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目指すは永生 ~二度目の人生を歩む外道精霊使い~  作者: 朱色の豚
外道の本性

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20.逆矢の威を借り、首位を奪う

大きな喜びに包まれても、ラインは我を忘れなかった。

すぐに気持ちを落ち着かせ、逆矢が今の自分に何をもたらすのか考え始める。


(逆矢の力は時間を遡ること。だが、今は弱り切っている)

(無理に使えば、そのまま消滅しかねない)


(とはいえ、どれほど弱っていても、六環精霊であることに変わりはない)

(力そのものを使えなくても、この気配なら利用できる)

(それだけなら、逆矢自身にもほとんど負担はないはずだ)


そこまで考えると、ラインの口元に笑みが浮かんだ。

「ふふ……」


意識を空界から戻し、ゆっくりと目を開ける。

目の前では、酒虫が青銅色の精神力に包まれたまま宙に浮かび、小刻みに震えていた。


先ほど酒虫は、生き残るために最後の力を振り絞り、

ラインの空界へ自らの意志を叩き込んだ。


しかし、その意志は逆矢の気配に触れた瞬間、あまりにも簡単に押し潰されてしまった。


その反動で酒虫自身も大きく弱り、残された意志は、すでに以前の百分の一にも満たない。


「逆矢」


ラインが意識を向けると、空界に眠る逆矢から、ほんのわずかな気配が漏れ出した。

それが酒虫へ触れた瞬間、激しく震えていた体がぴたりと止まり、死んだように動かなくなる。


酒虫に残された意志は、逆矢の気配を感じ取るなり、体の奥深くへ縮こまった。

抵抗するどころか、動くことさえできなくなっている。


ラインは思わず笑い、すぐに精神力を送り込んだ。


これまでの錬化では、酒虫の激しい抵抗に阻まれ

青銅色の精神力は、ほんのわずかずつしか体内へ入り込めなかった。


だが、今は違う。


流れ込んだ精神力は、何の抵抗も受けずに酒虫の体を満たしていく。

白い真珠のようだった体に青緑色が一気に広がり、数度瞬きをする間に、その全身を染め上げた。


すでに勝負は決まっている。


最後に残ったわずかな意志へラインの意志が触れると、

それも抵抗らしい抵抗を見せずに消えていった。


錬化完了。


これまでの苦労が嘘のようだった。

数日かけてもほとんど進まなかった酒虫の錬化が、

今では水を一口飲むよりも簡単に終わってしまった。


その瞬間、ラインと酒虫の間に、言葉では説明しにくい感覚が生まれた。

近い。あまりにも近い。まるで酒虫まで、自分の体の一部になったかのようだった。


(縮まれ)


そう思った瞬間、酒虫の体が小さく縮んだ。


(丸くなれ)


今度は形を変え、白く丸い団子のような姿になる。


命令を与えるというより、自分の手足を動かしている感覚に近かった。

ラインが精神力を引くと、酒虫は元の白く丸々とした姿へ戻る。


次の瞬間、酒虫は宙を跳ねるようにしてラインの体へ入り込み、そのまま空界へ姿を現した。


酒虫は空界の上空に眠る逆矢から、できるだけ距離を取った。

そのまま青銅色の霊海へ潜り、海面にぷかりと体を浮かべる。


太った体をゆったりと伸ばし、ときどき腰を左右へ揺らしている姿は、

まるで温かい湯に浸かっているようだった。


(逆矢が使えるなら、これからの予定も変えたほうがいいな)


ラインは空界から意識を戻し、今度は月印を取り出した。


やることは酒虫のときと同じだった。

逆矢からわずかに気配を漏らし、月印へ向ける。


その瞬間、月印の意志も完全に萎縮した。

抵抗する様子はなく、体の最も深い場所へ逃げ込み、

逆矢の気配が消えるのを待つことしかできない。


そこへ、ラインの精神力が一気に流れ込んだ。

透明な青い水晶だった月印は、瞬く間に鮮やかな青緑色へ染まっていく。


最後に残った意志も、ラインがわずかに力を込めただけで消え去った。

これで月印の錬化も終わりだ。


精神力を引くと、月印は元の透明な青い水晶へ戻った。

ただし酒虫とは違い、空界には入らず、ラインの右手人差し指へ溶け込むように消えていく。


そのあとには、淡い青色の三日月が浮かび上がっていた。


錬化を始めてから、ここまで五分もかかっていない。

これまでの苦労と比べれば、馬鹿らしくなるほどの速さだった。


しかも、消費した精神力もごくわずかだ。

酒虫の錬化には、この数日だけで霊石を十二個も使っている。


それに対して今夜は、霊石を一つも使わず、霊海にある精神力だけで月印まで錬化できた。


「ははは……逆矢がいるだけで、ここまで違うのか」


ラインはすっかり上機嫌になっていた。


(一環精霊なら、これからは逆矢の気配で意志を押さえ込める)

(私が末等資質でも関係ない。錬化だけなら、霊石もほとんど必要なくなる)


以前とは、まるで別世界だった。


逆矢は以前よりもはるかに弱っている。

それでも、六環精霊としての格まで失われたわけではない。


今のラインにとっては、その気配だけでも十分すぎるほど強力な助けになった。


(今年の一番は、もう無理だと思っていたが……まさか、こんなところでひっくり返るとはな)


ラインの瞳が鋭く光った。


(時間を無駄にする必要はない。今すぐ学堂へ行く)


最初に月印を錬化した生徒には、霊石二十個が与えられる。

今のラインにとって、その褒賞を見逃す理由など一つもなかった。


意識を向けると、空界に浮かんでいた逆矢の姿がゆっくりと薄れ、再び完全に見えなくなった。

どうやら眠りへ戻ったらしい。


続いて酒虫も霊海から出し、空界の目立たない場所へ隠しておく。

学堂で余計な確認を受け、酒虫の存在まで知られることは避けたかった。


それから十五分ほど後、ラインはローデン一族の学堂を訪れていた。


学堂長老はすでに眠っていた。

深い眠りの中、遠くから扉を叩く音が聞こえてくる。


コン、コン、コン。


何度か繰り返され、学堂長老はようやく目を覚ました。


「……誰だ、こんな時間に」


寝起きの不機嫌さを隠そうともせず、扉の向こうへ声を投げる。

すぐに、外から丁寧な返事が返ってきた。


「長老様、今年の生徒の一人が月印の錬化に成功しました」

「最初の一人が出たら、時間に関係なく知らせるよう命じられていましたので」


「……ああ」


学堂長老はしばらくぼんやりしていたが、やがて思い出したように眉を上げた。


「そうだったな」


ベッドから起き上がり、服を身につけながら尋ねる。


「誰だ? 今年の一番は。ライルか?」


扉の外に立つ部下が答えた。


「おそらくは。私は知らせを聞いて、すぐに長老様のところへ参りましたので、まだ本人の名までは確認しておりません」


「まあ、そうだろうな」


学堂長老は小さく笑った。


「時期としてもちょうどいい。」

「上等資質のライル以外に、これほど早く終えられる者もいまい」


「中等資質の生徒が霊石を使ったところで、最後には資質の差が出る。」

「だからこそ、資質というものは重要なのだ」


そう言いながら扉を開けると、外で待っていた部下はすぐに二歩下がり、頭を下げた。


「おっしゃるとおりです」


学堂の広間には十数本の蝋燭が灯され、夜中とは思えないほど明るかった。


ラインを迎えた職員は、すでに事情を聞き終えている。

しかし、その顔にはまだ驚きが張りついたままだった。


「待て。もう一度、確認させてくれ」


職員はラインの顔をまじまじと見つめる。


「君はライン・ローデンなんだな? ライル・ローデンではなく?」


ラインは静かにうなずいた。


ちょうどそのとき、学堂長老が広間へ入ってきた。

ラインと職員は振り返り、揃って礼をする。


学堂長老はラインを見るなり、満面の笑みを浮かべた。

そのまま大股で近づき、親しげにラインの肩を叩く。


「よくやった、ライル! 期待どおりだ!」

「やはり上等資質の才能は違うな。」

「中等以下の者がどれだけ努力したところで、そう簡単には追いつけん。ははは!」


ラインとライルは双子で、顔立ちもよく似ている。

そのうえ、学堂長老は夜中に叩き起こされ、最初からライルが一番だと思い込んでいた。


相手を間違えるのも、無理はなかった。


ラインは慌てることなく一歩後ろへ下がり、肩に置かれていた手から静かに離れた。

そのまま両手を背中へ回し、穏やかな笑みを浮かべる。


「長老様、人違いです」

「私はライン・ローデン。ライルは弟ですよ」


「……ん?」


学堂長老の口が、わずかに開いた。

顔に浮かんでいた笑みがそのまま固まり、改めて目の前の少年を見つめる。


眉間には、次第に深いしわが刻まれていった。

数秒の沈黙が流れる。


「……お前が、ライン・ローデン?」


「はい」


「月印を錬化したのか?」


学堂長老の視線が、すぐにラインの右手へ落ちた。

人差し指には、淡い青色の三日月が浮かんでいる。


見れば分かることだった。

それでも、思わず確認せずにはいられなかったのだろう。


「そのとおりです」


ラインは淡々と答えた。


学堂長老の表情が、さらに奇妙なものへ変わっていく。


「では……今年、最初に錬化を終えたのは、お前なのか?」


今度の問いは、本人も口にしてから妙だと思ったのかもしれない。

しかし、それも仕方のないことだった。


学堂長老は何十年も学堂を管理し、毎年のように新しい精霊使いたちを見てきた。

末等資質の生徒が最初の一人になった例も、まったくなかったわけではない。


ただし、これほど早い時期ではなかった。

まして今年は、上等資質のライルに加え、中等資質の生徒たちまでいる。


本来なら、ここでラインの名前が出てくるはずなどなかった。


ラインは少し考えるような顔をして、鼻先へ軽く触れた。

それから、穏やかな声で答える。


「私より先に終えた者がいないのであれば……」


わずかに笑った。


「そういうことになるのでしょうね」


学堂長老は何も言わなかった。

ただラインを見つめたまま、しばらく動かなかった。


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