↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 蛊真人/朱色の豚
外道の本性

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/134

49.罪を覆す水膜、敗北を隠す称賛

教室中の視線が、ラインに注がれていた。

驚愕と恐怖、それに疑念。

まだ薄笑いを浮かべている者もいた。


ラインはどの視線にも反応せず、倒れた侍衛を指した。

学堂長老を見つめる顔は、真剣そのものだった。


「長老様。二人の侍衛のせいで、私の空界は壊されるところでした」


教室が静まり返った。

ラインは誰にも口を挟ませず、説明を続けた。


「二人が宿舎へ来たとき、私は一環中位へ進む最後の段階に入っていました。

その最中に妨害を受ければ、精神力の制御を失いかねません。

中位へ進めなくなるだけでなく、空界に取り返しのつかない傷が残ることもあります」


ラインは腹部に軽く手を当てた。


「ところが二人は、ノックもせず、こちらの様子も確かめませんでした。

いきなり扉を蹴破り、部屋へ踏み込んできたのです。

幸い、その瞬間には最後の段階を終えていました。私は無事、一環中位へ進むことができました」


学堂長老の表情が、わずかに動いた。

だが、まだ口を開こうとはしなかった。


「私は二人に立ち去るよう求めました。

しかし、彼らは非を認めず、強引に踏み込んだのも長老様の命令だと言い張りました。

そのうえ私を襲い、ローデン一族の先祖まで侮辱したのです」


ライルが眉を寄せた。


「長老様が、そのような命令を出すはずはありません。

二人を取り押さえようとしましたが、どちらも格闘の腕が立ち、月印を使わざるを得ませんでした」


ラインは、侍衛の左肩を指した。


「この者は月刃で左腕を失いました。もう一人は脚に重傷を負い、今も宿舎の外に倒れています。

ただ、どちらもまだ生きています」


入口近くの生徒が、椅子を少し後ろへ引いた。

ラインは長老へ一礼した。


「以上が事の経緯です。どうか真相をお調べください。それから、二人の治療も急がせてください」


ラインが口を閉じてから、生徒たちはようやく、話の中の重大な一言に気づいた。


「待て。今、何て言った?」


「一環中位へ進んだって……?」


「あり得ない!ラインは下等資質だぞ!」


「罰を逃れるための嘘だ!」


教室が騒がしくなった。


生徒たちの関心は、一環中位という言葉に移っていた。

二人の侍衛は、ローデン一族の者ではない。

その傷よりも、委員長の座を巡る競争のほうが気にかかった。


学堂長老は、冷たい目でラインを見据えた。


「一環中位へ進んだと言ったな?」


「はい」


「それはすぐに確かめられる。今ここで嘘を認めるなら、処分を軽くすることも考えよう」


長老は教卓を離れ、ゆっくりと歩み寄った。


「だが、侍衛を襲った責任まで嘘でごまかすつもりなら、処分はさらに重くなるぞ」


ラインは弁解せず、一歩前へ出た。


「お確かめください」


長老はラインの腹部に掌を当てた。

意識の一部を空界へ送り込む。


霊海は静かだった。

酒虫は、宿舎の酒壺に残してある。

六環の逆矢は自ら気配を隠しており、三環の長老に見つけられるものではなかった。


霊海を満たす精神力は、一滴残らず蒼緑色に変わっていた。

空界を囲んでいた薄い白い光膜も、流れる水膜になっている。


偽装で作り出せる変化ではなかった。


(本当に、一環中位へ進んでいる……)


長老は衝撃を受けた。

だが、動揺を顔には出さず、もう一度空界を調べた。

水膜の状態まで確かめてから、ようやく手を離す。


教室には、物音一つなかった。

全員が長老の言葉を待っていた。


「間違いない。ラインはすでに、一環中位へ進んでいる」


長老が低い声で告げた。

一瞬の間を置き、教室が沸き返った。


「そんなはずがあるか!あいつは下等資質だぞ!」


「じゃあ、上等資質のライルはどうなるんだよ!」


「メルとノアだって、中等資質なのに!」


資質が高いほど霊海は広く、精神力の回復も速い。

精霊使いなら、誰もが知っている常識だった。


ところが、真っ先に一環中位へ進んだのはラインだ。

最も期待されていた者たちを、下等資質の少年が追い越した。


ライルの顔から、血の気が引いていった。


昨夜まで、あと三、四日で中位へ進めると確信していた。

その報せを聞く兄の顔まで、思い描いていたのだ。


だが、先に打ち砕かれたのは、自分の自信だった。

身体をふらつかせ、椅子へ崩れ落ちる。

それでも、視線だけはラインから離れなかった。


ノア・ローデンも、拳を固く握り締めた。

昨日の実戦訓練では、ラインとの差が縮まっていると感じていた。

それなのに、今度は環階(ランク)でも差をつけられてしまった。


メル・ローデンは、歯を食いしばっていた。

祖父から精神力を注がれる危険まで冒した。

なのに、誰の援助も受けていないように見えるラインが、真っ先に中位へ進んでいる。


いったい、どうやったのか。


学堂長老も、その答えを知りたかった。

用意していた処分は、すでに頭から消えていた。


「ライン。なぜ、これほど早く一環中位へ進めた?」


「特別な理由はありません。毎日修練し、使える時間と霊石をすべて空界の強化に回しただけです」


長老の眉間に、皺が刻まれた。

ラインはその視線を受けたまま、平然と続けた。


「その積み重ねが実を結び、自然と中位へ進めました」


「嘘だ!俺だって毎日、何時間も修練してる!」


「数日前には、市場を歩き回ってたじゃないか!」


生徒たちは納得しなかった。

長老も、その説明を信じてはいない。


下等資質のラインが最初に中位へ進んだ以上、何か理由がある。

特殊な精霊か、外で手に入れた資源を隠しているのだろう。


だが、それは精霊使い個人の秘密だ。

一族に害を及ぼす証拠がない限り、切り札の公開を強いることはできない。


長老は、ラインの表情に隙を探した。


血に染まった十四歳の少年は、長老から目をそらさなかった。

皆の前で追及されても、動揺した様子はない。


「長老様」


沈黙を破ったのは、ラインだった。

その視線が、入口に倒れた侍衛へ落ちる。


「二人の侍衛は、今も血を流しています。このままでは、本当に死んでしまうでしょう」


長老も、侍衛へ目を落とした。

その顔が、さらに険しくなった。


無断欠席に、侍衛への暴行。

本来なら、厳しい処分を下すには十分だった。


ところが、今はどちらにも理由ができてしまった。


ラインは中位へ進むために授業を休んだ。

事情も確かめずに踏み込んだ侍衛は、その妨げになりかねなかった。


さらに襲いかかられ、身を守るために月印を使った。

そう説明されれば、反撃にも相応の理由がある。


何より、ラインは実際に成功していた。


今年の生徒で、誰より早く一環中位へ進んだ。

霊石三十個と、二体目の精霊を優先して選ぶ権利を得たのだ。


一族のために優れた精霊使いを育て、その成果に報いる。

それが、学堂を預かる者の役目だった。


もちろん、先祖を侮辱したという話は、まったく信じていない。

自分で選んだ侍衛が、ローデン一族の学堂でそんなことを口にするはずがなかった。


ラインが反撃を正当化するため、二人の非を誇張しているのは明らかだ。


だが、その嘘を暴けば、処分しなければならなくなる。

今年最初に中位へ進んだ生徒を、呼び戻すために遣わした侍衛との争いで罰する。

周囲には、優秀な生徒を抑えつけようとしたように映るだろう。

ほかの長老たちも、自分の公正さを疑い始める。


侍衛の不手際として収めれば、学堂の面目は保てる。

一族の者たちも、結果を受け入れるだろう。


ただし、二人があとで反論しても、自分が退けなければならない。

今ここで認めた説明を覆せば、自ら判断の誤りをさらすことになるからだ。


長老は、自分の負けを認めざるを得なかった。


生徒を抑えるはずの立場が、今は自分を縛っている。

成果に報い、表向きの公正さを守る義務を、ラインに利用された。

あの少年は、初めからそこを見抜いていたのだ。


「誰か!」


長老は怒りを押し殺し、廊下へ命じた。


「侍衛と治療精霊使いを入れろ。すぐに負傷者を治療しろ!もう一人も宿舎から運んでこい!」


それから教室を見渡した。

騒いでいた生徒たちも、口を閉じている。


「この件は私が直々に調べる。結論が出るまで、誰も口にするな」


長老はラインへ向き直った。

成果だけは、認めなければならない。


手を上げ、ラインの肩を二度叩く。


「よくやった。十四歳で一環中位、しかも今年の生徒では最初だ。一族の期待を裏切らなかったな」


その言葉は、噛み締めた歯の間から、一語ずつ絞り出されていた。


ラインはわずかに頭を下げた。

その声は、誠実そのものに聞こえた。


「すべて、学堂のご指導のおかげです」


学堂長老の目尻が、ぴくりと引きつった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://syuiro-buta.fanbox.cc/
― 新着の感想 ―
村社会的で強い柵と、その綺麗なすり抜けが毎回美しいですね。 ラインの独立性と解決能力が眩しく感じます。 相対する困難とその解決に全く違和感がないのは本当にどうやって思いつくんだろうと思ってしまいます。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。