24.重なる月刃、霊石狩り
「ラインか、それともライルか?」
「ライルだ。ラインがあんなに緊張した顔をするはずがない」
訓練場へ出たのがどちらか分かると、生徒たちは一斉に視線を向けた。
ライルは、ここ三年で村にただ一人現れた上等資質の持ち主だ。
誰もが、三発すべてを命中させたノアとメルを上回れるのか、確かめようとしていた。
だが、その視線はライルをさらに緊張させた。
草人形の前に立った彼の指先は、わずかに震えている。
一発目の月刃が放たれた。
胸を狙ったはずだったが、緊張のせいで軌道がずれる。
月刃は草人形の首元をかすめ、浅い傷を残した。
周囲から小さなどよめきが起こった。
生徒たちは、ライルが当てやすい胸をあえて狙わず、より難しい首を狙ったのだと思い込んだ。
そのため、次の攻撃へさらに期待を寄せる。
ノアとメルの顔からも余裕が消えた。
もしライルが続けて首へ命中させれば、自分たちが胸へ三発当てた程度の結果など、ありふれたものになってしまう。
それが失敗だったと見抜いたのは、学堂長老とラインだけだった。
(危なかった……)
ライルはそっと息をつき、何度か深呼吸して無理やり心を落ち着かせた。
残る二発の月刃は、どちらも正確に草人形の胸へ命中した。
学堂長老は小さくうなずき、ノアとメルも同時に息をついた。
ライルは二人を上回る技術を見せられず、三人の結果は依然として互角だった。
他の生徒たちは、むしろ少しがっかりしたようだった。
上等資質なら、精霊を使うときにも圧倒的な差を見せると思っていたのだろう。
しかし、少なくとも今の段階で、資質が左右するのは精神力の総量と回復速度だ。
技術まで自然に身につくわけではなかった。
その後の数組には目立った者もおらず、三発すべてを命中させる者は現れなかった。
生徒たちが三人のうち誰が一位になるのか話し始めたころ、最後の組が訓練場へ進み出た。
ラインも、その中にいた。
「末等の『冷酷な天才』が、ようやく出てきたぞ」
「前回は、たまたま意志の弱い月印を選んだから一位になれただけだ。」
「今回は、そううまくはいかないだろ」
メルは腕を組み、ラインが失敗する瞬間を待ち構えた。
ノアは一度だけ顔を上げると、すぐに興味を失った。
ライルだけは、兄の姿をじっと見つめていた。
本源精霊の錬化試験では、上等資質でありながら二位に終わった。
その後、ラインの勝利には運も関係していたと知ったが、それでも納得できなかった。
だからこそ、この試験のために以前とは比べ物にならないほど練習してきたのだ。
一度でもラインに勝てれば、長いあいだ自分を覆ってきた影に、ひびを入れられる。
そのあとも二度、三度と勝ち続ける。
最後には、上等資質を持つ自分のほうが優れていると、全員に認めさせるつもりだった。
ラインは周囲の視線を気にすることなく、決められた位置に立った。
手のひらの月印へ精神力を流し込み、右手を振って一発目の月刃を放つ。
水色の月刃は草人形の頭上を通り過ぎ、後ろにある木製の防護壁まで越えていった。
十数メートル先でようやく光を失い、空気の中へ消えていく。
短い静けさのあと、周囲から笑い声が上がった。
「いくらなんでも外しすぎだろ」
「さすがは天才だな。草人形がどこに立っているかさえ見えないらしい」
幼いころから頭のよさを見せていたラインは、以前から少なからぬ嫉妬を買っていた。
そのうえ、前回は『運だけ』で錬化試験の一位になったと思われている。
彼が失敗するところを待ち望んでいた者たちにとって、今のひどい一発は格好の笑いものだった。
学堂長老も小さく首を振った。
ノア、メル、ライルは三発すべてを命中させていた。
このまま誰も三人を上回らなければ、彼は一位をライルに与えるつもりだった。
資質と一族内の力関係を考えれば、それが最も反発を招きにくい選択だったからだ。
ラインに残された機会は、あと二発。
もはや結果を変えるのは不可能に思えた。
しかし、ラインだけは分かっていた。
最初の一発は、初めからわざと外したものだった。
ノアたちがすでに三発すべてを当てている以上、
自分も同じ結果を出しただけでは、一位になれるとは限らない。
誰にも文句を言わせず勝つには、残る二発で、ただ命中させる以上の結果を作る必要があった。
(勝った……)
ライルは両の拳を固く握り、興奮で体を震わせていた。
兄が自分の人生に落としてきた影が、ようやく薄れ始めたように思えた。
そのとき、ラインが再び右手を上げた。
右手を刃のように立て、前へ振り下ろす。
水色の月刃が手のひらから飛び出した。
その直後、月印が再び光った。
ラインは手首を返し、三発目の月刃を斜めに振り抜く。
二つの動きには、ほとんど間がなかった。
二発の月刃は空中で半メートルも離れず、前後に並んで草人形の首へ向かった。
一発目が首へ食い込み、二発目もほぼ同じ軌道を通って斬りつけた。
後から来た月刃は、最初の一発が作った傷をさらに深く切り裂いていく。
草人形には、傷をゆっくりと塞ぐ力があった。
だが今回は、その回復が二発の月刃による破壊に追いつかなかった。
草人形の頭がゆっくりと傾き、そのまま首から落ちた。
地面で一度跳ねたあと、数メートル転がって止まる。
訓練場を満たしていた笑い声が、ぴたりと消えた。
「そんな……」
ライルは大きく目を見開いた。
つい先ほどまで胸に満ちていた喜びは一瞬で消え、握り締めていた拳からも力が抜けていく。
地面に転がった頭を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。
他の生徒たちも言葉を失っていた。
二発続けて、細い首のほぼ同じ場所へ命中させた。
果たして、運だけでできることなのか。
それとも、ラインがこれまで隠していた本当の実力なのか。
学堂長老も眉を寄せ、すぐには判断できなかった。
しかし、草人形の頭を斬り落とした結果が、
ただ三発を命中させるよりはるかに優れていることだけは確かだ。
この試験の一位に、もはや異論の余地はなかった。
ラインは訓練場の中央に立ったまま、急に変わった周囲の視線など気づいていないようだった。
降り注ぐ陽光を一度見上げても、その表情は変わらない。
(春の日差しは、本当にまぶしいな)
...
その日の夕方、学堂長老は七日ごとに支給される霊石を配り始めた。
「ライン」
呼ばれたラインは前へ出て、長老から二つの袋を受け取った。
片方には通常支給の霊石三個、もう片方には月刃試験で一位になった報酬の十個が入っていた。
「これからも励め」
学堂長老は、ラインの顔をじっと見つめた。
二度続けて試験で一位になった以上、もはや一度きりの偶然では片づけられない。
ラインはうなずいて袋を受け取り、自分の席へ戻った。
ノアとメルは時折彼へ視線を向け、あの二発が運だったのか、実力だったのかを今も考えているようだった。
二人だけではない。
他の生徒たちも、ひそかにラインの様子をうかがっていた。
一度目なら偶然で済ませられても、上等資質のライルを二度続けて上回ったとなれば、疑いを抱かないほうが難しい。
霊石を配り終えると、学堂長老は全員に向かって告げた。
「お前たちは、すでに本源精霊を扱えるようになった。これからは空界を養い、自らの環階を高める方法を学ぶ」
「一環の精霊使いが持つのは青銅の精神力、二環は赤鉄、三環は白銀だ。精神力は一段階上がるごとに、質が大きく変わる」
「同じ量でも、赤鉄の精神力は青銅の十倍、白銀は赤鉄の十倍の力を持つ」
長老は生徒たちの顔を見回し、さらに続けた。
「精霊は、あくまで道具だ。精霊使いの根本は環階にある」
「これから三か月以内に、最初に一環中階へ進んだ者には霊石三十個を与える。二体目の精霊を優先して選ぶ権利も与えよう」
そこで一度、言葉を切った。
「三か月後には、修練の成績をもとにクラスリーダーを一人、サブリーダーを二人選ぶ。クラスリーダーには七日ごとに霊石十個、サブリーダーには五個を支給する」
「以上だ。今日はここまでとする」
学堂の中は、たちまち騒がしくなった。
普通の生徒たちが気にしているのは霊石だった。
一方、ノアやメルのように金に困っていない者たちは、クラスリーダーという役職がもたらす地位と権限を重く見ていた。
ライルも再び闘志を燃やした。
誰よりも早く一環中階へ進み、クラスリーダーになる。
そうすれば、兄でさえ自分の指示に従わなければならない。
霊石三十個で、どれだけの修練用の品を買えるか計算する者もいた。
クラスリーダーに、他の生徒へどこまで命令する権限があるのか確かめようとする者もいる。
まだ正式な修練法さえ教わっていない。
それでも彼らはすでに、自分がその役職に就いた姿を思い描いていた。
誰が最も有望かという話で盛り上がる中、ラインはすでに席を立っていた。
そのまま一足先に学堂を出る。
クラスリーダーが一人、サブリーダーが二人。
それだけの役職を巡り、少年たちは顔を赤くして争おうとしていた。
だが、ラインにとっては見慣れた光景だった。
どんな組織も、まず役職に上下を作り、昇格のルールを決める。
そこへ名誉と報酬を結びつければ、所属する者たちは自分から上を目指して競い始める。
肩書きや名誉は、目の前にぶら下げられた餌にすぎない。
本当に人を動かすのは、その先にある利益だ。
人は利益だけでなく、他人より上に立つ感覚も欲しがる。
組織はその二つを結びつけ、下にいる者たちを昇格のために競わせる。
やがて彼らは、同じ立場の仲間さえ敵として見るようになる。
その過程で彼らが働き、生み出した価値の大半は、さらに上の立場にいる者の手へ渡っていく。
前世で血魔教を築いたときも、ラインは教徒たちを一般兵、隊長、指揮官に分けていた。
それぞれに異なる権限と物資を与え、より上の階級を目指させたのだ。
数万の教徒たちは昇格するため、進んで戦い、命さえ差し出した。
彼らが生み出した利益は、最終的にラインを含む上層部のもとへ集まった。
だからラインは、名誉を信じ込むことはない。
だが、その役立ちまで否定するつもりもなかった。
名誉そのものに実体はなくても、それを信じる者を動かす力はある。
その仕組みを見抜いたからといって、組織から離れる必要はない。
ただ、報酬に釣られ、使い潰される側にならなければいい。
上下関係のある組織の本質は、結局のところ資源の分配にある。
上へ行くほど、手にできる資源は増える。
そして上に立つ者は、その一部を報酬として返すだけで、さらに多くの人間を働かせられる。
精霊使いにとって、最も重要な資源は霊石だった。
ラインは学堂の門の外に立ち、受け取った二つの袋を軽く揺らした。
霊石十三個では到底足りない。
修練を早めるためには、さらに多くの霊石が必要だった。
やがて、最初の生徒たちが門から出てきた。
「ラインだ。あんなところで何をしてるんだ?」
「誰かを待ってるんだろ。放っておけよ」
数人の少年がそのまま横を通り過ぎようとした。
その瞬間、ラインは横へ一歩動き、出口を塞いだ。
「霊石を出せ」
目の前で立ち止まった少年たちへ、ラインは平然と手を差し出した。
「一人一個だ。払った者だけ、ここを通す」




