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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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31/56

31.規則を盾に、殺意を刃に

ラインはアノを完全に無視した。

霊石に蓄えられた天然の精神力を吸収しながら、空界の変化だけに意識を向ける。


外から精神力が流れ込むにつれ、一度下がった霊海の水位はゆっくりと戻り始めた。

決して速くはないが、ラインは焦らない。


修練は長い積み重ねによって進むものだ。

苛立ったところで、必要な時間まで縮まるわけではなかった。


むしろ先に我慢できなくなったのは、部屋の外で見張っている中年の従者だった。


およそ三十分後、霊海は再び四十四パーセントまで満ちた。ラインの下等資質で蓄えられる精神力の限界だ。


しかし、今回の瞑想はまだ終わっていない。


今の霊海を満たしている明るい青緑色の力は、一環初位の青銅精神力だった。

先ほどラインが空界の壁を強化するために使ったのは、

酒虫によって精錬された一環中位の精神力である。


酒虫(ヴィノーム)


ラインが意識を向けると、霊海に浮かんでいた酒虫が空界の中央へ昇った。

白く太った身体を縮め、丸い玉のような姿になる。


ラインは霊海の一割分にあたる初位の精神力を、酒虫の体内へ流し込んだ。

すべてを吸収した酒虫の身体から、芳醇な酒の香りを帯びた白い霧が広がっていく。


さらに一割分の精神力を、その霧の中へ送り込む。


酒の霧が完全に消えると、精神力は元の半分にまで圧縮され、

色も明るい青緑色から、より深い青緑色へ変わっていた。


一環中位の精神力である。


(普通の生徒が空界を強化するときに使えるのは、一環初位の精神力だけ。)

(対して、私が使っているのは中位の精神力だ。効率は少なくとも二倍になる)


(月印を動かした場合も同じだ。中位の精神力で放つ月刃は、初位のものより確実に強い)


ラインは同じ作業を何度も繰り返した。

霊石を吸収して霊海を満たし、酒虫の力で初位の精神力を中位へ精錬する。


霊海を満たすすべての精神力が一環中位へ変わったところで、ようやく瞑想を終えた。


目を開くと、すでに夜明けが近づいていた。


真っ黒だった空は深い青へ変わり、月は姿を消している。

残っているのは、光を失いかけた数個の星だけだった。


扉は一晩中開け放たれていた。

湿気を吸った扉の下には、濃い染みが広がっている。


学堂の宿舎は地面の湿気をまともに受ける造りで、普通の民家ほど住み心地はよくない。

特に夜は冷え込みが厳しく、ラインが意識を身体へ戻したときには、

寒さがすっかり染み込んでいた。


長いあいだ同じ姿勢を保っていたため、両脚にも痺れが残っている。


ラインが閉じていた右手を開くと、灰白色の粉がさらさらと床へ落ちた。

天然の精神力をすべて吸収された霊石の残りかすだ。


(一晩で霊石三個か)


ラインは頭の中で消費量を計算した。

下等資質で修練速度を保つには、霊石を使って何度も精神力を補わなければならない。

そのうえ、酒虫で初位の精神力を中位へ変えるほど、消費はさらに大きくなる。


(昨日、また大量の霊石を手に入れたとはいえ、毎晩三個も使っていれば長くはもたない。)

(だが、常人を大きく上回る速さで修練する以上、それだけの代価を払うのは当然だ)


ラインが門の外へ目を向けると、アノは壁際にうずくまり、身体を丸めて眠っていた。

リリアはとっくに立ち去り、この従者だけを見張りとして残したらしい。


ラインは薄く笑うと、ベッドから下りて身体を動かした

。痺れが消え、身体が温まったところで、そのまま宿舎の外へ踏み出す。


「ようやく出てきたか、小僧!」


足音を聞いたアノは、すぐに立ち上がった。


「おとなしく俺と一緒にリリア様のところへ来い。直接頭を下げ、謝るんだ。」

「態度がよければ、少しくらいは手加減していただけるかもしれんぞ」


アノの身体は太く、体格はラインの二倍近くあった。

肩や腕の筋肉が動くたび、服の上からでもはっきりと盛り上がる。


吊り上がった眉の下では、細い目が凶悪な光を放っていた。

獲物を見つけたハイエナのような目だった。


ラインは無表情のまま、まっすぐアノへ近づいていく。


「最初から出てくればよかったものを。」

「お前は部屋の中で気持ちよく眠っていたんだろうが、俺が外で何時間待たされたと思っている!」


アノも冷笑しながら歩み寄った。一晩中待たされた怒りを、このまま収めるつもりはないらしい。


二人の距離が一気に縮まった、その瞬間。


ラインが鋭く踏み込み、アノへ飛びかかった。


「死にたいらしいな!」


溜め込んでいたアノの怒りが爆発した。


ハンマーのような拳を振り上げ、ラインの頭へ叩きつける。

重い拳が空気を押し退け、低い音を立てた。


ラインの目に動揺はない。拳が届く直前に身をひねり、アノの横へ回り込む。


揃えた二本の指で狙ったのは、肋骨の下にある柔らかな部分だった。


だが、アノもすぐに腕を引き戻した。

ラインの指先は狙った場所に届かず、硬く鍛えられた左腕にぶつかる。


鉄板を突いたような痛みと痺れが、ラインの指から腕へ伝わった。


(このアノは、普通の人間としては限界に近いところまで鍛えられている。)

(今の私に戦闘で使える精霊は月印だけだ)


(身体を強化する精霊もない以上、素手でまともに戦えば分が悪い)


ラインはすぐに追撃を諦めた。

連続して後ろへ跳び、アノとの距離を取り直す。


ローデン一族では、家族から正式に認められ、ローデンの姓を持つ者だけが覚醒の儀を受けられる。

それ以外の者は修練の資質を持っていたとしても、精霊使いになる機会を与えられない。


彼らにできるのは、自分の身体と格闘技術を磨くことだけだった。


アノも精霊使いではないが、長年にわたって近接戦の訓練を受けている。

基礎は十分に身についており、体力も最も充実する年齢だった。


一方、ラインの身体はまだ十四歳の少年にすぎない。

月刃を放てる月印を除けば、力も速さも、攻撃に耐える身体の強さもアノには及ばなかった。


アノのように鍛えられた戦闘員なら、実戦経験のない一環初位の精霊使いを殺すこともできる。

一環中位が相手でも、隙さえ見つければ十分に脅威となる存在だった。


(この小僧……)


ラインが距離を取るのを見ても、アノはすぐに追わなかった。

代わりに、額へ薄い冷や汗が浮かぶ。


ラインが狙ったのは、肋骨の下にある急所だ。

まともに受ければ、一時的に動けなくなる、

さらに強く打ち込まれれば、内臓まで傷つきかねない。


アノは湿気と寒さの中で、一晩近く待ち続けていた。

身体は冷え切り、普段より反応も鈍っている。


先ほども、長年の訓練で身についた動きが、考えるより先に出ただけだった。

少しでも反応が遅れていれば、急所を突かれていた。


(油断はできん。こいつは速いだけでなく、狙いも容赦がない。)

(一度でも隙を見せれば、すぐ急所を攻撃してくる)


(ノア様が二度も倒されたのも無理はない……)


アノは額の汗を拭った。

先ほどまでの軽蔑は消え、ラインを見る目も真剣なものへ変わっている。


だが、警戒よりも欲が勝った。


(こいつを捕らえれば、リリア様から報酬をいただける。)


(一環初位の精神力で放つ月刃なら、威力はせいぜい短剣の一撃に近い。)

(首と胸さえ守れば、一発受けても傷が残る程度だ)


アノは鉄のペンチのような両手を広げ、大股でラインへ迫った。

体格と力の差を利用し、そのまま押さえ込むつもりだった。


ラインは退かなかった。自分から正面へ踏み込み、再びアノとの距離を詰める。


二人は一気に接近戦へ入った。拳と蹴りが何度も交錯し、攻守が目まぐるしく入れ替わる

。宿舎の狭い中庭には、肉体同士がぶつかる鈍い音が続けざまに響いた。


生徒たちから霊石を奪ったとき、ラインは手のひらだけで攻撃し、力も抑えていた。

相手を戦えなくするだけでよく、傷つける必要まではなかったからだ。


だが、アノを相手に手加減する理由はない。


指先は目と喉を狙い、掌底は顎へ打ち込まれる。

手刀は首の後ろへ振り下ろされ、膝は股間を、肘は肋骨と脇腹を狙っていた。


すべての攻撃が人体の弱い部分へ向けられている。

ラインの動きには、わずかな迷いもなかった。


アノは戦うほどに恐怖を覚え、額から流れる汗も増えていった。

どれほど身体を鍛えても、目や喉、内臓まで鎧のように硬くすることはできない。


ラインの攻撃を一度でもまともに受ければ、それだけで戦えなくなる可能性があった。


それに対し、アノはラインを殺すわけにはいかない。

ラインはローデンの姓を持つ精霊使いだ。

自分の手で殺せば、一族全体が決して許さないだろう。


アノは処刑され、リリアもコア派を守るため、迷わず彼を切り捨てるはずだった。


だからアノにできるのは、ラインを生け捕りにすることだけだ。

途中で多少痛めつけることはできても、命を奪うような攻撃は使えない。


片方は急所を狙えず、もう片方は一撃ごとに命を奪いにくる。


その違いによって、体格も力も劣るはずのラインが少しずつ主導権を握り、アノを防戦一方へ追い込んでいった。


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