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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

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59.与えられる翠、自ら掘り出す白

日が沈み、月が昇った。

ローデン領は、夜の闇に包まれていた。


人目につかない庭の一角に、

枝葉を豊かに茂らせた槐の大木が立っていた。

広々とした樹冠は、庭全体を覆い隠すほどだった。


月光が枝葉の隙間を抜け、

まだらな銀色の光を地面に落としていた。

夜風が吹くと葉がさらさらと鳴り、

地に落ちた影も、それに合わせて静かに揺れた。


ハクとライルは、その木の下に立っていた。


「ライル。今日選んだ二体目の精霊は何だ?」


「ブロンズスキンです」


ライルは背筋を伸ばし、恭しい態度で答えた。


「族長様、防御の不足を補いたいと考えました」


ハクはわずかにうなずいた。


「悪くない。よい選択だ」


褒められたライルは、かえって少し居心地が悪そうにした。

照れたように笑いながら答える。


「僕はただ、感覚で選んだだけです」


「私が適当に褒めたと思っているのか?」


ハクは穏やかな笑みを浮かべたまま、

ライルを見つめていた。


「人がどの精霊を選ぶかには、その者の気質が表れるものだ。

お前には攻撃に使える月印がある、そこへ防御のブロンズスキンを選んだ。

攻守兼备、どちらにも偏らぬ組み合わせだ。

お前が堅実で、物事の両面に目を配れることを示している、最も失敗しにくい道と言えるだろう」


ハクは、続いてほかの二人について語り始めた。


「ノアが選んだのは、抑制カミキリの精霊だ。持久力を高め、長く戦い続けるためだろう

あれは粘り強い性格をしている、一度目標を定めれば、簡単には諦めぬ

メルは、回避を助ける蟋蟀の精霊を選んだ。

正面からぶつかるより、隙を探しながら自分を守ることを好む。そのような者は頭の回転が速く、変化にも強い。だが、避けることに頼りすぎれば、困難へ立ち向かう勇気を失いかねない」


ライルは呆気に取られたように聞き入っていた。

一度の精霊選びから、これほど多くのことを読み取れるとは、

考えたこともなかった。


改めて族長を見ると、

その目に宿る敬意は、さらに深まっていた。


「では、兄さんは?」


ライルが不意に尋ねた。


「兄さんは微光蛍を選びました…それは、何を表しているのでしょうか?」


ハクは小さく笑った。


「微光蛍は月印を補助し、月刃の威力を高められる・

防御も持久力も補わず、さらに攻撃を強める道を選んだ。

ラインは攻め気が強く、上を目指す心も人一倍強い

その反面、物事を極端なところまで押し進めやすいのだろう」


「確かに、兄さんらしいです」


ライルは、小さな声で答えた。


ハクは表情を変えず、その反応を観察していた。


一体の精霊を選んだだけで、

人の本質まで見抜けるはずはない。

ハクがこうした話をしたのも、

単に人を見る術を教えるためではなかった。


ノアとメルの性格をあえて分析したのは、

二人を必ず超えるべき相手だと、ライルに意識させるためだ。

上等資質の力で早々に頭角を現し、

今年の生徒たちの中で確固たる地位を築かせようとしていた。


だが、それを直接口にすることはできない。


族長の言葉は、どれほど些細なものでも、

政治的な意思表示として受け取られかねない。

ライルへ公然とノアやメルを抑えろと命じれば、

コア派閥とカル派閥の耳にも、いずれ届くだろう。


そうなれば、族長の一派が両派閥を弱めようとしている兆しだと疑われ、

余計な警戒や争いまで引き起こしかねなかった。


そもそも、ハクが自らライルを教えるのは、

命令に従うだけの高環精霊使いを育てるためではない。

自ら情勢を読み、いずれ一族を率いられる人間が必要なのだ。


(ここまで話しても、考えるのはラインのことだけか)


ハクは心の中で、ひそかにため息をついた。


ラインがライルへ与える圧力は、

ノアやメルよりも、明らかに強い。

双子の兄を超えたいという執念は、確かに力へ変えられる。

だが同時に、ライルの視野を狭めてもいた。


(ライルにラインほどの洞察力があれば、私の手間も大きく減るのだが)


(頭の切れだけなら、近年の生徒にラインと並ぶ者はいないだろう)


(ただ、惜しむらくは下等資質だということだ)


そう考えながらも、

ハクの顔に浮かぶ表情はいっそう穏やかになった。

懐から一体の精霊を取り出し、掌に載せる。


それを見た瞬間、ライルの目が輝いた。


「ヒスイズスキン?」


「そうだ」


ハクはうなずいた。


「ブロンズスキンより精神力の消耗が少なく、防御力も高い。

欲しいか?」


ライルは驚き、声までわずかに強張らせた。


「もちろん欲しいです。ですが……」


「欲しいのなら、与えてもよい」


ハクの顔には、変わらず笑みが浮かんでいる。


「だが、私は族長だ、理由もなく、これほど貴重な精霊を一人の若者へ与えることはできぬ。

そこで、お前には一つ条件を受け入れてもらう」


「どのような条件でしょうか?」


ハクは笑みを消し、

一語ずつ区切るように告げた。


「今年の生徒で、最初に二環へ進め。

ヒスイズスキンは、その褒賞の前渡しだ」


ライルは、すぐに返事ができなかった。


彼は、つい先ほど一環中位へ進んだばかりだ。

中位の先には、まだ高位と頂位が残っている。

今のライルにとって、二環は依然として遥か遠い場所だった。


「どうした。怖じ気づいたか?」


ハクは、掌の精霊を引っ込める素振りを見せた。


「ならば、ほかの者のために取っておくしかないな」


「いいえ!」


その言葉に焚きつけられ、

ライルは即座に顔を上げた。


「お約束します!

僕は必ず全員を追い越し、今年の生徒で最初に二環へ進みます!」


「それでいい」


ハクは再び穏やかな笑みを浮かべ、

ヒスイズスキンをライルの手へ載せた。


ライルは、ずっとラインの影の中で生きてきた。

その心には、容易に拭えない劣等感が積もっている。

それを消し去る最も有効な方法は、慰めることではない。

自らの手で、十分な重みを持つ成功をつかませることだった。


環階(ランク)を上げる競争なら、

上等資質のライルが圧倒的に有利である。

全力で修練に励みさえすれば、

最初に二環へ進むことも、決して手の届かない目標ではなかった。


(ライル、お前が進む道はすでに私が整えた)


ハクは、興奮を隠しきれない少年の顔を見つめた。

その目の奥に、一瞬だけ見極めるような光がよぎる。


(あとは、お前が最後まで歩き通せるかどうかだ)


同じころ、ラインは再び岩の裂け目にある隠し洞窟へ入り、

通路の最奥まで来ていた。


鋤も、つるはしも、槌も持ってきてはいない。

ただ巨大な岩の前に立ち、改めて辺りを観察していた。


昨夜、何も得られずに引き返してから、

どこかがおかしいという感覚が消えなかった。

今日、宿舎で逆矢の力を借りて微光蛍を錬化していたとき、

それまで見落としていた一つの細部が、ふと頭に浮かんだ。


この巨岩は、あまりにも丸く、滑らかすぎる。


本当に通路が自然に崩れたのなら、

転がり落ちた岩がここまで整った形になるはずはない。

まして、通路全体を寸分の隙間もなく塞ぐなど、

偶然で起きることではなかった。


明らかに人の手が加えられている。

酒飲のカイが意図してここへ残した関門だった。


関門であるなら、

力任せに壊すことだけが突破する方法ではないはずだ。


ラインはわずかに目を細め、

もう一度、通路全体を調べ始めた。


地面は平らで、天井は弧を描いている。

左右の壁は継ぎ目のない赤褐色の土に覆われ、

暗闇の中で微かな光を放っていた。


視線が巨岩の下へ差しかかったとき、

ラインは不意に動きを止めた。


巨岩と接するわずかな範囲だけ、

地面の色が周囲より少し濃い。

差はごく僅かで、薄暗い光の中では、

ほとんど見分けられないほどだった。


ラインはしゃがみ込み、手を伸ばして触れた。

指先に湿った感触が伝わる。

そこだけ土も柔らかく、指先で軽くこするだけで崩れた。


「これほど乾いた通路で、水はどこから来た?」


経験が告げていた。

この異変が、何の意味も持たないはずはない。


酒飲のカイが次の関門を開くための鍵を残したのなら、

最も可能性が高いのは、ここだった。


ラインは、素手で土を掘り始めた。

数センチも掘らないうちに、

一筋のかすかな芳香が鼻先へ届く。


香りそのものは濃厚なのに、少しもくどさがない。

そこには、華やかさと気品、清らかさが同居していた。


ラインの手が、先ほどよりも速く動き始める。


間もなく、土の下から暗金色の光がわずかに漏れた。


「やはりな」


ラインの目に喜色が浮かんだ。

だが、すぐに手を緩め、慎重に周囲の土を取り除いていく。


しばらくして、巨大な暗金色の蕾が完全に姿を現した。

地面から二寸ほど下に埋まり、直径は五十センチ近くある。

表面は絹のように滑らかで、

赤い微光の中、静かで神秘的な姿を見せていた。


「地蔵花(ちぞうか)」


自分の判断が正しかったと確かめ、

ラインは長く息を吐いた。


地蔵花は、一度しか使えない特殊な精霊である。

一度でも地中へ植えれば、その後は二度と動かせない。

地気を吸収することで、自らを維持していた。


その用途は、ただ一つ。

別の精霊を花心の金色の液体へ封じ、

長い眠りにつかせることだ。

それによって、飢えによる衰弱と死を遅らせられる。


多くの精霊使いが、

希少な精霊を保存するために用いる手段の一つだった。


ラインは、すぐに蕾を開こうとはしなかった。

まず傍らに座って体力を回復し、

両手の汚れを丁寧に拭ってから、

ようやく最初の花弁へ手を掛けた。


地蔵花は、蓮とキャベツの中間のような形をしていた。

厚みのある暗金色の花弁が、幾重にも重なっている。

手触りは、滑らかな絹そのものだった。


本体から剥がれた花弁は、

そのたびに空気の中へ急速に消えていく。

まるで、雪が融けるかのようだった。


ラインが数十枚を続けて剥がすと、

蕾は次第に小さくなっていった。

中心へ近づくほど、花弁は薄く、柔らかくなり、

最後には紙のように透き通った。


ラインは動きを遅くした。

数呼吸かけて、ようやく一枚を剥がしていく。


薄い花弁をもう一枚そっと持ち上げると、

花心がついに余すところなく姿を現した。


それは、拳ほどの大きさをした半透明で球状の花心だった。

中には金色の液体が満ち、

その奥で一体の精霊が眠っている。

今はまだ、ぼんやりとした輪郭しか見えなかった。


ラインが顔を近づけると、

吐息を受けた花心が、かすかに震えた。

中の金色の液体にも、細かな波紋が広がっていく。


指先で、花心にごく小さな裂け目を作った。

金色の花液が、ゆっくりと流れ出す。

液体には、わずかに粘りがあった。


中身が減るにつれ、

花心も少しずつ萎んでいった。


ラインは最後の柔らかな花弁を摘まんで開き、

その中から眠っている精霊を取り出した。


大きさは、親指の爪ほどしかない。

見た目は、丸々と太ったテントウムシによく似ていた。


頭は小さく、膨らんだ腹部と滑らかな甲殻が繋がり、

全体でほぼ完全な球形を作っている。

六本の細い脚は腹の下へ畳まれ、

全身が濁りのない乳白色をしていた。


正体を見抜いた瞬間、

ラインの目に喜びの色がよぎった。

だが、すぐに平静を取り戻した。


「白イノシシの精霊」


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