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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 久保 墨/朱色の豚
外道の本性

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42.信用を買う兄、未来を賭ける弟

「そこの若い精霊使い。何があったのか、話してもらえるか?」


オスカーは人垣の中央まで進み、穏やかに尋ねた。


四環精霊使いから丁寧に声をかけられ、若い精霊使いは戸惑った。

緊張した面持ちで頭を下げ、周囲の同族たちを見回してから、購入の経緯を説明し始めた。


最後まで聞いたオスカーは、ルイスへ目を向けた。


「ルイス。今の話は本当か?」


ルイスは顔を背け、答えなかった。

オスカーはそれ以上問いたださず、しばらく黙っていた。


周囲のざわめきも、次第に収まっていく。

皆が商隊長の判断を待っていた。


ルイスは商品の外見と安さを利用し、悪臭を放つ太虫を黒イノシシの精霊だと思い込ませた。

買い手もまた、安さに目がくらみ、十分に確かめないまま霊石を払っている。


オスカーが弟をかばえば、それで終わっただろう。

この場で四環精霊使いを追及できる者は、ほとんどいない。


しかし、オスカーは若い精霊使いの前へ歩み寄り、深く頭を下げた。


「事情は分かった。ルイスの落ち度だ。ベルナー商会としても、責任を取らねばならない。

損害を与えてしまったことを、商会を代表して謝罪する」


「オスカー様……」


若い精霊使いは、慌てて身を引いた。


「あなたは四環精霊使いです。二環の私に、そこまでなさらなくても――」


「環階(ランク)と、事の是非は別だ」


オスカーは片手を上げ、言葉を遮った。


「過ちを犯したなら、認めるべきだ。

君が支払った霊石は二百五十個だったな。その倍の五百個を、商会から支払おう」


背後へ合図すると、二人の護衛が小さな荷車を押してきた。

荷台には、封印された木箱が載っていた。


箱を開け、双方で霊石五百個を確かめる。

若い精霊使いが鍵と引き渡しの証明書を受け取る頃には、見物人たちの険しい表情も和らいでいた。


そこでオスカーは、もう一度若者へ向き直った。


「ただ、今回のことは教訓にしてほしい。

本物の黒イノシシの精霊は、肉体を永久に強化できる。数も少なく、相場は霊石六百個を超える。

それが二百五十個で売られていたなら、まず理由を確かめることだ。安いというだけで、飛びついてはいけない」


「はい。肝に銘じます」


若い精霊使いは、真剣な面持ちで頭を下げた。


「公正に取り計らっていただき、ありがとうございます」


周囲からも、賛同の声が上がった。


「これでこそ、まともな商会だ」


「きちんと責任を取ってくれるなら、安心して買い物ができる」


「さすがオスカー様だ」


オスカーは笑みを浮かべ、人々へ軽く頭を下げた。


「ベルナー家が今日まで商売を続けてこられたのも、皆様からの信用があってこそだ。ルイスには、私から相応の処分を下す。

どうか今後とも、商隊をよろしく頼む」


再び称賛の声が上がった。


その中で、ルイスだけが怒りに顔を引きつらせていた。

彼はテントの奥へ引っ込み、裏口から一人で姿を消した。


オスカーは、その間も弟へ目を向けなかった。


人垣の後ろで、ラインは一部始終を眺めていた。


霊石五百個で揉め事を収め、ローデン一族からの信用を得る。

ルイスの不始末さえ、オスカーの公正さを引き立てる材料になっていた。


しかも、ルイスは同族たちに囲まれても平然としていたのに、兄が現れた途端に顔色を変えた。

あの兄弟の仲は、よほど悪いらしい。


(使えそうだな)


ラインは、酒飲のカイが残した記録の精霊を思い出した。


保存された映像が世に出れば、ローデン一族の四代目族長の名誉は大きく傷つく。

長年争ってきたロア一族やベル一族なら、喜んで買うだろう。

敵の名声を落とせるうえ、研究にも利用できる品だ。


だが、今のラインは一環にすぎない。

自ら両家の領地を訪ねれば、代金を受け取る前に殺されかねない。

無事に戻れても、取引が一族の上層部に知られれば、裏切り者として扱われる。


今はまだ、学堂と一族の保護を失うわけにはいかなかった。


その点、明日出発する商隊なら都合がよい。

ヴェルデン山のどの一族にも属さず、この先はロア一族とベル一族の領地を順に訪れる。


商人に売り渡せば、あとは商人同士の取引だ。

そして、兄に一泡吹かせたがっているルイスなら、多少の危険にも目をつぶるかもしれない。


「もう一杯だ!」


ルイスはキノコのテーブルを叩いた。

奉公人がすぐに強い酒を運んでくる。


木のカップをつかみ、一息にあおる。

空になったカップを置く手つきも、乱暴だった。


「次だ!早く持ってこい!」


夜の酒屋は客で埋まり、会話と笑い声に包まれていた。

ルイスの怒鳴り声を気に留める者も、ほとんどいない。


何杯飲んだか、もう覚えていなかった。

目は赤くなり、カップを握る手が小さく震えている。


今夜の一件は、すべてオスカーの罠に思えた。


弟を悪徳商人として人前にさらし、自分は気前よく賠償して信用を得る。

評判を失うのはルイスで、得をするのはいつも兄だった。


兄弟の末っ子であるルイスは、父親に最もよく似ていた。

幼い頃は、それだけかわいがられた。


だが、資質は末等だった。

豊富な資源を与えられても、成人した今なお一環から抜け出せない。


年老いた父は、商隊経営の成績に応じて財産を分けると決めた。

父に甘やかされただけの人間ではないと、証明したかった。


それでも、何をしても兄たちに届かない。

今夜もまた、オスカーの名声を高める踏み台にされた。


「オスカー……」


奥歯を噛み締め、その名を低く吐き出した。


「あいつに勝ちたいか?」


すぐそばで、静かな声がした。


ルイスは勢いよく振り向いた。

いつの間にか、ラインが同じテーブルについていた。


「お前……俺のカジノで翠玉蝶を引き当てた小僧か」


目を細め、ラインをにらむ。


「何の用だ。笑いに来たのか?」


「取引の話だ」


ラインはその視線を受け止めた。


「商隊の成績を上げて、相続する財産を増やしたいなら、聞いて損はない」


ルイスの目から、わずかに酔いが引いた。

姿勢を正し、探るようにラインを見る。


「相続のことを、なぜお前が知っている?」


「ベルナー家の当主は、商隊の成績に応じて財産を分ける。調べれば分かる話だろう」


前世では、長男オスカーと次男エミルの相続争いが何年も続いた。

対立は激しさを増し、やがて一族全体の衰退を招いている。


当時は広く知られた話だったが、それをルイスに説明する必要はない。


酒屋には、絶えず人の声が響いていた。

静かな部屋よりも、盗聴系の精霊に会話を拾われにくい。


ラインはルイスに顔を寄せるよう促し、記録の精霊と映像の内容を手短に伝えた。


聞き終えたルイスは、眉をひそめた。


「ヴェルデン山の三家に関わる品か。商人が現地の勢力争いに首を突っ込めば、ろくなことにならん」


その目が、次第に鋭くなる。


「……オスカーに言われて来たのか?俺を試すつもりか?」


ラインは答えず、席を立った。


「興味がないなら、オスカーに持っていく。あちらなら、最後まで聞くだろう」


そのまま出口へ向かう。


ルイスは黙って背中をにらんでいた。

だが、ラインがテントを出ようとしたところで、ついに立ち上がった。


「待て!」


外へ出たラインは、振り返った。


「疑うのは勝手だ。だが、今のままでオスカーに勝てるのか?

この話に乗るなら、まだ巻き返せる。乗らないなら、別の買い手を探すだけだ」


ルイスの顔が険しくなった。


「あいつを兄だと思ったことなど、一度もない」


しばらく黙ったあと、歯を食いしばる。


「……いいだろう。一度だけ賭けてやる。いくらだ?」


「霊石二千個。値下げはしない」


ルイスは、思わず苦笑した。


「二千個だと?ずいぶん吹っかけるな。映像の出どころを追及されれば、俺まで危険を背負うことになる」


「その分、儲けも大きい。ロア一族かベル一族に持ち込めば、四千個以上で売れる」


ルイスは黙って考え込んだ。

やがて、真剣な表情で口を開いた。


「……確かに、それくらいは出すだろうな。特にベル一族は、ここ数年で急速に力を伸ばしている。シオンという上等資質の天才も現れた」

「ローデン一族の優位は、もう揺らぎ始めている。そこへ四代目族長の名誉を傷つける映像だ。両家とも、欲しがらないはずがない」


ラインは、ルイスへの評価を少し改めた。


傲慢で、立場を利用した商売にも慣れている。

だが、商才がないわけではなかった。

利益が見えれば、商品の価値と買い手の事情をすぐに結びつけられる。


ルイスは大きく息を吐いた。


「いいだろう。二千個で買う。ただし、払う前に映像を確かめさせてもらう」


「もちろんだ」


ラインは学堂の方角へ歩き出した。


「ついてこい」


ルイスはその背中を見つめ、灯りのともる酒屋を一度だけ振り返った。

それから、ラインのあとを追った。

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「二千個だと? もはや普通の取引ではない。あの映像の件を追及されれば、俺も大きな危険を背負う」 ↑ 映像見たわけでもないし説明だけだから 「あの映像」だと違和感 その映像って表現に直すべきかな
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