37.一攫千霊石、六つの翠色
市場の奥へ進むほど、周囲は華やかになっていった。
道の両側に並ぶ小さな露店は次第に減り、代わって大型のテントが増えていた。
形はさまざまで、四角く広いものや、丸い屋根を持つものがあった。
入口には旗やオイルランプが下がり、それぞれの商会を示す紋章も見えた。
ラインは周囲を観察しながら歩き、やがて灰色のテントの前で足を止めた。
入口の横には黒い看板が立ち、目立つ文字が大きく書かれていた。
――一攫千霊石。
「ここだ」
ラインは顔を上げ、テントの外観をもう一度確かめた。
ここは化石カジノであり、臨時マーケットでも最大級のテントだった。
ラインは垂れ幕を持ち上げ、中へ入った。
テントの中は広く、三列の長いカウンターが周囲に沿って並んでいた。
その上には琥珀や繭、さまざまな形の化石が置かれていた。
小さなものは手のひらほど、大きなものは洗面器ほどもあった。
中には人の背丈に迫る化石もあり、専用の木製台に載せられていた。
外の喧騒とは対照的に、テントの中は静かだった。
十数人の精霊使いが、それぞれ別のカウンターに散らばっていた。
表面の模様を見つめる者や、手に取って重さを確かめる者もいた。
仲間と小声で相談している者もいた。
誰もが声を抑えていた。
表面に走る亀裂や僅かな色の違い、重さの差まで判断材料になる。
小さな見落とし一つが、数十個、時には数百個もの霊石を失う結果につながるのだ。
この世界の精霊は、それぞれ決まった餌を必要とする。
餌を失った精霊の大半は、少しずつ弱って死んでいく。
ただし、ごく一部の精霊は死の間際に自らを封じ、長い眠りに入ることがあった。
月印が眠りに入ると、すべての光を失う。
水晶に似た体も少しずつ石へ変わり、最後には灰色の外殻に覆われる。
酒虫の場合は体を丸め、白い繭を作る。
時間が経つほど、精霊を包む外殻は厚くなっていく。
その状態で数十年、時には数百年が過ぎる。
やがて、普通の石と見分けがつかない封印化石になるのだ。
商隊は遺跡や鉱山、荒野から封印化石らしき石を集め、カジノへ持ち込む。
購入した者は外殻を切り開くまで、中に何が眠っているのか分からない。
しかし、十個のうち八、九個は、何も入っていない普通の石だった。
精霊が封じられていても、中身がすでに干からびた死骸ということもある。
生きた精霊を目覚めさせられるのは、ごく僅かな幸運の持ち主だけだ。
希少な精霊が現れた時は、支払った額を遥かに上回る富が手に入る。
同時に、他人から狙われたり、命を奪われたりする危険も生まれる。
化石カジノが売っているのは、精霊ではない。
運命が変わるかもしれないという、一つの可能性だった。
ラインは、そのことをよく知っていた、
前世では商隊と共に各地を巡り、化石カジノで店員をしていた時期もあった。
その後、自らさらに大きなカジノを経営したことさえある。
大勢の客から霊石を稼いだこともあった。
判断を誤り、目の前の客に貴重な精霊を引き当てられたこともある。
経験によって減らせるのは、間違った選択肢だけだ。
最後の一つを引き当てるには、結局、運も必要になる。
ラインは入口から全体を見回し、左側のカウンターへ向かった。
カウンターの内側には、一定の間隔で店員が立っていた。
全員が青いベルトを締めた一環精霊使いだった。
大半は初位で、中には中位に達している者もいた。
最も近くにいた女性の精霊使いが、すぐに歩み寄ってきた。
「いらっしゃいませ。こちらは通常エリアで、化石は一つ霊石十個です」
彼女はテントの右側を指した。
「少しだけ試したい方には、入門エリアをお勧めします」
「あちらの化石は、一つ霊石五個です」
続いて、正面に並ぶ大型の化石へ目を向ける。
「珍品エリアには、事前に選別した化石を並べています」
「一つ霊石二十個ですが、精霊が出る保証はありません」
この女性は、長い間カジノで働いているようだった。
ラインを一目見ただけで、ローデン一族の学堂に通う生徒だと見抜いていた。
修練を始めたばかりの生徒は、霊石の大半を餌の購入や環階の向上に使う。
賭け事へ回せるほど余裕のある者は少ない、
彼女は、ラインも見物に来ただけだと考えていた。
「まずは見せてもらう」
ラインが軽くうなずき、カウンターの化石へ視線を落とす。
女性はそれ以上声を掛けず、少し離れた場所で待っていた。
前世の記憶によると、商隊が到着した最初の夜に、ある出来事が起きた。
一人の精霊使いが、このカジノで霊石十個を支払った。
そして、表面に翠色の光を帯びた化石を一つ購入したのだ。
その男が石の外殻を切り開くと、中から翠玉蝶が現れた。
翠玉蝶はすぐに別の精霊使いが高値で買い取った。
化石を選んだ男も、生活を一変させるほどの富を手に入れた。
だが、五百年という歳月はあまりにも長い。
ラインが覚えているのは、大まかな出来事だけだった。
化石の正確な大きさや形、置かれていた場所までは思い出せない。
それでも、このテントの場所は覚えていた。
当時は幸運な男の噂が広まり、大勢の者がこのカジノについて話していたからだ。
ラインはカウンターに沿って歩き、やがて眉を寄せた。
表面に翠色を帯びた化石が、この一帯だけで二十個以上もあった。
小さな翠色の斑点が散るものもあった。
表面の大半が、翠色に染まったものまで並んでいた。
五百年前の曖昧な記憶だけでは、一つに決められなかった。
ここに並ぶ化石は、どれも一つ霊石十個だ。
ラインが現在持っていた霊石は九十八個。
後のことを一切考えずに、九個まで購入できる。
だが、そんな買い方をするつもりはなかった。
(月印と酒虫には餌がいる。修練でも、霊石を使って精神力を補う必要がある)
(次に霊石を得るまでの消耗分は、必ず残しておく)
ラインはすぐに計算を終えた。
修練と精霊の餌に影響を出さずに買えるのは、七個までだった。
七回。
それが、今回使える機会の上限だ。
未来の出来事を一つ知っているからといって、必ず成功するとは限らない。
賭けに溺れた者は負けるたびに賭け金を増やし、最後の霊石まで失っていく。
ラインは失敗を受け入れられる。
だが、一度の賭けで修練の土台を壊すつもりはなかった。
ラインはカウンターの端から化石を調べ始めた。
最初の化石には翠色の点が散っていたが、全体が薄すぎた。
翠玉蝶が翼を畳んでも、これほど狭い空間には収まらない。
ラインはその化石を候補から外した。
二つ目は記憶に近い色をしていたが、大きさは拳ほどしかない。
翠玉蝶の体を考えると、外殻はもう一回り大きいはずだ。
これも候補から外した。
三つ目は十分な大きさがあり、表面の翠色もはっきりしていた。
しかし、外殻には窪みが多く、模様も乱れていた。
ラインは前世で、翠玉蝶の封印化石を見たことがあった。
翠玉蝶は眠りに入る時、翼で自分の体を包み込む。
そのため、石化した外殻は滑らかになり、目立つ窪みは残りにくい。
三つ目も候補から消えた。
ラインはそのまま次の化石へ進んだ。
まず大きさと形で候補を絞り、次に表面の模様や色を確かめる。
判断に迷う化石は持ち上げて重さを測り、指先で外殻の感触も調べた。
もちろん、こうした方法も正しく選べる確率を高めるにすぎない。
封印化石の外殻には隙間がなく、ほとんどの感知手段を遮断する。
精神力で無理に内部を探ると、中のバランスが崩れる恐れがあった。
その衝撃で、眠っている精霊が死ぬこともある。
ラインも前世で、化石の中を安全に調べる秘術の噂を聞いたことがあった。
しかし、調査した結果、その大半はカジノが広めた嘘だった。
客を呼び込み、より多くの賭け金を使わせることが目的だ。
本物の秘術が存在したとしても、知っているのはごく一部の者だけだろう。
そんな方法が実在するなら、商会が先にすべての化石を調べ尽くしているはずだ。
貴重な精霊を、わざわざ客のために残すはずがない。
ラインが先へ進むにつれ、翠色の化石は次々と候補から消えていった。
二十個以上あった候補は、すぐに十二個まで減った。
そこから外殻の滑らかさや色の広がり、重さの違いを比べ、さらに六個を外した。
最後に残ったのは、六個だった。
大きさはそれぞれ異なるが、どれも翠玉蝶の体を収められる大きさだった。
表面は滑らかで、翠色も強すぎない。
石の奥から、その色がゆっくり滲み出しているように見えた。
どの角度から見ても、記憶に残る特徴と一致していた。
普通の十四歳の生徒なら、数え切れない化石に惑わされていただろう。
最後には適当な一つを選び、結果を運に任せるしかない。
だが、ラインには五百年の経験がある。
唯一の正解を直接見つけることはできない。
それでも、明らかに間違った候補は一つずつ取り除ける。
ラインは、残った六個を順番に見つめた。
すべて買っても、必要な霊石は六十個。
まだ、ラインが許容できる範囲に収まっていた。
(少なくとも、八割はある)
ラインは六個を順に見比べ、指先で軽くカウンターを叩いた。
(翠玉蝶は、この六つのどれかに眠っている)




