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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 久保 墨/朱色の豚
外道の本性

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65.背負われた家宝、笑顔に潜む脅し

獣皮の地図は厚く丈夫で、紙のように気軽に折り畳むことはできなかった。

ラインは地図を巻き直して竹筒へ戻し、両端に麻縄を結びつける。

それから竹筒を、肩から斜めに背負った。


地面に跪く二人の若い狩人はその竹筒を食い入るように見つめていた。

目には、無意識のうちに欲望の色が浮かんでいる。


二人も、この地図の価値を理解していた。


偵察型の精霊を持つ精霊使いにとっては、さほど珍しい品ではないのかもしれない。

だが、修行の資質を持たず、経験だけを頼りに山林で生きる狩人にとっては違う。


この地図は、一家の運命すら変え得る至宝だった。


ジャック家が祖先の代から受け継ぎ、代々積み重ねてきた知識と経験の結晶である。

オールド・ジャックが近隣随一の狩人となれたのも、少なくとも半分はこの地図のおかげだろう。


家宝と呼んでも、決して大げさではなかった。


「一つ聞く」


ラインは二人へ冷たい眼差しを向けた。


「オールド・ジャックの家族は、ほかにもいるのか?」


二人の若い狩人は、揃って体を震わせた。

自分たちの命が、今もラインの手中にあることを

ようやく思い出したのだ。


先ほどまで目に浮かんでいた欲望は消え去り、

あとには隠しようのない恐怖だけが残った。


「いません!もう、ほかには誰もいません、精霊使い様!」


「オールド・ジャックには妻がいました。

ですが十数年前、村が野生の狼に襲われた際、その妻も死んでいます。

子供は息子が二人と、娘が一人です。

長男のビッグ・ジャックは、三年前に山へ狩りに入ったきり戻りませんでした」


「皆、ビッグ・ジャックはもう山の中で死んだと思っています!」


二人は互いに先を争うように答えた。

わずかでも口ごもれば、ラインに疑われると恐れているらしい。


「なるほど」


ラインはわずかに目を細めた。


二人の話は、その場で作った嘘には聞こえない。

何より生殺与奪を握られている今、あえてラインを欺く可能性は低かった。


それでも、ラインは追及をやめなかった。


「ほかに、言い忘れたことはないか?」


「ありません!」


「決して精霊使い様を欺ったりはいたしません!」


そのとき、ジョンが何かを思い出したように、

慌てて口を開いた。


「そうだ!以前は、オールド・ジャックに義理の娘もいました

ビッグ・ジャックの妻です。

ですが夫が行方不明になってから、ほどなくして死にました」


もう一人の若い狩人が、

すかさずその話を引き継ぐ。


「村では、夫の後を追ったと言われています

ですが、本当は違います!

彼女は再婚しようとしていました。

それをオールド・ジャックが許さず、最後には死へ追い詰めたんです!」


「精霊使い様は悪人を除き、村を救ってくださいました!」


「そのとおりです!」


ジョンも何度も頷いた。


「俺たちは、前からあの男が気に入りませんでした。

少しくらい狩りがうまいからといって、いつも自分が一番だと思っていたんです。

俺たちと同じ、資質のない狩人にすぎないのに!

それなのにわざわざ村を離れ、こんな山林の中で暮らしていました」


「俺たちが教えを請いに来ても、何一つ教えようとしませんでした

それどころか追い返し、二度と小屋へ近づくなと脅したんです!」

もう一人の男も慌てて相槌を打った。


ラインは黙って話を聞き、

時折、小さく頷いてみせた。


二人が生き延びるため、必死にオールド・ジャックを貶しているのは明らかだった。

しかし、その口調からは、長く積もった恨みも確かに感じ取れる。


もっとも、二人が以前この小屋を訪れた理由も、

純粋に狩りの技を教わるためだけではなかっただろう。


おそらく、二人は以前からリリーの美しさに目をつけていた。

それをオールド・ジャックに見抜かれ、何度か手ひどく追い払われたのだ。


その結果、好意は恨みへ変わり、今日まで胸の内に残っていた。


「悪人を除いたとか、村のためになったとか、そんな話はどうでもいい」


ラインは平然と二人の話を遮った。


「私があの一家を殺したのは、この獣皮の地図を得るためだ」


二人の声が、ぴたりと止まった。


「だが、お前たちの働きには満足している」


ラインの声が、わずかに和らぐ。


「もう行っていい」


そう告げながら、背後へ隠した右の掌には青い月光が静かに集まり始めていた。


だが、二人の若い狩人は何も気づいていない。

解放を告げられた瞬間、死地から生還したような歓喜が顔に広がった。


「命をお助けいただき、ありがとうございます!」


「精霊使い様のご慈悲は、生涯忘れません!」


二人は涙を流しながら地面へ伏し、何度も額を打ちつけた。

それから転がるように立ち上がり、背を向けて小屋から逃げ出そうとする。


ラインが人を殺すところを目の当たりにした以上、

一刻たりとも、この少年のそばにいたくなかった。


「待て」


そのとき、頭上から見知らぬ声が降ってきた。


直後、樹冠を覆う枝葉が激しく揺れた。

一人の男が高所から飛び降り、小屋の前の空き地へ音もなく着地する。


ラインの背後に集まっていた月光は、それと同時に静かに消えた。


男は動きやすい濃紺の服をまとい、腰には赤い帯を締めている。

帯の中央には鉄板がはめ込まれ、その表面には「二」の文字が刻まれていた。


二環の精霊使い。


痩せた体に細長い両目。

手首には手甲を着け、脛も布帯できつく縛っている。

全身から、長い鍛錬を積んだ者の精悍さが漂っていた。


「お前たちは、まだ帰るな」


男は二人の若い狩人へ目を向けた。


「ここで何があったのか、最初から最後まで話せ」


「バキ様にご挨拶申し上げます!」


二人は明らかに男を知っていた。

立ち上がったばかりだというのに、慌てて再び跪き、深く頭を下げる。


バキは、ローデン一族から周辺の村々へ派遣された精霊使いだった。


ほかの勢力による浸透を防ぎ、獣や外敵から村を守る。

同時に、各地への支配を強めるため、一族は毎年、精霊使いを各地へ派遣していた。


近隣にあるいくつかの村はちょうどバキの担当区域だった。


バキは跪く二人には目も向けず、ラインを冷たく見据えた。


「私はローデン一族から、この地へ派遣された精霊使いだ。

名はバキ。お前は何者だ?」


ラインは薄く笑い、右の掌を広げた。


掌に月印が浮かび上がり、柔らかな青い月光を放つ。


それを見たバキの目から、警戒の色が明らかに薄れた。


月印は、ローデン一族を代表する精霊の一つである。

外部の者が見せかけだけを真似たところで、二環の精霊使いを欺くことは難しい。


「事情は単純です」


ラインは月印を収め、隠すことなく事実を告げた。


「オールド・ジャックの次男が、私に無礼を働きました。

腹が立ったので、一家をまとめて殺しました。

この二人が証人です」


そう言って、地面へ跪く二人の狩人を指さした。


二人は一瞬もためらわず、

首が取れそうな勢いで何度も頷いた。


バキは一瞬呆気に取られ、直後に声を上げて笑った。


「よく殺した!

たかが奴隷が、ローデン一族の精霊使いに無礼を働くとはな。

死んで当然だ!」


だが、笑い終えると、

その口調はすぐに変化した。


「しかし、後輩、ここまで騒ぎを大きくされると、私も少々困ってしまう」


バキは困ったような表情を作り、意味深な口調で続けた。


「オールド・ジャックの一家は、村から離れて暮らしていた。

それでも私が守るべき村人だ。

一族が私をここへ派遣したのも、治安を維持し、人口を守らせるためだ。

それなのに、一家が突然消えてしまった。年末の査定では、私の評価も下がるだろう」


「さて、どうしたものかな?」


ラインの目が、わずかに光った。

相手の意図を一瞬で理解する。


バキは、オールド・ジャックの一家が

なぜ死んだのかなど気にしていない。

彼らのために責任を追及するつもりもなかった。


長々と話した目的は、ただ一つ。

この件を口実にして、

ラインから何らかの利益を引き出すことだった。


「何も困ることはないでしょう」


ラインは笑みを返した。


「先輩は、そのまま事実を報告すればいい、

一家を殺したのはすべて私であり、先輩には何の責任もありません」


バキのまぶたが、ぴくりと引きつった。


ここまで露骨に示したにもかかわらず、

ラインは一切応じようとしない。

胸中に怒りが湧き上がり、

その声も途端に厳しくなった。


「そうか、ならば私も、公正に処理するしかないな」


バキは冷ややかに告げた。


「一族から責任を問われても構わないのなら、名を名乗れ。

ここで起きたことを詳しく記録し、ありのまま一族へ報告しよう」


言葉に込められた脅しは、あまりにも分かりやすかった。


学堂へ入ったばかりの少年なら、一族が責任を問うと聞いただけで、恐怖に取り乱していたかもしれない。


だが、ラインがその言葉から聞き取ったのは、バキの弱気だけだった。


本気で公正に処理するつもりなら、何度も遠回しに要求する必要などない。

まして、ラインが利益を差し出すのをわざわざ待つはずもなかった。


「先輩は、どうぞ事実のまま報告してください」


ラインの表情は変わらない。


「姓はローデン、名はラインです」


「お前がラインか?」


バキの顔から怒りが消え、代わりに驚きが浮かんだ。


改めてラインを上から下まで眺める。

その口調も、先ほどより明らかに柔らかくなっていた。


「最近、弟から何度もお前の話を聞いている。学堂の同級生を一通り叩きのめしたそうだな。

霊石も取り立て、一度で六十個以上手に入れているとか。

弟は随分と楽に稼いでいると、羨ましがっていたぞ。

カジノの話も聞いたぞ。化石を六個買い、翠玉蝶と酒虫を立て続けに引き当てたそうじゃないか」


「その運のよさには、私も嫉妬してしまうな」


そこまで話すと、

バキは思い出したように笑った。


「そうだ。私の弟はキバだ。お前たちは、すでに会ったことがあるはずだ」


「彼でしたか」


ラインは小さく頷いた。


「私の月蘭花弁は、いつもキバが任されている店で買っています」


「ははは、そういうことなら、互いによそ者ではないな!」


バキの態度が完全に変わった。

胸を叩き、豪快な人物を装ってみせる。


「この件は、私がうまく処理しておこう!

わざわざ一族を騒がせる必要もない!」


バキはただ、この流れを利用して引き下がる口実を作っただけだった。


たとえ一族へ報告し、すべての責任をラインに負わせたとしても、担当区域の人口が減った事実は消えない。年末の査定には、いずれにせよ影響する。


利益を得られないのなら、ラインへ恩を売ったほうがまだましだった。


オールド・ジャック一家の死については、獣に襲われたと報告すればいい。


一家は自ら村を離れ、山林の中で暮らしていた。

そこで獣に襲われたとしても、不自然な点は何一つない。


バキは、嘘が露見することも恐れていなかった。


死んだのは、所詮数人の奴隷にすぎない。

たとえ隠蔽が発覚しても、一族が取るに足りない命のため、二環の精霊使いを厳しく追及する可能性は低かった。


「ただし、後輩……」


バキは声を長く引き延ばし、

笑みを浮かべたまま続けた。


「お前はまだ学堂を卒業していない、正式な精霊使いの制服も着ていないな。

ジャックが最初からお前の身分を知っていたなら、本当に無礼を働いたと思うか?

賢いお前なら、私が何を言いたいのか分かるだろう?」


ラインの眼差しが、わずかに動いた。


バキの言い方は遠回しだったが、その真意を理解するのは難しくない。


まだ学堂を卒業していない生徒が、気軽に集落の外へ出歩くべきではない。

たとえ人を殺すとしても、二度と自分の担当区域で騒ぎを起こすな。


そう警告しているのだ。


「ご指導、ありがとうございます」


ラインはわずかに頭を下げ、それ以上言い争おうとはしなかった。


目的の獣皮の地図は、すでに手に入っている。

この程度のことで二環の精霊使いと衝突する理由はなかった。


バキへ別れを告げると、ラインは竹筒を背負い、そのまま丸太小屋をあとにした。


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