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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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66.月下の狩り、肉体に宿る獣力

漆黒の夜空には、銀の盆を思わせる満月が浮かんでいた。

連なる山々の遥か上から、水のように清らかで冷たい月光が地上へ降り注いでいる。


夏の風が生い茂る山林を吹き抜け、深緑の枝葉を静かに揺らした。

遠くでは滝が絶え間なく流れ落ち、轟く水音を響かせている。


それでも、コオロギの鳴き声を完全にかき消すことはできなかった。


ラインは青々とした草地を踏み、音もなく一頭のイノシシへ近づいていた。


イノシシは頭を下げ、荒い鼻息を漏らしながら湿った土を掘り返している。

草の根や、土の中に潜むミミズを探しているのだ。


イノシシは雑食性の動物である。

植物やミミズだけでなく、鳥の卵を盗み食いし、野ウサギやネズミを捕らえることもあった。

時には、蛇やサソリのような毒を持つ生き物さえ餌にする。


ラインはその背後から、ゆっくりと距離を詰めていった。


明るい月光の下では、灰黒色の体毛まではっきりと見える。


胴体はたくましく、四肢は太く短い。

背中の剛毛は長く硬く、耳に生えた疎らな毛も針のように逆立っていた。


足先には四本の指があるものの、地面に触れるのは中央の二本だけだった。

短く細い尾は絶えず左右に揺れ、周囲を飛び回る蚊を追い払っている。


突然、イノシシが土を掘るのをやめた。


勢いよく頭を上げ、二つの尖った耳を素早く震わせる。

次の瞬間には、体を大きく反転させた。


ラインはすぐに足を止めたが、すでに気づかれていた。


イノシシは正面からラインを睨み、喉の奥で低い警戒の唸り声を上げた。


ラインは、特に驚かなかった。


野生動物は、家畜よりも遥かに警戒心が強い。

中でもイノシシは嗅覚に優れ、草むらや木の根元に隠れた鳥の巣さえ見つけ出す。


足音を消せたとしても、一定の距離まで近づけば、見知らぬ人間の匂いを嗅ぎ取られてしまう。


現在、ラインは五体の精霊を所有していた。


逆矢(さかや)、酒虫(しゅちゅう)、月印、微光蛍、そして白イノシシの精霊である。

しかし、この組み合わせは決して完全ではない。


匂いを覆い隠す精霊と、足音を消す精霊が一体ずついれば、イノシシの十歩以内まで気づかれずに接近できる。


だが、さらに二体を増やせば、同時に七体もの精霊を養わなければならない。

今のラインの財力では、それほど大きな負担を長く支えられなかった。


通常、一人の精霊使いが安定して養えるのは、自分と同じ環階(ランク)の精霊を四、五体までである。


一人では、どうしても能力に不足が生まれる。

だからこそ、精霊使いが単独で行動することは少なく、たいていは五人ほどで一つのチームを組んでいた。

少人数の隊でも、三人を下回ることはほとんどない。


隊の中では、一人が偵察を担当し、別の者が移動や潜入を受け持つ。

さらに強襲、治療、防御を担う者が加わり、互いの弱点を補い合う。


そうして初めて、危険な野外で長く活動できるのだ。


ラインは退かなかった。

警戒するイノシシへ向かい、なおも一歩ずつ近づいていく。


イノシシは体を低く沈め、首元に生えた一房の白い剛毛を逆立てた。

喉から漏れる唸り声も、次第に激しさを増していく。


ラインがさらに踏み込んだ瞬間、イノシシはついに激昂した。


前脚で地面を三度続けて掻き、勢いよく頭を下げる。

そのまま四本の太い脚で地面を蹴り、ラインへ猛然と突進した。


上顎の二本の犬歯が、上向きに湾曲した白い牙となって口元から伸びていた。

月光を浴びて冷たい輝きを放ちながら、ラインの腹部を目掛けて迫ってきた。


ラインは防御型の精霊を持っていない。


まともに受ければ、牙はそのまま腹部を貫くだろう。

運よく命を取り留めたとしても、重傷は避けられなかった。


「月印」


ラインは表情を変えず、月印へ意識を向けた。


右の掌に宿る月印が、急速に精神力を吸収する。

やがて青い月光を放ち、夜空に浮かぶ満月と呼応するように輝いた。


イノシシが正面まで迫った瞬間、ラインは右の掌を上げ、鋭く前へ振り下ろした。


青い月刃が夜気を切り裂き、イノシシの顔面へ直撃した。

体毛と肉が一瞬で裂け、鮮血が周囲へ飛び散る。


イノシシは苦痛に満ちた叫びを上げた。

それでも足を止めるどころか、痛みによって完全に怒り狂った。


怒りを突進の力へと変え、さらに速度を上げる。

次の瞬間には、すでにラインの目前まで迫っていた。


ラインは勢いよく横へ跳び、着地と同時に地面を転がった。


イノシシは彼の体を掠めるように通り過ぎ、後方に生えていた若木へ激突する。


若木の太さは、成人男性の腕ほどしかなかった。

猛烈な衝撃を受けて幹が折れ、枝葉ごと轟音を立てて地面へ倒れる。


ラインは素早く立ち上がり、イノシシの斜め後ろへ回り込んだ。

同時に右手を何度も振り、次々と月刃を放つ。


青い月刃が夜の闇を切り裂き、イノシシの体へ襲いかかった。

灰黒色の体毛には細長い傷がいくつも刻まれ、そこから熱い血が絶え間なく流れ出す。


ラインが使っているのは、酒虫によって一環上位相当まで精錬された精神力だった。


その月刃は、人体で最も硬い頭蓋骨さえ断ち切れる。

ところがイノシシに当てても、厚い皮と筋肉を裂くことしかできず、骨にまで達するのは難しかった。


ただのイノシシでさえ、これほど強靭な肉体を持っている。

野外がどれほど危険な場所なのか、それだけでも十分に分かった。


傷を負ったイノシシは低く唸り、再びラインへ突進した。


走るたびに全身の傷が開き、血が体を伝って草地へ飛び散る。

その後ろには、暗赤色の痕跡が一本の線となって残された。


ラインは再び横へ跳び、地面を転がって突進を避けた。


イノシシは力が強く、突進する速度も凄まじい。

しかし、走りながら進路を変えることは苦手だった。


速く走るほど方向転換は難しくなり、攻撃の軌道もほぼ一直線になる。


本能的な恐怖さえ抑え込み、突進してくる方向を冷静に見極めれば、避けること自体は難しくなかった。


その後も、同じ攻防が何度か続いた。


イノシシが横を通り過ぎるたび、ラインは隙を逃さず数発の月刃を放つ。

その体に刻まれた傷は増え続け、失われる血の量も次第に多くなっていった。


時間が経つにつれ、イノシシの動きはようやく鈍り始めた。

低い唸り声にも、隠しきれない弱々しさが混じっている。


「微光蛍」


今度は、二体の精霊を同時に動かした。


錬化した月印は、ラインの右の掌に宿っている。

普段は淡い青色の三日月模様となり、皮膚の上に浮かんでいた。

その隣には、微光蛍が変じた乳白色の五芒星がある。


深緑色の精神力が、二体の精霊へ同時に注ぎ込まれた。


月印は青い月光を放ち、微光蛍からは乳白色の光が溢れ出す。

二つの光はたちまち溶け合い、掌に集まっていた月光を二倍に膨れ上がらせた。


「行け」


ラインは右の掌を振り下ろした。


それまでとは比べものにならないほど巨大な月刃が、瞬く間に飛び出した。


月印だけで作り出す月刃は、掌ほどの大きさしかない。

しかし、微光蛍の補助を受けることで、大きさも破壊力も二倍に高まっていた。


巨大な月刃がイノシシの首へ正確に命中した。

灰黒色の体毛へ深々と沈み込み、そのまま反対側まで貫通する。

さらに三、四メートルほど飛んだところで、夜の闇へ溶けるように消滅した。


イノシシは、その場で硬直した。


次の瞬間、首の裂け目から鮮血が噴き上がった。

まるで赤い噴水のように、勢いよく宙へ舞い上がる。


巨大な体は轟音を立てて倒れ、頭部の大半も血の勢いに押されて脇へ転がった。

わずかな皮と肉だけが、かろうじて胴体とつながっている。


濃密な血の匂いが、瞬く間に山林へ広がっていった。


ラインは警戒を解かず、すぐにイノシシの亡骸を指さした。


空界にいた白イノシシの精霊が、乳白色の光へ姿を変える。

ラインの体から飛び出すと、真っすぐにイノシシの中へ潜り込んだ。


ラインはその場に留まり、周囲へ油断なく目を配った。


獣皮の地図によれば、この一帯は比較的安全な場所である。

しかし、山林の状況はいつ変化してもおかしくなかった。


これほど濃い血の匂いが漂えば、近くを徘徊する猛獣を呼び寄せる可能性もある。


しばらくして、白イノシシの精霊がふらふらと戻ってきた。


地面に横たわる亡骸は、目に見えて小さく萎んでいる。

残っているのは骨格と内臓、そして傷だらけの灰黒色の毛皮だけだった。


ほとんどの肉を、白イノシシの精霊が食べ尽くしていた。


奇妙なことに、自分の体積を遥かに上回る量を食べたというのに、その姿には何の変化もない。

乳白色の甲殻には一滴の血さえ付着せず、テントウムシのように小さく丸い姿を保っていた。


「これで一食分だ。次は五日後に来る」


ラインは白イノシシの精霊を空界へ戻した。

しかし、すぐにその場を離れようとはしなかった。


持ち歩いていた小刀を取り出し、イノシシの口元から二本の牙を傷つけないよう切り取っていく。


イノシシから得られる品の中で、多少なりとも価値があるのは三つだけだった。

肉、毛皮、そして牙である。


肉はすでに白イノシシの精霊が食べ尽くした。

毛皮も月刃によって傷だらけになっており、剥ぎ取ったところで大した値はつかない。


残る二本の牙だけは、ほぼ完全な状態を保っていた。


牙を餌とする精霊へ与えることもできれば、一部の精霊を錬成して昇格させる際の材料にも使える。


ラインは牙を持ち帰り、岩の裂け目にある隠し穴へ収めた。

それからようやく、学堂の宿舎へ戻った。


部屋へ入っても、すぐには休まなかった。

寝台の上であぐらを組み、今回の狩りで消耗した力を確認し始める。


空界では、深緑色を帯びた青銅の精神力の海が、静かに満ち引きしていた。


現在のラインは、すでに一環中位へ到達している。

通常の一環中位なら、精神力は蒼緑色を帯びているはずだった。


しかし、酒虫によって精錬されたラインの精神力は、すでに一環上位相当の質へ高められている。

その色も、さらに濃い深緑へと変わっていた。


先ほどの戦いを終えた今、空界に残っている精神力は二割三分だけだった。


もっともありふれたイノシシを一頭殺すために、一環上位相当の精神力を八割近く消費したことになる。


一環の精霊使いが持つ戦闘能力には、やはり限界があった。

そして野外の過酷さも、学堂で行われる安全な訓練とは比べものにならない。


「白イノシシの精霊」


ラインは両目を閉じ、意識を完全に空界へ沈めた。


精神力の海から、深緑色の力が逆巻くように立ち上がる。

そのまま白イノシシの精霊へ一気に注ぎ込まれた。


白イノシシの精霊は、たちまち眩い白光を放った。

光は空界を越えてラインの全身を包み、肌を内側から淡く白く輝かせる。


皮膚も筋肉も筋も、すべてが白い光の中に浸されていた。


やがて、しびれるようなかゆみが、体の奥底から少しずつ湧き上がってくる。

白光が筋肉をゆっくりと作り変え、力を一滴ずつ肉体へ溶け込ませているのだ。


この成長は、一時的な強化ではない。


一度肉体の改造が完了すれば、得られた力は永久にラインの体へ残る。

将来、白イノシシの精霊を失ったとしても、その力まで消えることはなかった。


しかし、十五分ほどが過ぎると、心地よいしびれは次第に痛みへ変わり始めた。


最初は、電流が筋肉を通り抜けるようなしびれだった。

そこから痛みは急速に増し、無数の小さな刃が全身の筋肉を繰り返し切り刻むような感覚へ変わっていく。


ラインはすぐに、白イノシシの精霊の使用を止めた。


何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如し。


白イノシシの精霊も、無制限に使い続けられるわけではない。

現在の肉体では、一日に十数分使うだけで限界に達してしまう。


無理に使い続けても、力が早く増すわけではなかった。

それどころか、痛みだけが強くなっていく。


それでも止めようとしなければ、最後には激痛だけで死に至る可能性さえあった。

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