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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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62.烈日に潜む月刃、断たれた強弓

「失せろ、だと?」


ラインはジャックの言葉を繰り返し、

口元に冷たい笑みを浮かべた。

言い返す代わりに、右手を手刀のように前へ薙ぐ。

青い光が、その掌で一気に凝縮した。


月刃が空気を切り裂いて飛び出した。

ほとんど同時に、ラインも地面を強く蹴る。

月刃を追うようにして四人の狩人へ真っすぐ突進した。


「精霊使いだ!」


一人の狩人が、思わず叫び声を上げた。

四人は慌てて左右へ散ったが。

そのうち一人だけが、わずかに遅れた。


月刃は男の右腕を横切り、骨肉をまとめて断ち切った。

切り落とされた右前腕が手ごと草の上へ転がる。


切断面から、鮮血が勢いよく噴き出した。

男は地面を転がり、左手で傷口を強く押さえる。

その絶叫に驚き、林から無数の鳥が飛び立った。


ジョンと、もう一人の狩人は一瞬で青ざめた。

二人は武器を投げ捨てると、

膝から崩れ落ちるように、その場へ跪いた。

先ほどまでの威勢など、もう欠片も残っていない。


「お命だけは!」


「無礼を働くつもりはありませんでした!どうか、お許しください!」


ただ一人、ジャックだけは立ったままだった。


ラインが前触れもなく殺しにかかったことで、

驚きと怒りが、その顔に浮かんでいる。

それでも、彼は判断力を失ってはいなかった。


両腕を背へ伸ばし、背負っていた猟弓をつかむ。

次の瞬間には半歩退きながら矢をつがえ、

鋭い鏃を、迫り来るラインへぴたりと向けていた。


「止まれ!

それ以上近づけば、矢で射抜くぞ!

お前は学堂へ入ったばかりの精霊使いだ!誰も彼も、お前を恐れると思うな!」


ラインは、わずかに目を細めた。


普通の狩人なら、精霊使いを目にした途端、

まず逃げることを考える。

だがジャックは、仲間が腕を失った直後にもかかわらず、

すぐさま距離を取り、弓の間合いを確保した。


その胆力と反応は、明らかに常人を上回っている。


しかし、それだけでは足りなかった。


ラインが手首を返す。

二発目の月刃が、青い軌跡を描いて飛び出した。


ジャックは鼻を鳴らし、鋭く横へ踏み込んだ。

正面から迫る月刃をかわすと同時に、

ためらいなく弦から指を放す。


ヒュン!


矢は空気を貫き、瞬く間にラインへ迫った。

ラインが鋭く身を沈める。

鏃は髪のすぐ上をかすめて飛び去ったが、

ラインの勢いは少しも衰えなかった。


数歩のうちに、二人の距離は拳の間合いまで縮まる。


この距離では、ジャックも二本目を射る暇がない。

彼は一切迷わず猟弓を投げ捨て、踏み込んでラインを迎え撃った。

太い腕が風を唸らせ、少年へ勢いよく打ち出される。


二人の体格には、大きな差があった。


ジャックは背が高く、肩幅も広い。

長年、山で獣を追ってきたその体には引き締まった筋肉が全身についていた。


真昼の太陽は、ちょうど彼の背後にある。

顔は影に沈み、獣じみた眼光だけが鋭く光っていた。


「死ね!」


ジャックの右拳が、ラインの顔面へ迫る。

左拳は、横へ逃げる道を塞いでいた。

一発でも十四歳の少年にまともに当たれば少なくとも数本の骨は折れるほどの勢いだった。


跪いていた二人の狩人が恐怖に目を見開いた。


「ジャック、やめろ!」


「もう戦うな!」


拳が眼前まで迫ってもラインの表情は少しも変わらなかった。

最後の瞬間、彼は足運びを鋭く変える。

右拳をかすめるように身を滑らせ、前進の勢いを利用してジャックの左脇へ潜り込んだ。


ジャックの反応は速かった。

獰猛な笑みを浮かべ、腰をひねる。


その動きに合わせ、左腕を横薙ぎに振る。

遅れて放たれた拳が、瞬く間にラインの背へ追いついた。


だが、それこそラインが待っていた角度だった。


左へ回り込んだ少年を追うには、ジャックも顔をそちらへ向けなければならない。

その瞬間、樹冠の上に浮かぶ烈日が肩越しに現れ。

刺すような白光を、その両目へまっすぐ叩きつけた。


視界が一気に白く染まった。

ジャックは両目に痛みを覚え、反射的に目を細める。


ラインは冷笑し、勢いを借りて横へ跳んだ。

体を宙で反転させ、迫る左拳をかわす。

そのまま右手を振り抜くと、三発目の月刃が日差しと同じ方向から、音もなく飛び出した。


死の冷気が、ジャックの全身を包んだ。


迫る攻撃は見えない。

それでも長年の狩りで研ぎ澄まされた直感に従い、彼は必死に頭を横へ傾けた。


その一瞬だけ、時の流れが引き延ばされた。


灼けつく白光が林を満たし、ジャックの巨体は逆光の中で歪んだ黒い影へと変わっていた。


青い月刃は眩光の中へ溶け込み、ほとんど見分けられない。

そのまま黒い影の頭部を、横一文字に通り抜けた。


月刃は彼方へ飛び去り。

ジャックの体も勢いのまま後ろへ倒れていった。


「かわした……」


一人の狩人が、思わず安堵の息を漏らした。


その言葉が終わるより早く、ジャックの頭の右上部から血肉の塊がずれ落ちた。

真っ赤な血が、陽光へ向かって噴き上がる。


全身から、たちまち力が抜け落ちた。

まるで弦を断たれた強弓のようにその巨体が重々しく地面へ叩きつけられた。


ぴちゃり。


温かな血の雫が、ジョンの頬へ落ちた。

彼はぎこちなく手を上げ、そこを拭う。

掌についた鮮血を見た瞬間、その瞳孔が一気に縮んだ。


「ジャック……」


もう一人の狩人も、唇を震わせている。

その顔からは、すでに血の気が失せていた。


つい先ほどまで、山の中で彼らと笑い合い、イノシシを三頭狩ると豪語していた仲間。

そのジャックが死んだのだと、

二人はこのとき、ようやく理解した。


「ジャックは、村で一番強い狩人だったのに……」


「俺たちが精霊使いに勝てるわけがない……」


二人は跪いたまま、逃げようとさえしなかった。


少し離れた場所では、腕を失った狩人の絶叫が今も続いている。

鳥の声と水音も、再び耳へ流れ込んできた。

まるで、先ほどの静寂など初めからなかったようだった。


ラインは地面から立ち上がり、服についた草を払った。


ジャックの横薙ぎの拳を避けるため、

空中で無理やり体をひねった。

そのせいで着地の際に肩から地面へ落ち、今も鈍い痛みが残っている。


とはいえ、それだけだった。


ラインには、防御を担う精霊がいない。

十四歳の肉体であの拳をまともに受けていれば、肩が痛む程度では済まなかっただろう。


彼は倒れたジャックへ目を落とし、改めてジャックを見定めた。


「コア派閥に仕えていたアノより強い」


それは、単純な腕力だけを指した言葉ではない。


ジャックの矢は速く、しかも狙いが正確だった。

その射程は、月刃よりもはるかに長い。

接近戦でも動きに迷いがなく、攻撃はどれも、容赦なく急所を狙っていた。


ただの狩人だと侮れば、一環高位の精霊使いでさえ彼に命を奪われかねない。


一環の段階では、精霊使いの肉体もまだ常人の域を出ていない。

精霊使いに覚醒していない武人でも、技を磨き抜けば、精霊使いを殺す力を持ち得るのだ。


ジャックが現れた瞬間から、ラインは、その背にある猟弓へ目を留めていた。


月刃の有効射程は、十メートルしかない。

それに対し、猟弓ならはるか遠くから攻撃できる。

ジャックに距離を取らせれば、不利になるのはラインのほうだった。


だから最初の月刃を放つと同時に、そのすぐ後ろから突進した。

強引に間合いを詰め、二本目の矢を射る時間を奪い、ジャックに猟弓を捨てさせたのである。


だがラインも、初めから接近戦で打ち合うつもりはなかった。


突進する進路を選んだ時点で、ジャックと太陽、そして自分の位置を計算していた。

接近は餌であり、横へ回ったのも誘導だった。


本当の狙いは、ジャックを振り向かせ、烈日に視界を奪わせることだった。


今のラインは、まだ一環中位にすぎない。

だが、酒虫で精錬された蒼緑色の精神力なら、月刃に一環高位に迫る威力を与えられる。


互いの距離は、あまりにも近かった。

そのうえ、一瞬とはいえ視界まで失っている。

ジャックが完全にかわすことなどほとんど不可能だった。


「反応は悪くなかった」


ラインが狙っていたのは、ジャックの首だった。

最初から頭を斬り落とし、一撃で終わらせるつもりだったのである。


しかし生死の境でジャックは直感だけを頼りに、首を致命の軌道から外した。

結果として、月刃が削いだのは頭部の一部にとどまった。


もっとも、そのわずかなずれで、

結末が変わることはなかった。


ラインは最後に、二つの死へ目を向けた。


落とし穴の底ではイノシシの痙攣も、すでに止まっていた。

少し離れた場所にはジャックが倒れ、その血が草を伝って、ゆっくり土へ染み込んでいた。


先ほど死んだのは、一頭のイノシシだった。

今、死んだのは一人の人間だった。


生きている間、人は万物に、

優劣や貴賤をつけたがる。

だが死が訪れれば、そんな違いに意味はない。


人の死も、イノシシの死も、突き詰めれば同じだ。

ただ一つの命が、動きを止めただけだった。


ラインの表情は静かなままだった。

その心にも、波紋一つ生まれなかった。


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