ラインは首を横に振った。
「手元の霊石に、それほど余裕はありません。住居に無駄遣いするつもりもありません」
「なら、地下室でも借りればいい」
ソラの目に陰湿な光がよぎる。
だが、口調だけは何気ないものを装っていた。
「地下室なら家賃も安い。お前にはちょうどいいだろう」
ラインは胸の内で冷たく鼻を鳴らした。
このソラという男は、随分と悪辣な考えを持っている。
ヴェルデン山は、もともと湿気が多い。
今は真冬であり、風通しの悪い地下室は暗く、冷え切っているうえに、湿気まで籠もっていた。
そんな場所で暮らせば、すぐに風邪をひいてもおかしくない。
運よく病気にならなかったとしても、何年も住み続ければ身体や関節に不調が現れるだろう。
ラインが何も答えずにいると、サイラスが再び口を開いた。
「先ほど見た家なら、一階も悪くなかった。ほかの者と共同で借りれば、家賃をさらに抑えられるぞ」
「一人で暮らしたいので、他人と共同生活をするつもりはありません」
ラインはもう一度、首を横に振った。
ついにソラが耐えきれず、鼻を鳴らす。
「これは嫌だ、あれも気に入らない。言わせてもらうがな、ライン君、お前は少し選り好みが激しすぎるんじゃないか?
要求ばかり高くて、条件は現実離れしている。そんなことで、どうやって自分に合う家を見つけるつもりだ?」
ラインは苛立ちに満ちた非難を聞きながら、かえって冷静になっていった。
(仮にすべての条件を満たす家があったとしても、お前たちが紹介した家だけは決して借りない)
彼らに付き合って半日も集落を歩き回ったのは、本当に助けが必要だったからではない。
慎重を期し、彼らの「推薦」の裏にどのような罠が隠されているのか、確かめようとしただけだ。
ラインが別れを告げようとしたとき、遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。
一人の年配の女家令が通りを横切り、五人の前まで急いでやってくる。
「ライン様、ようやく見つけました」
女家令は何度か荒く息を吐いたあと、親しげな笑みを作った。
「学堂の宿舎には、もうお住まいになれないのでしょう?旦那様と奥様が酒宴を用意し、ライン様をお迎えするよう、私にお申し付けになりました。
お屋敷には必要な物がすべて揃っておりますし、快適にお暮らしいただけます。わざわざ霊石を使い、外で家を借りる必要などございません」
(ようやく来たか)
ラインは胸の内で、冷笑を止められなかった。
この女家令は、あまりにも都合のいいタイミングで現れた。
ラインたちは半日近く集落を歩き回り、何軒もの家を見てきた。
決まった経路を進んでいたわけでもない。
それなのに、女家令はこの場所へ迷わず辿り着いた。
誰かが密かに、ラインたちの動きを伝え続けていたことは明らかだった。
すべては、ラインの予想どおりである。
サイラスの背後で糸を引いていたのは、叔父と叔母だった。
サイラスは自らラインをチームへ誘い入れ、その後も繰り返し圧力をかけてきた。
今度は条件の悪い家や、不当に家賃の高い家ばかりを案内している。
すべては、一人で暮らすことが困難だと思い込ませ、最後には叔父夫婦の家へ戻らざるを得ない状況へ追い込むためだった。
一度でも戻れば、ラインは再び二人の支配下に置かれる。
サイラスこそ、叔父と叔母がラインのために用意した、もう一つの枷だった。
ラインの短い沈黙は、周囲の者には迷っているように見えた。
サイラスの目の奥に、陰湿な光が微かによぎる。
しかし、その顔には再び気遣うような笑みが浮かんだ。
「ライン君、やはり叔父さんと叔母さんの家へ戻ったほうがいい。わざわざ面倒なことをする必要はないだろう。
外で家を借りれば、毎月かなりの霊石が必要になるのだからな」




