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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 久保 墨/朱色の豚
外道の本性

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53.真実が支える嘘、家督が招く疑い

「封印化石から出たというのか?」


ハクは眉をひそめた。

評議室の視線が、再びラインへ集まる。


ラインは、重圧に耐えきれなくなったように息を吐いた。


「そのとおりです。ここまで知られた以上、隠し続ける意味もありません」


そこから先は、急に早口になった。


「化石カジノで、翠緑色の封印化石を六つ買いました。

あのときは精神力が足りず、五つまでしか解封できませんでした。

最後の一つは宿舎へ持ち帰り、精神力を回復させてから開けました。

中から出てきたのが、酒虫だったのです」


ラインは一度、言葉を切った。

長老たちは黙ったまま、続きを待っている。


「酒虫が一環の精神力を精錬し、資質の低さを補えることは、以前調べて知っていました。

封印から目覚めたばかりで、抵抗する意志もほとんど残っていなかったので、すぐに錬化したのです」


一人の長老が、たまらず口を挟んだ。


「買ったのは、たった六つだろう?それで翠玉蝶と酒虫、二体も出たというのか?」


「事実は、そのとおりです」


ラインは、カジノの女性精霊使いを指した。


「最後の一つを私が持ち帰ったことなら、彼女が証明できます」


一同の視線が女性へ移った。

この場で嘘をつく度胸など、彼女にはなかった。


「ライン様が翠緑色の封印化石を六つ購入したのは事実です。

五つ目から翠玉蝶が現れ、六つ目は解封せず、そのまま持ち帰っています」


女性は、そこで一度言葉を切った。


「ただし、中に酒虫がいたかどうかは、私には証明できません」


それこそが、ラインの狙いだった。


六つ買い、人前で五つを解封し、最後の一つを持ち帰る。

そこまでは、目撃者が証明できる事実だ。


偽っているのは、誰にも見られていない最後の化石の中身だけだった。


幾重もの事実が、嘘を硬い殻で覆っている。

化石はすでに石粉になり、元の形すら残っていない。

何が封じられていたかを、今から確かめることはできなかった。


評議室に低いざわめきが広がった。


六つの化石から、二体もの生きた精霊。

出来すぎた幸運だが、カジノの結果は運次第だ。

最後の一つがただの石だったと、証明できる者もいなかった。


別の長老が、新たな疑問を口にした。


「酒虫は一環精霊とはいえ、非常に希少だ。当時のラインに、その場で錬化できたのか?」


隣の長老が答えた。


「封印化石の精霊は、長い間、何も食べられません。

目覚めた直後は死にかけているものも多く、抵抗する力もほとんど残っていないのです」


問いかけた長老が、小さくうなずいた。


「そこまで弱っていれば、自分より高い環階(ランク)の精霊でも、錬化できることがあります。

まして、酒虫とラインは同じ一環です」


この疑問も、それで解消された。

ラインは、その後の出来事を語り始めた。


「翌日の昼、酒虫を試すために市場の酒屋へ行きました。猿果酒を買い、酒虫に飲ませたのです」


「夜にもう一度市場へ行くと、取引をめぐる騒ぎが起きていました。

ルイスが、悪臭を放つ太虫を黒イノシシの精霊に見せかけ、ローデン一族の精霊使いへ売ったのです。

その後、オスカー様が現れ、霊石を支払って騒ぎを収めました」


数名の長老が、オスカーへ目を向けた。

ラインは気づかない様子で、話を続ける。


「その後、再び酒屋に入ると、ルイスが一人で飲んでいました。

私は酒虫を得たばかりだったので、価値を知りたくて相場を尋ねました。

すると、ルイスは買い取ると言い出しました。

断っても、安値で売るよう何度も迫られました。

少なくとも二環へ進むまでは絶対に売らないと伝えて、私は酒屋を出ました」


オスカーが目を細めた。


「ルイスは、追ってこなかったのか?」


ラインは答えをためらう様子を見せた。

やがて、小さく息を吐く。


「追ってきました。

先ほどの値段に霊石五十個を上乗せすると言われましたが、それでも断ると、ひどく腹を立てました」


そこで、もう一度言葉を切った。


「『ローデン一族など大したことはない。今後は気をつけろ』と脅されました。

そのまま一人で立ち去り、それ以降は会っていません」


オスカーの顔が、わずかにこわばった。


弟が一族を侮辱したという話は、聞き捨てならない。

しかし、ルイスの性格には合っていた。


欲しい品を無理に買い取ろうとし、断られれば脅す。

以前から、何度も繰り返してきた行動だ。

むしろ、追ってこなかったと言われるほうが不自然だった。


それでも、ラインへの疑いは残っている。

その後、ルイスが再び彼を捜し出し、争いになった可能性もあった。


「答えろ。ルイスを殺したのは、お前か?」


オスカーは突然、四環精霊使いの威圧を解き放った。

鋭い視線が、ラインを射抜く。


ラインの顔が、わずかに青ざめた。


「違います」


「なら、酒屋を出たあと、あいつはどこへ行った?」


「知りません」


「ほかの場所で、もう一度会ったのではないか?」


「会っていません」


問い方を変えても、ラインは否定し続けた。

新たな証拠もなく、オスカーの追及は行き詰まった。


ハクの表情が冷たくなっていく。


確かな証拠があるなら、ラインを差し出してもよかった。

しかし、今あるのは二人が接触したという証言だけだ。


そのうえ、ルイスが領内で一族を侮辱したという話まで出ている。

このまま少年への威圧を許せば、族長である自分が弱腰に見える。


「もう十分だ」


ハクが追及を遮った。


「弟が姿を消して、すでに数日だ。

殺されたというなら、ほかにも手掛かりがあるはずだろう。何を見つけた?」


オスカーは威圧を収めた。

低い声で答える。


「ほとんど何も見つかっていません。痕跡は徹底して消されていたようです。

商隊が出発した日は大雨で、匂いも足跡も洗い流されました」


「ベルナー家には、黄泉蝶がいるはずだな?」


ハクはオスカーを見据えた。


「一族の者が持つ精霊に、無色無臭の魂香(におい)を残せると聞いている。

それが残っていれば、どれほど離れても追えるのだろう?」


「すでに使いました」


オスカーの顔が曇った。


「しかし、何の反応もありませんでした。犯人はルイスを殺し、彼の精霊もすべて破壊したのでしょう。

魂香も、それと同時に消えたのだと思います」


ハクはしばらく黙った。

やがて、不意に尋ねる。


「だとすれば、犯人はなぜルイスを殺した?」


オスカーの見立てが正しければ、精霊を奪うために襲ったとは考えにくい。

身代金を要求する連絡も届いていなかった。


一環精霊使い一人を殺し、痕跡まで徹底して消したのだとすれば、危険を冒すだけの動機があるはずだ。


評議室が静まり返った。


その中で、ラインがオスカーへ目を向けた。


「もしかすると、ルイスを殺したのは、あなたではありませんか?

ベルナー家は、今まさに家督争いの最中です。

兄弟が一人減れば、あなたの取り分も増えるのでは?」


「黙れ!」


「証拠もなく、オスカー様を疑うな!」


数名の長老が、すぐに叱りつけた。

ラインは素直に口を閉じた。

それでも、顔には理不尽に疑われた怒りが残っていた。


目的は、すでに果たしている。


たった一言で、皆がオスカーを犯人だと信じることはない。

だが、ベルナー家の内側へ目を向けさせるには十分だった。


ラインには、真犯人を突き止める必要などない。


十四歳の少年による衝動的な殺人。

それよりも、利害に沿う別の可能性を示せばいい。

あとは、権力争いを知る長老たちが勝手に補ってくれる。


オスカーがルイスを殺していないことは、分かっていた。

弟が自分の商隊で死ねば、父の信頼を失うのはオスカーだ。


だが、ほかの後継者候補まで、同じ事情を抱えているとは限らない。


「ベルナー家の家督争いか……」


一人の長老が、小声でつぶやいた。

いくつもの目に、鋭い光が宿る。


当主が後継者を選んでいることも、子供たちの間で争いが続いていることも、広く知られていた。

中でも有力なのは、オスカーとエミル。

二人とも、四環に達している。


ルイスがオスカーの商隊で死ねば、父から責任を問われるのはオスカーだ。

そこから最も利益を得るのは、最大の対抗馬であるエミルだった。


遺体は見つからず、精霊を追う黄泉蝶も反応しない。

大雨で、匂いや足跡も失われている。


長老たちの目には、周到に痕跡を消した者の仕業に見えた。

目の前の十四歳の少年よりも、家督を争う強者のほうが結びつきやすい。


誰も、その推測を口にはしなかった。

それでも、交わされる視線には新たな疑いが浮かんでいた。


ラインの後ろに立つ学堂長老も、ようやく筋が通ったと感じた。


ルイスの名を知らないふりをしたのは、酒虫を隠すためだ。

精霊の存在を明かしたくなかったから、相場を尋ねたことまで伏せたのだろう。


失踪は、たまたま同じ夜に起きただけに違いない。


ラインへの疑いは、急速に薄れていった。


ラインは目を伏せた。

その奥に宿る、冷たい光を隠す。


殺人の疑いを晴らすのは、まだ計画の第二段階にすぎない。

ここからが、本当に重要だった。


再びオスカーを見ると、相手もこちらを見つめていた。

その目に宿る疑念は、確かに揺らいでいる。


だが、敵意は消えていなかった。

むしろ、先ほどよりも濃くなっていた。

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