38.ラッキーカラーの賭け、青緑の繭
「化石をいくつか買いたい」
目当てを絞り込んだラインは、先ほどの女性の精霊使いを呼び止めた。
「どちらをお選びですか?」
ラインは手を上げ、カウンターの上を指した。
「これだ」
女性は化石を取り出し、隣に敷かれた柔らかな布の上へ置いた。
「それから、これも」
二つ目の化石も、すぐに取り出された。
女性は少し意外そうな顔をした。
経験豊かな客は、一度に一つか二つしか選ばないことが多い。
表面の模様を何度も見比べ、重さや手触りまで確かめてから購入を決める。
ところが、ラインが選んだのは、どれも表面に翠色を帯びた化石だった。
採取された場所を尋ねることもなく、値引きしようともしない。
まるで好みだけで品を選ぶ初心者だった。
それでも、ラインはそこで止まらなかった。
「これと、あれも頼む」
女性の顔に、さらに強い驚きが浮かんだ。
通常エリアの化石を四つ買うには、霊石四十個が必要になる。
修練を始めたばかりの生徒が、気軽に使える金額ではなかった。
ラインは続いて、カウンターの離れた場所を指した。
「最後に、あちらの二つも頼む」
六つの翠色の化石が、すべてラインの前に並べられた。
女性は改めて、目の前の少年を観察した。
ラインの服装は質素で、身分を示す装飾品も身につけていない。
それでも、霊石六十個を迷わず出せる者は限られている。
裕福な家系の出身か。
それとも、派閥から重点的に育てられている後継者候補かもしれない。
そう考えた女性の態度は、それまで以上に丁寧になった。
ラインは霊石六十個を取り出し、その場で支払いを済ませた。
霊石が会計用の箱へ落ちる澄んだ音に、周囲の客たちが反応した。
「誰かが化石を買ったぞ」
「あれは、学堂の生徒か?」
「一度に六つとは、ずいぶん思い切ったな」
近くにいた精霊使いたちが、次々と振り返った。
彼らは長い間カウンターを眺めながら、なかなか賭ける決心がつかずにいた。
先に試す者が現れた以上、結果を見物しない理由はない。
もちろん、ラインの選択を疑う者もいた。
「六つとも翠色だ。まさか、色だけで選んだのか?」
「たぶん初めて来たんだろう。慣れた客は、あんな買い方をしない」
「霊石六十個は、普通の一環精霊を長く養える額だ」
「若い奴は、ギャンブルの怖さを知らないな」
声は抑えられていたが、ラインの耳にはすべて届いていた。
女性の精霊使いが、ラインの隣まで歩み寄った。
「こちらで開封なさいますか?」
「ご希望でしたら、当店が無料で承ります」
ラインが周囲を見回すと、多くの者が返事を待っていた。
口元にわずかな笑みを浮かべ、それから首を横に振った。
「翠色は私のラッキーカラーなんだ」
「初めて買った化石だから、自分で開けた方が記念になる」
この言葉は、周りにいる者たちへ聞かせるためのものだった。
翠玉蝶が出ても出なくても、彼らはラインの選択を好みや運の結果だと考える。
特殊な判別方法を持っていると疑われることはない。
予想どおり、すぐに周囲から小さな笑い声が上がった。
「本当にラッキーカラーだけで選んだのか」
「幸先をよくするためだけに霊石六十個か。金には困っていないらしい」
「また家の霊石で刺激を求める若者が来たな」
結果を期待する空気は、目に見えて薄れていった。
数人の精霊使いはすでに視線を戻し、カウンターの化石を調べ始めていた。
ラインは周囲の言葉を気に留めなかった。
霊海の精神力を動かし、右手の月印へ注ぎ込んだ。
淡い水色の光が浮かび、薄い水の膜のように指先を覆った。
ラインは最初の翠色の化石を持ち上げ、掌に載せた。
そのまま、五本の指をゆっくり閉じていった。
水色の光が、化石の表面を流れ始めた。
硬い外殻が細かな石粉へ変わり、指の隙間から絶えずこぼれ落ちた。
その光景を見た者たちは、再び足を止めた。
「なかなかの制御だ」
「学堂へ入って、まだそれほど経っていないだろう?」
「あれほど細かく月印を操る者が、錬化したばかりの初心者とは思えないな」
月印は通常、月刃を放つために使われる。
力を指先だけに集め、化石を砕かずに表面だけを削るのは難しい。
それには、非常に正確な精神力の制御が必要だった。
普通の精霊使いでも、自在に扱えるまで数年の練習を要する。
ラインの技術は、すでに学堂の生徒という水準を大きく超えていた。
ローデン領の精霊使いが月印を見て、少年の所属に気づいた。
「あれはローデン一族の月印だ」
「この少年は、ローデン一族の学堂生だろう」
「技術は確かに悪くない」
隣にいた年配の精霊使いは、そう言いながら首を横に振った。
「だが、あの開け方は危険だ」
「眠っている精霊は脆い。わずかに力を誤るだけで、殺してしまうぞ」
周囲が話している間にも、ラインの化石は拳ほどまで小さくなった。
ラインは手を止めなかった。
水色の光はさらに細く集中し、石粉が指の間から落ち続けた。
拳ほどの化石はビー玉ほどまで縮み、最後には完全に消えた。
カーペットの上には、灰緑色の石粉が小さく積もっていた。
中には、何もなかった。
「やっぱり外れか」
「一つ目から失敗したな」
何人かの精霊使いが、呆れたように首を振った。
女性の精霊使いは、すぐにラインへ声を掛けた。
「まだ五つございます」
「化石から精霊が出ること自体、めったにありません。一つ目が外れるのは普通です」
ラインは表情を変えず、二つ目の化石を手に取った。
水色の光が、再び外殻を包み込んだ。
間もなく、二つ目も石粉の山へ変わった。
やはり、中には何も入っていなかった。
三つ目も同じ結果だった。
三回続けて外れたことで、見物人の大半が興味を失った。
「やはりな。色だけで選んで、当たるはずがない」
「霊石六十個は、すべて無駄になりそうだ」
「生きた精霊が出たら、俺が床の石粉を全部食ってやるよ」
若い精霊使いの冗談に、近くの者たちが声を抑えて笑った。
女性の精霊使いは、変わらず接客用の笑みを保っていた。
「どうかお気を落とさずに。まだ三つ残っております」
「結果は、最後まで分かりません」
ラインは答えず、四つ目の化石を手に取った。
再び石粉がこぼれ落ちた。
化石が手のひらほどまで小さくなった時、ラインの動きが止まった。
翠色の外殻が消え、その内側から水色の石が現れた。
「色が変わったぞ!」
「中に、もう一層の石がある」
「まさか、本当に精霊が眠っているのか?」
立ち去ろうとしていた精霊使いたちが、再びラインの周りへ集まってきた。
女性の精霊使いも笑みを消し、彼の掌を注意深く観察した。
「速度を落としてください」
女性はすぐに注意を促した。
「本当に精霊が入っていた場合、月印の力で傷つける恐れがあります」
ラインは精神力をわずかに弱めた。
水色の光が柔らかくなり、同じ色の石粉が途切れながら落ちていった。
落ちる速さは、先ほどまでより明らかに遅かった。
全員の視線が、ラインの掌へ集まっていた。
水色の石は、少しずつ小さくなっていった。
拳ほどだった石は、やがてクルミほどまで縮んだ。
最後には、薄い一層だけが残った。
結局、内側の石がすべて石粉になっても、精霊は現れなかった。
テントの中に、失望のため息が広がった。
「ただの二重化石か」
「期待して損した」
「簡単に精霊が出るものか。毎日出ていたら、カジノはとっくに潰れている」
女性の精霊使いは、すぐに笑顔を取り戻した。
「初めての購入で二重化石に当たるのも、珍しいことです」
「少なくとも、お客様の運は悪くありません」
その慰めは、残る二つも外れることを先に想定しているように聞こえた。
ラインは薄く笑っただけで、何も答えなかった。
続いて、五つ目の翠色の化石を手に取った。
月印の光が、再び右手を覆った。
今度の外殻は、それまでの四つより薄かった。
さほど時間もかからず、翠色の石はすべて削り落とされた。
石粉の下から、青緑色が覗いた。
それは、石ではなかった。
最後の欠片が落ちると、滑らかな青緑色の繭がラインの掌に現れた。
表面には、細かな模様が隙間なく刻まれていた。
テントの中から、すべての音が消えた。




