50.霊石は懐へ、肩書きは他人へ
事態は、ほぼラインの予想どおりに進んだ。
学堂長老は治療を担う精霊使いを送り、二人の侍衛を救わせた。
命こそ助かったが、一人は左腕を失い、もう一人も脚に生涯残る障害を負った。
その後、二人は職を解かれ、学堂から追放された。
当日の一件について、口外することも禁じられた。
ラインには、何の処分も下されなかった。
むしろ学堂は、誰より早く一環中位へ進んだ功績を公に称えた。
侍衛たちに重傷を負わせた件も、正当防衛と認められた。
中位へ進む最中に、妨害を受けたためである。
この結果により、生徒たちはますますラインを恐れた。
学堂の侍衛を再起不能にしても、責任を負ったのは侍衛自身だった。
十四歳の少年たちには、単なる強さ以上に恐ろしい結果だった。
だが、騒ぎは学堂の中だけでは収まらなかった。
数日のうちに、噂はローデン一族全体に広まった。
下等資質のラインが、誰より早く一環中位へ進んだという噂だ。
精霊使いから凡人の住民、各派閥の使用人までが、同じ疑問を口にした。
ラインは、いったいどうやったのか。
最初、人々はただ驚いていた。
やがて、さまざまな推測が飛び交い始めた。
「下等資質の者が最初に進むことも、絶対にあり得ないわけではない。
適した精霊や薬があれば、一時的に資質の差を乗り越えるのは難しくない」
「一度使うだけで、位を上げられる精霊がいるらしい。
空界の壁を直接強化し、一段階上へ進めるそうだ」
「長老の誰かが、高位の精神力を外から注いだのかもしれない」
「酒虫の可能性もあるぞ。あれなら一環の精神力を精錬できる。初期の修練を早めるには、まさにうってつけだ」
推測は増え続けたが、どの説にも裏付けはなかった。
一環中位へ進んだ直後に酒虫の存在を明かしていれば、疑問はすぐに解けていただろう。
それでも、ラインは沈黙を守り続けた。
まるで意図的に空白を残し、人々に想像させているかのようだった。
答えが得られないほど、好奇心と疑念は強まるばかりだった。
無数の視線が学堂へ集まり始めた。
各派閥も、学堂長老が説明するのを待っていた。
何しろラインは、学堂長老が直接教えている生徒である。
学堂でさえ理由を知らないのなら、長老の監督責任を疑う者も現れる。
学堂長老は、ラインの最近の行動を密かに調べさせるしかなかった。
霊石の出所、日々の修練、臨時市場で接触した商人。
一つの手掛かりも見逃さぬよう、すべてを洗わせた。
ただし、調査には時間がかかる。
答えが出るより先に、ほかの生徒たちも次々と一環中位へ進んだ。
二人目は、ノア・ローデンだった。
彼には、コア派閥から十分な資源が与えられていた。
ラインとの戦いで感じた焦りも、彼を修練へ駆り立てた。
療養中も、ほとんどの時間を修練に注いだ。
その努力が実を結び、二人目として一環中位へ進んだのである。
その三時間後、ライルも一環中位へ進んだ。
彼が三人目だった。
上等資質を持つライルは、本来ならもっと早く進めるはずだった。
ところが、最後の数日で霊石の不足が足を引っ張った。
ラインに先を越された衝撃も、ライルの心を乱した。
結局、ほんのわずかな差でノアに後れを取った。
四人目は、メル・ローデンだった。
彼の本当の資質も、ラインと同じ下等資質にすぎない。
カル・ローデンから三日ごとに、白銀の精神力を注いでもらっていた。
それによって、表向きの中等資質に見合う速度を保っていたのである。
この方法は効率が悪く、危険も伴う。
それでも二人に大きく遅れなかった時点で、カル派閥の目的は果たされていた。
五日目、学堂では七日ごとの補助が再び配られた。
今回は霊石の支給だけではない。
リーダー一人と、サブリーダー二人も正式に決められる。
そのため、生徒たちは全員、早くから教室へ集まっていた。
誰もが最終結果を待っている。
「ライン・ローデン」
学堂長老は、最初にその名を呼んだ。
ラインは席を立ち、落ち着いた足取りで教卓へ向かった。
嫉妬や羨望、消えきらない疑念を含んだ視線が、その背中を追っていた。
「最初に中位へ進んだんだ。リーダーはラインで決まりだろ」
「こんな結果になるなんてな。俺はずっと、ライルが勝つと思っていた」
「きっと何か秘密を隠している。話すつもりはないらしい」
「お前が同じ手段を得たら、皆に教えるのか?」
ささやき声の中、ラインは学堂長老の前に立った。
「お前は、今年の生徒で最初に一環中位へ進んだ。これは、学堂が約束した褒賞だ」
学堂長老は、青と白の布袋を差し出した。
ラインは受け取ると、その場で袋の口を開いた。
中の霊石を、一つずつ丁寧に数え始める。
学堂長老の目尻が、わずかに引きつった。
「三十個入っている。一つも減らしてなどいない」
ラインは手を止めなかった。
数が正しいと確かめてから、ようやく袋を懐へ収める。
「確かに三十個です。長老様、ありがとうございます」
学堂長老は、どうにか笑みを保った。
そして、その慎重さを霊石不足の表れだと受け取った。
ラインは下等資質である。
誰より早く進むため、ほかの生徒より多くの資源を使ったはずだ。
親族からの援助も失っている。
今は、かなり霊石に困っているに違いない。
霊石を必要とするかぎり、ラインも完全には一族から離れられない。
役職、補助、そして修練に必要な資源。
いずれは、それらを得るために学堂の方針を受け入れるだろう。
学堂長老は、ラインが今も数百個の霊石を持つとは知らなかった。
密かな調査は続いており、報告もまだまとまっていない。
翠玉蝶を売った件も、詳しい情報は届いていなかった。
当然、ラインの手元に残る霊石の数も把握していない。
「さらに、二体目の精霊を優先して選ぶ権利も与えられる。詳しい日時は、後ほど知らせよう」
学堂長老はわずかに間を置き、最も重要な決定を告げた。
「成績に基づき、お前を今年のリーダーに任命する」
教室のあちこちから、落胆のため息が漏れた。
ノアは歯を食いしばった。
メルは腕を組んだまま、教卓を見ていた。
最も大きな影響を受けたのは、ライルだった。
自分も、少なくともサブリーダーにはなれると思っていた。
だが、今後は兄の指示に従わなければならない。
そう考えた途端、その地位は魅力の大半を失った。
「お待ちください」
ラインが、不意に口を開いた。
学堂長老の胸に、嫌な予感がよぎった。
「どうした?」
「私には、ほかの生徒をまとめる役は向いていません。リーダーの座は、その責任を担いたい者にお任せください」
学堂長老はしばらく固まり、自分の耳を疑った。
「断るというのか?」
「はい」
「リーダーは七日ごとに霊石を十個受け取れる。普通の生徒より、七個も多いのだぞ。
その地位は、お前の実力と成績を学堂が認めた証でもある。本当に手放すつもりか?」
「はい。辞退します」
学堂長老の眉間に、深いしわが刻まれた。
リーダーの地位こそ、ラインを一族の秩序に組み込む絶好の機会だった。
追加の資源を受け取る代わりに、責任も負わせる。
規律を保ち、教官を補佐し、生徒たちをまとめさせるのだ。
リーダーになれば、補助の支給日に門を塞ぐことなどできない。
自分がまとめる生徒から、堂々と霊石を脅し取ることも不可能になる。
任命を受け入れた時点で、毎週の収入源は大きく制限される。
ほかの少年たちも、彼の圧迫からようやく一息つけるはずだった。
だが、ラインにとって、この条件には何の価値もない。
リーダーになって増えるのは、七日ごとに霊石七個だけだ。
全生徒から得る総額とは、比べものにならない。
役職がもたらす名誉にも興味はなかった。
それに付随する義務は、行動を縛るだけである。
学堂長老がラインには拒めないと踏んだ条件も、初めから何の魅力もなかった。
ラインは静かに問いかけた。
「学堂の規則では、首位が必ずリーダーになるのですか?
それとも、生徒には任命を断る権利がないのでしょうか?」
学堂長老は沈黙した。
そのような規則は、どこにも存在しない。
これまで誰も断らなかったのは、受け入れる義務があったからではない。
リーダーの名誉と資源の誘惑に抗える少年が、いなかっただけだ。
「……そのような決まりはない」
「では、ご理解に感謝します」
ラインはわずかに頭を下げ、そのまま自分の席へ戻った。
彼が腰を下ろした途端、教室中から声が上がった。
「本当に断ったぞ!」
「七日ごとに霊石十個だぞ。それを要らないっていうのか?リーダーになれるのに!」
ノアも、初めは状況を理解できなかった。
少しして、ようやく気づく。
ラインが辞退した今、成績二位の自分がリーダーの第一候補である。
幸運があまりに突然で、ノアはしばらく声も出せなかった。
メルには、ラインの選択が理解できなかった。
皆が欲しがるものを、何の迷いもなく捨てたようにしか見えない。
ライルも、席へ戻る兄を呆然と見つめていた。
自分は今も、サブリーダーになれる。
それでも、そこに期待していた喜びはなかった。
兄に勝って手に入れた地位ではない。
ラインが自ら退き、空いた席にすぎなかった。
教卓に立つ学堂長老の顔は、すっかり陰っていた。
規則でラインを縛ろうとしたのは、これが二度目である。
そして今回も、ラインは許された出口から難なく抜け出した。
どれほど不満でも、任命を無理に受けさせることはできない。
補助の支給が終わると、学堂長老は改めて結果を発表した。
成績二位のノア・ローデンが、リーダーに選ばれた。
ライル・ローデンとメル・ローデンは、それぞれサブリーダーとなった。
今後、ノアには七日ごとに霊石十個が支給される。
ライルとメルには、それぞれ五個ずつ与えられる。
家計に余裕のない生徒たちは、羨ましそうな顔をしていた。
ラインだけは背もたれに身を預け、何の関心も示さなかった。




