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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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73.存在しない後ろ盾、広がる疑心

族長閣の議事堂では、族長ハクが表情を消したまま上座に座っていた。

深い眼差しからは、今何を考えているのか少しも読み取れない。


十数名の長老たちも静かに目を伏せ、表向きは何事もないように振る舞っている。

だが実際には、誰もが視線だけをそっと巡らせ、周囲のわずかな表情の変化から手掛かりを探していた。


議事堂を満たす空気は、急速に微妙なものへ変わっていった。


ラインが中間考査で第一位を取った。その事実には、誰かの意図が隠されている。


山中でイノシシの牙が詰まった袋を偶然拾ったという説明は、あまりにも拙い。

あの袋は、何者かが事前に用意したものに違いなかった。


考査が始まる前に、ライン一人であれだけの準備を整えることはできない。

つまり、彼には陰から手を貸す者がいる。


今年の中間考査は、例年とは事情が異なっていた。

数十名もの二環精霊使いを監督役として山林へ配置する関係で、考査内容を事前に知っていたのは学堂長老だけではない。

家族内の多くの長老が、あらかじめ詳細を知らされていた。


あの牙を用意できた人物は、おそらくこの議事堂の中にいる。


下手をすれば、族長ハク本人かもしれない。


この場にいる長老たちは、いずれも家族政治を長年生き抜いてきた老獪な者たちだった。

出所不明の牙が一袋現れただけで、そこからいくつもの可能性を読み取っていた。


ライルは上等資質を持つ。


もし順調に四環まで成長すれば、どうなるか。


次代の族長候補として、最も有力な存在になる。


ライン自身は下等資質にすぎない。だが、彼はライルの実兄だった。

その血縁だけでも、利用するには十分な価値がある。


族長ハクの立場から見れば、ラインを先に自派へ取り込むことで、兄弟の繋がりを通じてライルへの影響力をさらに強められる。


一方、ほかの長老たちにとって、ライルはすでに族長派へ組み込まれた存在だった。

このまま成長すれば、族長派の力がさらに大きくなるのは避けられない。


ならば先にラインを取り込み、その手中に置く。

いずれ兄弟の血縁を利用してライルに働きかければ、族長派を牽制する重要な駒にもなり得る。


つまり、この議事堂にいる者のほとんどが、ラインを陰から助ける動機を持っていた。


問題は、誰が最初に動いたのかということだった。


カルは目を伏せたまま、胸中で考えを巡らせる。


(私はラインを引き入れていない。では、手を貸したのは誰だ?

まさか、コアの老いぼれか?十分あり得る…ラインはあの男の使用人を殺したが、使用人など所詮は使用人だ。何人死のうと、惜しむほどのものではない)


カルは首を横に振った。

(だが、最も怪しいのは族長だ。先にライルを取り込み、さらにラインまで自派へ迎えれば、ライルをより強く繋ぎ止められる

とはいえ、これまで各派が学堂の生徒を正式に勧誘するのは、卒業を控えた年末と決まっていた。

まだ年の半ばだというのに動くとは、少々慣例を破りすぎではないか?)


反対側に座るコアも、同じように思索していた。


(完全な慣例破りとまでは言えない。せいぜい境目を探る程度か…

だが、誰がこれほどラインを評価している?私より早く動くとは…)


ラインがアノを殺し、切り刻んだ遺体を贈りつけてきたあの日から、コアはこの少年を見直していた。

自分の派閥へ迎え入れることも、すでに一度ならず考えている。


ただし、各派が正式に動くのは年末になってからだった。

学堂での一年間を通して資質、性格、実績を見極め、そのうえで取り込む価値があるかを判断するのが通例である。


それだけに、誰かが先回りしてラインを奪った可能性は、コアにとっても予想外だった。


族長ハクの視線は、主にカルとコアへ向けられていた。


彼は、ほかの長老たちよりもさらに深く考えていた。


ラインは誰にでも見抜ける嘘を公然と口にし、出所不明のイノシシの牙で第一位を奪った。

その大胆不敵な振る舞いは、まるで全員に一つの合図を送っているかのようだった。


――ラインには、すでに後ろ盾がいる。

――彼はもう、どこかの派閥に迎え入れられた。安易に手を出すな。


もしそうなら、ラインの背後に立つ者は誰なのか。


現在のローデン一族では、三つの大きな勢力が均衡を保っている。

族長派、カルが率いる派閥、そしてコアの派閥だ。


ハク自身は、ラインを勧誘していない。

ならば最も疑わしいのは、カルかコアだった。


(あの二人も、ずいぶん腹の内を隠すのが上手くなったものだ

表情だけでは、どちらにも綻びがない。あるいは二人ではなく、別の小派閥が動いたのか?)


ハクは何食わぬ顔で全員を見渡し、一人一人の反応を探った。


だが、ほかの長老たちもまったく同じことをしているとは知らなかった。

彼らも互いを観察し、視線の揺れ、呼吸の間、無意識の仕草から、ラインの背後にいる人物を見つけ出そうとしていた。


学堂長老もまた、自分なりの推測を立てていた。


ただし、彼は普段から中立を保ち、家族内の権力争いにもほとんど関わっていない。

そのため、考えはほかの長老たちほど複雑ではなかった。


(なるほど。ラインはすでに、どこかの長老に迎え入れられていたのか

最近、同級生から霊石を巻き上げる際にも、ライル、ノア、メルの三人だけは見逃していた

彼を勧誘したのは、族長、カル長老、コア長老のいずれかだろう)


学堂長老の口元が思わず緩んだ

(これは悪いことではない!

少なくともラインが現実を受け入れ、ようやく一族の体制へ戻ろうとしている証拠だ。

何があろうと、彼もローデン一族の一員だ。

完全に体制の内側へ入れば、いずれは一族のために一生を捧げることになる)


議事堂の沈黙は、しばらく続いた。


ハクは結局、誰の表情からも手掛かりを得られず、ひとまず追及を諦めることにした。


「向こうが手を出した以上、こちらも返礼せねばなるまい」


その一言が、沈黙を破った。


「ライルを狙われたにもかかわらず、ローデン一族が何もせずに引き下がるわけにはいかない。

暗堂長老。まずは報復案をまとめ、後ほど私に報告せよ」


「承知いたしました、族長様」


暗堂長老がすぐに頭を下げる。


「それから、ライルについてだが……」


ハクは言葉を続けた。


「今回の一件が、あの子の心に影を落とす可能性がある。

上等資質を持つライルが、一族にとってどれほど重要かは説明するまでもない。

今後は、私が直々に個別の修練を指導する」


異議を唱える長老はいなかった。


実際のところ、族長が以前から密かにライルへ便宜を図っていたことは、多くの者が知っている。

今回の決定は、それを正式に表へ出しただけだった。


公平とは言い難いが、今は十分な理由がある。

公然と反対できる者はいなかった。


「ラインについては……」


ハクがわざと間を置く。


その瞬間、すべての長老が聞き耳を立てた。

ラインを陰から支えていたのは、本当に族長なのか。


ハクもまた、言葉を止めたまま議事堂を見渡し、皆の反応を観察していた。


だが、結局は何も読み取れない。


「ラインが下等資質でありながら中間考査の第一位を取ったことは、評価に値する。

私個人から、追加で霊石三十個を与えよう。

学堂長老、今後も努力を続けるよう、私からの言葉として伝えておけ」


「承知いたしました、族長様」


学堂長老が席を立ち、命令を受ける。


ほかの長老たちは、胸中で眉をひそめていた。


(霊石三十個だと?軽すぎもせず、かといって重すぎもしない。この報奨には、いったいどんな意味がある?)


ハクが説明することはなかった。


(誰がラインを自派へ迎え入れたにせよ、この三十個の霊石で私の善意は伝わる。

一族の内側で争うことはあっても、完全に決裂するわけにはいかない。

ローデン一族の外には、ベル一族とロア一族がいるのだから)


ハクは胸中で静かに息を吐いた。


ライルへの襲撃は、外部からの脅威である。

一方、ラインが中間考査で堂々と規則の穴を突いたことは、一族内部の争いに属する。


外敵には強硬な手段で報復しなければならない。

だが内輪の争いに対しては、族長であるハクが可能な限り懐柔し、対立が激化して一族全体の力を損なう事態を防ぐ必要があった。


「よし、この件はひとまず以上とする」


ハクが片手を上げた。


「各自、持ち場へ戻って務めを果たせ

一族が今後も栄えられるかどうかは、ここにいる一人一人の働きに懸かっている」


「承知いたしました、族長様」


長老たちは次々に立ち上がり、議事堂を退出していった。


数呼吸もしないうちに、広い議事堂にはハク一人だけが残された。

彼は深いため息をつき、両手でこめかみを揉みほぐした。


族長は、ローデン一族で最も高い地位にある。だが、決して気楽な立場ではない。


各派の利害を調整しなければならず、自分の望みだけで決断を下すこともできない。

一族の勢力は複雑に絡み合い、何世代にもわたって受け継がれてきた。

それぞれの根の奥には、長い歴史と切り離せない利害が存在している。


外では、冷酷で強硬なロア一族と、次第に勢力を増しているベル一族に対処しなければならない。


内では、各派閥の尽きることのない争いを収め続けなければならない。


ハクはまだ壮年であるにもかかわらず、すでに両のこめかみが白く染まり始めていた。


(族長となってから、修練資源に困ったことは一度もない。それでも、環階(ランク)の伸びは年々遅くなっている。私の心は、とうに煩雑な家族の務めで擦り減ってしまった)


ハクは傍らの湯呑みに目を落とした。

茶からはすでに湯気が消え、その水面には彼の顔がぼんやりと映っていた。


(時には、一人で生きる精霊使いになりたいと思うこともある。

何にも縛られず、責任も負担も背負わずに済めば、修行の道をもっと先まで進めたかもしれない)


一族の体制へ入れば、必ず相応の責任を負う。

責任を背負ったまま、修行だけに心を注ぎ続けることは難しい。


だが体制の外へ出れば、一族から安定した資源を与えられることもなくなる。

資源の供給を失った独行の精霊使いが、修行を続けることもまた容易ではない。


それは、簡単には抜け出せない矛盾だった。


終わることなく循環する、一つの輪でもある。


どれほど多くの者がその輪に未来を縛られ、どれほどの才能と資質が埋もれてきたのか。

ハクにも知ることはできなかった。


……


ビッグ・ジャックは死んだ。


三日後、ラインはその知らせを受け取った。


同時にバキから、あの日生き残った二人の若い狩人が、その後それぞれ山へ入ったまま不可解な失踪を遂げたと聞かされた。

さらに、ラインに右手を斬り落とされた狩人も、長く塞ぎ込んだ末、家で「自殺」したことになっていた。


それを話すバキの眼差しには、どこか意味ありげなものがあった。


彼はすでにビッグ・ジャックの遺体を見て、その正体にも気づいている。


だが、真相を口にすることはできなかった。


バキは一族から村へ派遣された精霊使いであり、周辺の監視と住民の保護を任されている。

一族の体制に入った以上、どのような立場であっても、必ず相応の責任を負わなければならない。


ビッグ・ジャックは三年前から外道の精霊使いとなっていた。

それにもかかわらず、駐村精霊使いであるバキは、今まで何の異変にも気づかなかった。


この事実が一族の上層部に知られれば、重大な職務怠慢と見なされる。

経歴には消せない汚点が残り、今後一族内で出世する道も完全に閉ざされるだろう。


だからこそバキは、真相を明かさないばかりか、三人の若い狩人が不審な死を遂げた件まで全力で揉み消していた。


「ライン、俺たちもずいぶん長い付き合いになったな」


二人きりで会った際、バキは自らそう切り出した。


「これから従弟のキバが営む店で買い物をするなら、品物が何であろうと半額にしてやる」


今や、事情を知るほかの者たちは全員死んでいた。


事件の始まりから終わりまで、本当の経緯を把握しているのはラインとバキだけである。


たとえ真相が露見したところで、ラインが受ける影響は大きくない。

彼が殺したのは、わずか三人の普通人にすぎなかった。


仮にその十倍を殺していたとしても、一族が厳しく追及するとは限らない。

せいぜい霊石十数個を差し引かれる程度の、形式的な処罰で終わる可能性が高かった。


バキが自ら差し出した利益を、ラインが拒む理由はなかった。


彼にとって、今回の一件は最初から最後まで予想外の出来事と危険に満ちていた。

だが、最終的な結果は決して悪くない。


一族内に何の基盤も持たなかったラインは、半ば味方と言える存在を一人得た。


そのうえ、実在しない後ろ盾まで手に入れていた。


長老たちの想像によって生まれた神秘的な後ろ盾は、ラインの周囲に第二の防壁を築いた。


今後ラインが成長し、今のような弱者ではなくなるにつれて、この防壁が持つ意味はますます大きくなる。

少なくとも二環へ進むまでは、各派も疑念を抱き、彼を過度に抑えつけることをためらうだろう。


実際、学堂長老が自分に向ける態度も、以前より明らかに柔らかくなっていた。


それから、さらに十数日が過ぎた。


ライルとノアに続き、ラインもメルとほぼ同時に一環上位へ進んだ。


同級生から霊石を巻き上げる行為は、依然として続いている。

ただし、それ以降、ラインがライル、ノア、メルの三人から霊石を取り上げることはなくなった。

その振る舞いも、次第に目立たないものへと変わっていった。


その一方で、ラインの力は、前世の同じ時期とは比べものにならない速さで伸び続けていた。


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